リリース17は「6G」となるのか?
横田氏は講演の最後に、「2021年9月頃の完成を目指しているリリース17については、5Gの次の世代である「6G」(第6世代)の仕様策定が中心になるという見方もありますが、この辺については3GPPでは正式にまだ何も決まっていません。リリース17では、引き続き5Gの機能拡張がメインとなると見られています。なお、リリース17については、更なる機能拡張に向けて、2020年12月の3GPP会合で審議内容とスケジュールが具体的に決定される予定となっています」と締めくくった。
重要な3GPP MRP(市場代表パートナー)の役割
横田氏に続いて、華為技術日本(ファーウェイ・ジャパン)の住田 正臣(すみた まさおみ)注6氏は、「3GPP Release 16特長紹介〜産業連携と自動化の促進」と題して、講演した。
特に、5Gがもたらす産業構造の変革の視点から、3GPP MRP(市場代表パートナー、後述)と5G標準化における役割、バーティカル業界注7が影響を与えたリリース16の機能と今後の展望について、自動車業界(5GAA)や製造業界(5G-ACIA)などの例を挙げて解説した。
3GPPにおけるMRPの重要な役割
〔1〕5Gの豊富なユースケースを3GPP仕様に反映
3GPPは、「パートナーシッププロジェクト」といわれるように、パートナーによって支えられている組織である。このパートナーとしては、前述した①SDO〔世界の主要な国・地域の7つの標準化組織、これはOrganizational Partners(組織パートナー)と呼ばれる〕とともに、②MRP(Market Representative Partners、市場代表パートナー)が重要な構成メンバーである。
このため、MRPも3GPPの仕様策定範囲(スコープ)にある市場の要求条件(サービスや性能,機能など)を、コンセンサスのとれた共通の観点から推奨し策定する責務を負うことが3GPPの規定となっている。
実際に3GPPの5G標準化活動では、従来からのICT(情報通信)業界団体組織に加えて、バーティカルといわれる新たな産業分野の業界組織からの加入が増加している。これらのバーティカル組織の重要な役割は、それぞれの産業分野で、5Gを利用するユースケースや技術的要求条件を、タイムリーかつ効率的に3GPP仕様に反映させることである。
2020年11月現在、MRPには21組織が参加注8しているが、ここでは、そのうちの5GAAと5G-ACIAについて紹介する(後述の事例1、2を参照)。
- 5GAA:5G Automotive Association、5G自動車協会(本部:ドイツ・ミュンヘン)
5Gを利用したコネクテッドカーサービスの検討推進を目的として、自動車関連企業と移動通信関連企業で設立した団体。現在、自動車製造メーカー、通信機器・インフラ・チップセットメーカー、通信事業者などからの参加メンバーは130社以上(2020年11月現在)。 - 5G-ACIA:5G Alliance for Connected Industries and Automation、接続産業と自動化のための5Gアライアンス。産業用5G標準を形成することを目的とするグローバルフォーラム。参加メンバー61社(2020年11月現在)。
〔2〕5Gバーティカルワークショップ
3GPPでは、多様なバーティカル業界と3GPPとの間で、
- 意見の交換や連携、協業の基盤を構築し、相互の理解を促進する、
- バーティカルが5Gのユーザーとなり、3GPPに対する品質の高い(すなわちバーティカル業界にマッチした)技術要件への対応を促進する、
目的で、5Gバーティカルワークショップを開催し、バーティカル業界間の横の連携も深めている。すでに第1回が2019年2月にブルッセルで開催されたのを皮切りに、第5回が2020年7月に開催(リモート開催)されている。
次に、MRPが活躍している事例を紹介しよう。
▼ 注6
住田 正臣 氏:華為技術日本株式会社 標準化・事業推進部
3GPPコーディネーション ディレクター
▼ 注7
バーティカル(Vertical)業界:バーティカルとはもともと「垂直的な」という意味である。ここでは垂直的に統合されている自動車業界や製造業界、電力業界などのことを総称して、「バーティカル業界」と呼称している。