EVにおける新しいビジネスの展望
ライシャート氏は、EVにおける今後の新しいビジネスの展望について、
「ボッシュのクラウドベースのBitCサービスによって、例えば図4に示すように、これまで難しかった蓄電池に関する寿命測定とその最適化や異常検出などが、安く、早く、正確にできるようになった」と述べた。
図4 多種多様な技術および商業サービスを可能にするBitCサービスのオプション
再保険:保険会社が自分で引き受けた保険のうち、主として高額契約などについて、保険契約のリスクを分散するために、国内外の再保険引受会社と結ぶ保険契約のこと。
出所 カロリン・ライシャート(ロバート・ボッシュ)、「自動車の電動化が創り出す新しい価値」、Energy Storage Summit Japan 2020(2020年12月8日)を日本語化して作成
続けて、「また、VDEからの認証を受けることによって、VDEで評価された信頼性の高い蓄電池仕様の認証書を売買するビジネスや、今後重要にとなる蓄電池のセカンドライフ、すなわち蓄電池を二次利用することよる収益化など、新しいビジネスも可能になります。そのほか、蓄電池に関する諸課題を解決することが可能になりました」と述べ、BitCによって、EV全体のビジネスが、蓄電池のセカンドライフ(二次利用)も含め、魅力的なビジネスへと大きく発展させることが可能であることをアピールした。
関西電力:EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会
世界各国のEVの普及に対する政策
関西電力株式会社 経営企画室 イノベーションラボ 担当部長/モビリティユニット チーフストラテジストの上田 嘉紀(うえだ よしのり)氏は、「EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会」と題して講演を行った。
図5は、脱炭素社会に向けて、国際的に環境規制が強化されている中で、世界各国のEVの普及に対する政策を示したものである。
図5 世界各地で自動車メーカーへの“環境規制強化”と競争状態
出所 上田 嘉紀(関西電力)、「EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会」、Energy Storage Summit Japan 2020、2020年12月8日
- ガソリン車、ディーゼル車の新規販売を禁止するのは、2025年のノルウェーを皮切りに、2030年には多くの欧州諸国が、2035年には米国・カリフォルニア州とカナダ・ケベック州が、2040年にはフランスとスペインが禁止を決めている。
- 2035年からは英国が、ハイブリッド車の新規販売を禁止する。
- 同様に中国も、2035年から新規販売の半分をハイブリッド車へ、残り半分をEVなどの新エネ車へとする。
- 日本はこれまで、2030年に燃費を3割改善、およびEV・PHV(プラグインハイブリット車)の比率を2~3割とする方向であった。しかし、2020年12月4日の梶山経産大臣の閣議後の記者会見注9において、「自動車の電動化というものは不可欠」とし、2020年内には具体的な計画案を策定する方向で検討していくとした注10。
なお、日本の場合、「英国のハイブリッド車の新規販売禁止」と異なり、電動車を「ハイブリッド自動車(HV)・プラグインハイブリッド自動車(PHEV)・電気自動車(BEV)・燃料電池自動車(FCV)」と位置付けており、ハイブリッド車の新規販売は禁止はしない方向で議論が行われている。すなわち、ガソリンのみで走る自動車(純ガソリン車)のみを禁止の対象とした方向で、検討が行われている。
日本における乗用車とEVの普及状況
〔1〕EVは0.5%、ハイブリッド車は30%
図6は、日本における乗用車とEVの普及状況である。
図6 日本における乗用車およびEVの普及状況(累積台数)
出所 上田嘉紀(関西電力)、「EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会」、Energy Storage Summit Japan 2020、2020年12月8日
図6に示すように、乗用車は徐々に増加し、日本全体で累積保有台数(ストック)で6,000万台を超えたところで、そのうちEVは12万台である。これは、累積台数の0.2%で程度である。
ちなみに、年間の乗用車の430万台(2019年の新車乗用車の販売台数)のうち、EVは2万台程度で、これは0.5%と非常に低い普及率である。一方、ハイブリッド車は約30%と140万台を超え、アーリーマジョリティ(初期の多数採用者)となっている。EVは、現在、イノベーター(革新的採用者)が採用しているという状況である注11。
〔2〕EVの普及の阻害要因と促進要因
EVには、「走行時に排気ガスを出さない」「静か」「燃料費が節約できる」などのメリットがあるが、現状では車両価格が高いことなどが、日本での普及の阻害要因となっている。
しかし、前述したように、国際的にガソリン車の販売禁止など規制の強化などもあり、自動車メーカー各社は、市場にEV車を次々に投入し始めている。海外のEV車はまだ価格的に高価な傾向にあるが、手に届くEV車も出始めている。
EVの航続距離(EVが満充電時に走行できる距離)については、搭載される蓄電池の容量が大きくなってきたところもあり、最近は、EVでも1回のフル充電で200~400㎞、さらに600㎞まで走行可能になってきているため、これらがEV車普及の促進要因となってきている。
▼ 注9
「梶山経済産業大臣の閣議後記者会見の概要」、2020年12月4日
「(日本で)2030年代半ばにガソリン車を禁止する」との報道に関する質問に対しては明言は避けた。
▼ 注10
この部分は編注。
▼ 注11
第2回 「モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」資料3、2020年9月14日の35ページ参照