[低炭素社会の実現へ向けて住宅ビジネスに新しい波]

低炭素社会の実現へ向けて住宅ビジネスに新しい波 <前編>

スマートフォン/AIスピーカー/HEMSのIoT社会基盤をベースに
2018/02/08
(木)
奥瀬 俊哉 コントリビューティングエディター/インプレスSmartGridニューズレター編集部

 スマートフォンにおけるSNSサービスは、当初、コミュニケーションツールからスタートをしたが、今では、AIスピーカーやさまざまな機器との連携でIoTサービスとしてその領域を拡大している。
 また、IoTサービスの1つとしてHEMS製品の市場導入でスタートしたエネルギービジネスにおいては、低炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギー(再エネ)を100%活用した住宅ビジネスが、新たなステージへと動きだした。
 ここでは、前後編にわたって、スマートハウスとIoT機器、IoT機器とエネルギービジネスを連動した新しい動きについて解説する。

IoTの推進基盤となるスマートフォンやAIスピーカー

日本の独立系市場調査会社ICT総研によれば、急速なスマートフォンの普及を背景に、日本において、LINEやツイッター、フェイスブック、インスタグラム、グーグル+などのSNS(ソーシャルネットワークサービス)を利用しているユーザーが急速に拡大している。

図1に示すように、その利用者数は2017年末に7,000万人を超える勢いで(国内の2016年末のネットユーザー数は9,977万人と推定)、このまま推移すると2019年末には7,732万人へと、8,000万人に迫る勢いで増大すると見られている。これはネットユーザー全体の76.7%に達する見通しだ。

これらに加えて、最近では、音声認識によるアマゾンエコー(Amazon Echo)やグーグルホーム(Google Home)、LINEのクローバウェーブ(Clova WAVE)などのAIスピーカーが登場し、普及し始めている。

このように一般ユーザーが、日常的にスマートフォンやAIスピーカーなどを使いこなす環境(リテラシー)が登場してきたことで、遠隔からスマートフォンで家の空調や照明のON/OFF制御をしたり、家の中で、音声(AIスピーカー)で天気予報への問い合わせをしたり、聴きたい音楽を選択したりすることが可能となっている。

すなわち、スマートフォンやAIスピーカーなどの普及は、今後、IoTシステムから提供される多様なサービスを、容易に利活用できる社会的な推進基盤(プラットフォーム)となってきているのだ。

図1 日本におけるSNS利用者数の推移

図1 日本におけるSNS利用者数の推移

出所 ICT総研「2017年度 SNS利用動向に関する調査」、2017年10月11日

IoT時代に想定されるさまざまな新サービス

〔1〕スマートフォンと連携した新たなサービスの可能性

 多くの人々の生活の一部として利用されているスマートフォンは、現在のサービスからさらに進んだサービスの可能性が見えてきている。例えば、土地勘のない旅先で食事をする際に、前日ならグルメサイトで店の候補検索や来店時間の予約ができるが、当日、しかも直前の予約は、店に電話をしなければならない。

しかし、例えば店のテーブルに人がいるかどうかを確認できるセンサーを搭載しておき、このセンサーとスマートフォンで通信が行うことができれば、当日(直前)予約はスマートフォンから可能となる。このような発想を進めていくと、一段進んだビジネスの発想も可能となる。

また、仕事や旅行で目的地に到着してから、レンタカーを借りる際に、家族連れなどの場合は、同時に必要となるベビーカーや車いすなどを、その近くでレンタルできる仕組みを盛り込んでおけば、利用者にとってもサービス提供者にとってもビジネスを拡大することが可能となる。

〔2〕エネルギーと連動したサービスの可能性

次に視点を変えて、エネルギーの面から見てみよう。

例えば、仕事や旅行で、滞在するホテルの部屋の情報が事前にスマートフォンで確認できれば、暑い季節には予約した部屋のエアコンの温度を事前に操作して、到着時に快適な環境にしておくことも不可能ではない。また、離島などにおいては、オフグリッド・ハウス注1やオフグリッド・ホテルを実現し、太陽光発電や電気自動車をエネルギー供給源として、低炭素な生活を体験することも可能となる。

ただし、新たなサービスとして体感してもらうには、ホテル側は、太陽光発電や風力発電などを設置した再生可能エネルギー(以下、再エネ)による電力の利用や、HEMSと連携させた環境を整備することが必要である。これによってホテル側は、室温効果ガス(CO2)の削減に貢献するとともに、新たな付加価値サービスの提供が可能になる。

〔3〕積水ハウス:ZEH対応の戸建て住宅を積極的に導入

積水ハウスは、HEMS機器を導入したZEH(ゼッチ。ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)対応の戸建て住宅を積極的に導入することによって、低炭素社会の実現を目指している。

また2017年10月には、同社は、事業活動で使用する電力を100%再エネでまかなうことを目指して設立された国際イニシアティブ「RE100」(Renewable Energy 100)に加盟し注2、次のような目標設定を発表した。

  1. 2040年までに事業活動で消費する電力の100%を再エネとする。
  2. 中間目標として2030年までに50%を再エネにする。
  3. 太陽光発電を設置した住宅の顧客にとってのFIT制度終了後のメリットを創出する。

歴史的に見ると積水ハウスは、建設業界でもいち早く、すでに2009年に環境配慮住宅「グリーンファースト」の発売を行っている(写真1)注3

このように業界に先駆けて低炭素と快適な生活を両立する住まいの供給を行うことによって、これまでに650MW(=65万kW。大型火力発電約1基分)を超える大量の太陽光発電を供給してきた。

写真1 2009年3月に発売された環境配慮住宅「グリーンファースト」の外観

写真1 2009年3月に発売された環境配慮住宅「グリーンファースト」の外観

出所 Sekisui House News Release 2009年11月24日

このようなビジネスを展開にするには、

  1. シーズ(新しいアイデアによって新規事業を生み出すこと)と
  2. ニーズ(消費者が求めている必要性)

の隙間を埋めることが課題となる。

これらの課題を解決する最近の例として、例えば、自動車を「自分で所有すること」(ニーズ)から「皆で共有する」(シーズ)というシェエアリング・ビジネス(カーシェアリング、自転車シェアリングなど)がIoTサービスの1つとして登場し、ビジネスとして確立され始めている。


■注1■
オフグリッド・ハウス:グリッド(Grid)とは電力会社の送電網のこと。オフグリッドとは、この送電網からの電気を使用しないで、自家発電で電気をまかなうこと。オフグリッド・ハウスとは、電力会社からの電力供給を受けないで、太陽光発電などの再エネで電気を自給自足できる家のこと。

■注2■
積水ハウス・ニュースレター、2017年10月20日

■注3■
同社の2016年度の新築戸建住宅におけるZEH「グリーファースト ゼロ」の販売実績は74%にも達している。

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