EVの普及の可能性
次に、EVの普及について、今後の可能性を見てみよう。
図7は、兵庫県における乗用車14,360台と貨物車588台の走行距離の分析結果である注12。
図7 全台EV化の可能性(例:兵庫県における1日の走行距離分布、2005 年全国道路・街路交通情勢調査データより)
乗用車は、概ね全台EV化が可能〔Origin(自宅)での充電を基本〕。貨物車は、 経路充電・目的地充電等〔Destination(勤務地・出先等)〕での充電が必要。
出所 上田 嘉紀(関西電力)、「EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会」、Energy Storage Summit Japan 2020、2020年12月8日
図7左に示すように、乗用車の走行距離は、平均1日30km程度で、長くても150㎞くらいである。このため、1回の充電で200㎞あるいは400㎞走るようなEVが出てくると、航続距離は普及の阻害要因にはならないと考えられる。
一方、図7右に示すように、貨物車は乗用車に比べて1日の平均走行距離は170㎞と長く、さらに800㎞を超える貨物車もある。このような場合は、立ち寄り地での充電、あるいは目的地への経路途中での充電が必要となる。
すなわち乗用車は、走行距離の点からはほば全台数をEV化することが可能〔Origin(自宅)での充電が基本〕であるが、貨物車は経路充電や目的地充電などにおける充電〔Destination(勤務地・出先等での充電)〕が求められる。このようなことから、最初は、走行距離の短い貨物車に限ってEV化することも考えられる。
ゼロエミッションに向けた充電用の電気
「ここで忘れてはならないのは、“EVの充電に必要な電気をどうするか”ということである。充電用の電気は、ゼロエミッションでサステナブルにしていくことが重要ですが、日本では再生可能エネルギーや原子力などを使用していくことが考えられます」と上田氏は述べる。
続けて、「ゼロエミッションといえば、EVだけでなく、水素を燃料とするFCV(燃料電池自動車)も当然選択肢に入ってきます。しかし、水素ステーションはまだ少ないので、考慮する必要があります。現在、EVステーションは日本で約2万カ所くらい設置されていて、そのうちの4割弱の7,700カ所が急速充電ステーションとなっています(注:ガソリンスタンドは約3万カ所程度)。このため、EVはほぼ面的に充電できる状況になってきています。一方、水素ステーションは、まだ全国に135カ所で、点で存在している状況です。したがって、前述したように役割分担としては、当面は、貨物を輸送する場合、FCVで大量に拠点間を輸送し、EVは域内で少量の輸送を担っていくということが考えられます」と述べた。
関西電力グループ“eモビリティ”ビジョン
関西電力では、前述の内容を背景に、今後EVが普及していくことを予測し、同社が描く将来を見据えた、関西電力グループ“eモビリティ”ビジョンを策定し、2019年10月に発表した注13。このビジョンでは、EVの普及とインフラの整備に取り組み、社会課題の解決に取り組むことを掲げている。
このビジョンに基づいて、EVに搭載された蓄電池をどのように生かして活用していくかを中心に、ここでは見ていく。
表3 急速充電器の大容量化
出所 上田 嘉紀(関西電力)、「EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会」、Energy Storage Summit Japan 2020、2020年12月8日
〔1〕急速充電の大容量化
EV普及の阻害要因になっている1つに、充電に時間がかかるという問題がある。これを解決する手段として、表3に示す、急速充電器の大容量化が考えられる。
現在、自宅では3kWや5kWなどの普通充電器が使用されているが、急速充電器については50kWや100kW、最近では900kWの規格についても議論されている。
当然、急速充電器は早く充電できるが、次のような課題もある。
- そもそも充電設備のコストが高い。
- 受電用の設備を追加する必要があり、コストがかかる。
- 充電用の電力契約が増えてしまうこともある。
- 受電用の設備の設置スペースが必要になる。
- 熱が出るので、常に最大電力で充電できるわけではない。
- 大容量化に伴ってケーブルも太くなり、コネクタも大きくなる。
〔2〕蓄電池の交換方式
このようなことから、EVの蓄電池をステーションで充電するのではなく、すでに充電されている蓄電池と交換するという交換方式もある。しかし、自動車の場合、走行上のバランスから、上部に軽いものを下部に重いものが配置されているため、蓄電池は車体の底に設置される。このため乗用車の場合、現状では交換方式の採用は難しい。
一方、バイクのような本体が小型のものは、蓄電池の交換方式はあり得る。そこで関西電力では、図8に示すように、岩谷産業や日本マクドナルド、読売新聞大阪本社、京都市などと共同して、蓄電池のシェアリングの実証を行っている注14。
図8 バッテリー交換方式でバッテリーシェアリングを実現する例
出所 上田 嘉紀(関西電力)、「EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会」、Energy Storage Summit Japan 2020、2020年12月8日
さらなる利便性向上:無線充電
「充電に関しては、急速充電器は現状では4割程度であるため、幹線道路以外は空白地帯となっています。このため、さらなる増設が必要です。しかし、充電スタンドにたどりついたが、すでに充電車がいて待たなくてはならないこともあります。そのため、充電スタンドの空き情報の表示の有無や、予約が可能かどうかなど、充電器利用の利便性の向上も必要とされています」と上田氏は語る。
充電方式の規格については、チャデモ規格(日本)、コンボ規格(欧米)、スーパーチャージャー規格(テスラ)などがあるが、規格のバージョンによって、車体と接続する場合に制約が生じている場合もある。
また今後、自動運転車が登場してくると、充電する場合だけ人が介在するのは不都合なので、ケーブルでつないで充電するのではなく、無線での充電が可能な「無線充電方式」も選択肢として挙げられている。
例えば、図9左は、2020年10月31日~11月6日、栃木県宇都宮市大谷地域観光交通社会実験注15で実証された際の、ダイヘンの無線充電システムである。また図9の右上は、同じ無線充電システムを使用した、大阪大学吹田キャンパスの自動運転車(タジマが開発したジャイアン)を無線充電する実証注16、図9右下は、テムザック(tmsuk)が開発した1人乗りのロデムの無線充電の実証風景である。
図9 無線充電でさらなる利便性向上
出所 上田 嘉紀(関西電力)、「EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会」、Energy Storage Summit Japan 2020、2020年12月8日
「以上のようなEVに関する価格面や航続距離の問題、充電に対する不安などの課題が払拭され、利便性が向上すれば、今後EVが普及し、ゼロエミッション時代に貢献していくことになるでしょう」と上田氏は述べる。
▼ 注12
国土交通省が定期的に実施している調査結果。道路交通に関する全国規模の調査「道路交通センサス」のデータをもとに分析されている。ここでは、兵庫県における1日の走行距離分布 [2005年全国道路・街路交通情勢調査データ] を使用。
▼ 注13
▼ 注14
脱炭素社会を目指した電動バイクのバッテリーシェアリング推進協議会」の設立について
▼ 注15
栃木県宇都宮市大谷地域観光交通社会実験
▼ 注16
大阪大学 プレスリリース「大阪大学内で多機能 e モビリティ実証実験を実施~実験:2020.11.30(月)−12.4(金)@大阪大学吹田キャンパス」、2020年11月27日