IoTと連携したエネルギー新ビジネス「ERAB」の展開
〔1〕従来の電力システムの限界から脱皮
3.11(2011年3月11日)に発生した 東日本大震災(震度7)によって福島第一原子力発電所で爆発事故が発生し、東北地方を中心に数百万戸が広域的に停電した。それまで、世界で最も停電の少ないと言われてきた日本における大規模な停電は、一般家庭を含んだ電力の需要家側に大きなショックを与えた。このような震災後の電力需給のひっ迫した状況を、需要家側が身をもって体験することになった。
3.11を契機に、従来の電力システムの抱えるさまざまな限界が明らかになってきた。このため、「①電力の安定供給を確保する」「②電気料金を最大限抑制する」「③需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する」などの目的を達成するため、電力のシステム改革が推進された。その後、2016年4月には電力小売完全自由化、2017年4月にはガスの小売完全自由化が実施され、日本には総合エネルギー市場が誕生し、新ビジネスが次々に誕生した。
この電力システム改革において、特にデマンドレスポンス(Demand Response)という「電力の需給管理」が急速に注目されるようになった。
電力の需給管理(DR)とは、一般家庭などの電力需要家側の電力消費を調整する(例:節電する)ことによって、電力会社側の負担を軽くし、最適な電力の需給バランスをとる仕組みである。
このような仕組みを実現する一環として、スマートハウスなどの需要家側には、日本全国でスマートメーターの設置やHEMSの導入が行われているが、デマンドレスポンスが本格的に実現されるのは、これからである。
〔2〕急速に高まるDRやVPP、ERABへの期待
従来の電力システムでは、旧電力会社10社を中心に、電力系統側で集中的に電力の需給バランスを調整してきた。しかし、その後、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)や蓄電池、エコキュートなどの需要家側のエネルギー資源(エネルギーリソース)が普及し拡大してきた。これに加えて、IoTを活用した統合的な制御技術の発展などによって、電力システムを取り巻く環境は大きく変化してきた。
これによって、需要家側(スマートハウス側)の発電設備や蓄電設備などのエネルギーリソースや、供給側の系統(電力システム)に直接接続される発電設備や蓄電設備などの分散型エネルギーリソースを活用し、
- 従来のような単に電力消費量を削減する省エネの強化だけでなく、
- 電力供給状況に応じてスマートに需要パターンを変化させる注1
など、いわゆるデマンドレスポンス(DR)やVPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)および、これらを活用したERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス、エネルギー資源統合ビジネス)への注目が高まっている。
ここで、VPP(バーチャルパワープラント)とは、図1に示すように、工場や家庭などがもつエネルギーリソース(太陽光発電や蓄電池、発電設備など)を、高度なエネルギー管理技術によって遠隔かつ統合制御し、あたかも1つの発電所のように機能させ、これによって電力の需給調整を行う技術である。
図1 アグリゲータとVPP(バーチャルパワープラント)、集中電源の関係
出所 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/smart_house/pdf/010_01_00.pdf
■注1■
例えば、電力が不足しそうなときは「家庭のエアコンの温度を上げてもらうように要請する」ような需要パターンの変化など。