[特集]

[Energy Storage Summit Japan 2020レポート]EV大量導入時代の新しい価値の創造と新ビジネス

2021/01/10
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

EVの大量普及における電力系統への影響

 次に、EVが大量に普及してきたときに電力系統に与える影響を見てみよう。

〔1〕電力の供給側のメリット

 図10は、前出の図7(全台EV化の可能性)に示した、兵庫県の乗用車が、全台(乗用車:14,360台)がEVに置き換わった場合、電力系統にどのような影響があるかを、交通センサスのデータを使用して、出発時(Origin)、到着地(Destination)のデータに基づいて、エージェントシミュレーション注17を行った結果である。

図10 EV大量普及時の充電需要

図10 EV大量普及時の充電需要

EVの大量普及時に充電器接続とともに充電し始める場合、電力需要はギザギザした 「ドラゴンカーブ」 を描く。
出所 上田 嘉紀(関西電力)、「EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会」、Energy Storage Summit Japan 2020、2020年12月8日

 図10左は、出発時に自宅(Origin)のみで充電する場合である。24MWを超えるピークが、夜に出てくる。一方、図10右は、自宅および勤務先(Destination)などで充電する場合である。この場合は、電力の需要が分散し最大電力は24MWよりも少し下回っている。すなわち、勤務先(Destination)などで充電できると、電力系統への影響が緩和されることがわかる。この場合サンプル数(14,360台)は非常に小さく0.6%程度であり、兵庫県の乗用車全台数で同様のシミュレーションを行うと、この170倍程度の電力需要と想定される。

 170倍ということは、24MW×170=4080MW≒4GWくらいになる。関西電力の最大の供給力は、35GW(これがすべて兵庫県を賄うわけではないが)なので、4GWは35GWに対して、10%以上となるため、一定のインパクトがあると考えられる。

 このため、関西電力の電力設備に余裕がある時間帯に、EVの充電のタイミングをずらせば、電力需要を均等に近づけられる(ピークの電力需要を低くできる)ため、ピーク時間に向けて設備の増強をせずに済むところから、電気料金を上げなくて済むようになる。

〔2〕電力の需給側(ユーザー)のメリット

 一方、電力の供給側だけでなく、ユーザー側にとっても電気を安く充電できることはメリットになるので、現在、出光興産と住友電工、関西電力の3社は、卸電力市場価格と連動させて、ダイナミックプライシング(時間別料金)注18の実証を行っている(詳細は本誌2020年7月号参照)。具体的には、アグリゲータ(関西電力)が制御して、ダイナミックプライシングを適用できるよう、EVの充電時間をシフトする実証実験である。これは、VPP構築実証事業の一環として行われているが、EVの充電が再エネでまかなえるようになれば、今後、再エネを余すことなく使えるという大きなメリットにもなる。

 関西電力は、このVPP構築実証事業において、すでにEV/PHEVを93台用いた実証を行ってきている。その実証結果を図11に示す。

図11 EVによる需要創出型の上げDRを実証

図11 EVによる需要創出型の上げDRを実証

出所 上田 嘉紀(関西電力)、「EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会」、Energy Storage Summit Japan 2020、2020年12月8日

 図11は、EV/PHEV 93台を11:00~14:00の3時間接続し、きちんと充電できるかどうかを実証した図である。図11に示す青色破線で示すベースライン(EV/PHEV充電の平均電力)に比べて、橙色実線の当日の制御実績が上に上がっている(上げDR:電力の需要量を増やすこと)ことからわかるように、その時間帯に蓄電池に充電が行われた実証結果が示されている。

 このように、将来EVが大量に普及すると、使用されていないEVの蓄電池を含めて、アグリゲータが分散型資源を集めて、実際の電気の売買を行うという新しいビジネスに発展していく可能性がある。

蓄電池の再利用でサーキュラーエコノミーの実現

 上田氏は最後に、「今後、EVに搭載されていた劣化した蓄電池がたくさん出てきますが、その再利用を考えておく必要があります(図12)。劣化した蓄電池は、電力系統の安定化や家庭の再エネの電気を貯めたりしたりして、再利用できる可能性があります。まさに、サーキュラーエコノミー(循環型経済)です。再利用の際に重要となるのは、ボッシュの方が話されたように、蓄電池の使用状態(SoH:State of Health)のデータです。これは蓄電池を再利用する場合に、安全にしかも有効に使ううえで必須です。そのようなデータがあれば蓄電池に関して一定の保証にもつながっていきます。ここにも、新たなビジネスが考えられるのです」と締めくくった。

図12 モビリティに搭載された蓄電池を再利用して活用するイメージ

図12 モビリティに搭載された蓄電池を再利用して活用するイメージ

出所 上田 嘉紀(関西電力)、「EV大量導入時代のバッテリーの活用と新たなビジネス機会」、Energy Storage Summit Japan 2020、2020年12月8日


▼ 注17
エージェントシミュレーション(Agent Simulation):一定のルール(規則)に基づいて、走行するエージェント(自動車)の振る舞いなどの複雑な現象をシミュレーション(模擬実験)すること。

▼ 注18
ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing):時間別電気料金。固定的な電気料金ではなく、卸売電力市場の価格に連動した「時間別料金」の設定を行い、EV/PHEV充電用の電気料金を安くすること。

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