エネルギーシステムのコストの分析
次に、EC(欧州委員会)が2018年11月に発表したエネルギーシステムのコストに関する分析結果を見ていく。
図3に示すように、エネルギーシステムにかかる全体のコストは2070年まで増加していく。脱炭素におけるコストのシナリオはいろいろ検討された(図3の緑線、赤線、桃線、青点線など)が、いずれのシナリオでもコストは増加していく。
図3 エネルギーシステムのコスト(欧州委員会による)
出所 自然エネルギー財団、「脱炭素で先頭を走る欧州=2050年ゼロエミッションの戦略と技術」、メディア・セミナー資料(2020年12月15日)を編集部で一部加筆・修正
特に、エネルギーシステムを刷新するために必要な発電設備をはじめとする装置や機器、車両(EV等)などのコストが大きく、それらに脱炭素を実現するためのコストが加わるからである。
このため、脱炭素化を推進すると、現状のままエネルギーシステムを推移した場合の「ベースライン」(図3の薄青点線)と比べて、いずれもコストが多くかかることになる。
そこでEUでは、2050年に向けて、次の2つの「脱炭素2050年」のシナリオが検討されている。
- シナリオ1:脱炭素2050年(80%削減+CCS)、図3の黄線
- シナリオ2:脱炭素2050年(80%削減+循環型経済注4)、図3の紫線
脱炭素2050シナリオは、それぞれ2045年、2050年をピーク(図3の黄点線の円と紫点線の円)にコストが上昇していくが、それ以降は脱炭素効果によってコストが下がっていく(特に上記のシナリオ2は最もコストが安くなる)と予測されている。これはエネルギー消費と化石燃料の削減効果などによるものである。
このようなことから、EUは、長期的に見ると脱炭素シナリオ2を選択したほうが、エネルギーコストの点で有利になると予測している。
「さらに、脱炭素による気候変動や大気汚染の抑制などの便益もあるため、これらを組み合わせて長期的に見ると、システムコストが上昇することもそれに見合うだけのメリットがある、というのがEUのシナリオなのです」(石田氏)。
EUの温室効果ガス削減目標と進捗状況
表4に、2050年に向けたEUの温室効果ガス(CO2)削減目標(1990年比)と、その進捗状況を示す。
表4 EUの中間目標と進捗状況
エネルギー効率:従来の手法 (Business As Usual) と比較したエネルギー消費量の削減率
出所 自然エネルギー財団、「脱炭素で先頭を走る欧州=2050年ゼロエミッションの戦略と技術」、メディア・セミナー資料、2020年12月15日
EUでは、温室効果ガスの削減目標について、「2020年目標」と「2030年目標」があるが、すでに「2020年目標」の20%削減は達成している。また、2030年の削減目標は当初40%削減であったが、2020年12月11日に、55%削減と一気に15ポイントも引き上げた。
「このことから見ても、いかにEUが2050年のCO2排出ゼロに向けて、意欲的に取り組んでいるかを如実に物語っています」(石田氏)。
自然エネルギーの導入目標や、エネルギー効率の改善目標は、表4に示す通りである。表4に見られる2018年の自然エネルギー導入実績は、最終エネルギー消費の18%となっているが、これを分野別に見ると、(表4には示していないが)電力分野の導入比率は32%、温冷熱(地域熱供給など)分野が20%、運輸分野が8%と低くなっている。
特に自然エネルギーの導入比率の低い運輸部門については、今後自動車の電動化が進むにつれて電気自動車(EV)などが普及していくため、電力分野とともに上昇していくものと見られている。
▼ 注4
循環型経済:Circular Economy。資源の循環を通じた新しい経済の在り方。従来のような「資源を採掘(調達)し、製品を製造し、廃棄する」という流れの経済ではなく、「廃棄」されていた製品や材料等を新たな「資源」として捉え、廃棄物を出さずに再利用して資源を循環させる経済の仕組みのこと。環境負荷と経済成長を分離させ、持続可能な成長を実現するための新しい経済モデルとして注目を集めている。