5Gショーケースの特徴と狙い
〔1〕大きく変化するネットワークの役割
5Gサービスの登場によって明らかになってきたことは、ネットワークシステムに求められる役割が大きく変化してきたことだ。
シスコ 業務執行役員 情報通信産業事業統括 システムズエンジニアリング本部長(当時)注7の吉田 宏樹(よしだ ひろき)氏は、「5Gがもつ可能性を最大限発揮させ、近未来の新サービスを実現するには、企業ネットワークとサービスプロバイダーネットワークの双方が進化し、究極的には両ネットワークをシームレスに連携させる必要があるのです」と語る。
〔2〕今後のネットワークインフラの課題
しかし今後、新しい付加価値の高いサービスを実現するには、ネットワークインフラ(ICTインフラ)には、次のような多くの技術的な課題がある。
- 多様なアクセスの統合管理
5G時代になったからといって、すべて5Gに集約されるわけではない。固定回線(有線)、企業Wi-Fi、公衆Wi-Fi、4G、さらにローカル5Gなど、さまざまなアクセス方式が混在する。その際のID/Securityをどのように管理し、シームレスな顧客体験を提供するかは、5G時代に解決しなければならない大きな課題の1つである。 - 分散コンピューティング環境
5Gの特長を生かし、高速・低遅延で、かつ柔軟なサービスを提供する分散コンピューティング環境が構築されるが、これを実現するために最適な設計方法や、その管理方法などをどのように定義するか。 - セキュリティアーキテクチャ
分散コンピューティング環境を構築する過程で、ネットワークインフラ自体も仮想化/ソフトウェア化/分散化/オープン化されるようになるため、攻撃の標的となる箇所が増え、システム全体の脆弱性が増える。これに向けたレジリエントな、セキュリティ・バイ・デザイン注8によるセキュリティアーキテクチャをどう実現するか。 - ネットワークスライシング
5Gで最も注目される技術の1つはネットワークスライスシング注9であり、「5G SA」と呼ばれるモバイルパケットコア技術方式が導入・普及する2022〜2023年頃に実装が可能になる。エンドツーエンドのサービス品質を管理し、他のシステムとAPI連携する仕組みが注目されている。複数のユーザーを重畳しながらどのように品質・セキュリティを担保するか、さまざまな議論がされている。 - アプリケーションパフォーマンスの可視化
5Gのスライシング環境でのパフォーマンスを、アプリケーションレベルで可視化するにはどのようにすればよいか。 - クロスドメイン間のAPI連携
サービスプロバイダーなどからマネージドサービス注10として提供されている、ローカル5Gやプライベート5Gを、自社のITインフラに実装(導入)する場合、企業間のクロスドメイン(複数のドメイン)間のAPI連携をどのようにするか。
5Gショーケースのアーキテクチャ
「5Gの可能性を最大化するには、前提として5G対応スマートフォンの普及や、5G基地局の設置が拡大・整備されていくということがありますが、それとともに、4Gまでに最適化されてきた企業のICTインフラを5G時代に向けて、もう一歩変革する必要があります。この取り組みを加速することが、日本のデジタルシフトを推進することにつながるのです」と吉田氏。
まだ解決すべき課題はあるが、シスコではそれらを解決しながら、5G環境で急速に進む企業ネットワークとサービスプロバイダーネットワークの両者が、どのように連携すべきか、机上の図面ではなく、両者の実際のネットワークや機器を設置してリアルな環境で、さまざまな課題を「解決する場」、新しいビジネスを「創出する場」として「5Gショーケース」を開設したという注11。
図3(表3に用語解説)に、5Gショーケースのアーキテクチャを示す。
図3 「シスコ 5Gショーケース」のアーキテクチャ
出所 シスコシステムズ合同会社、「シスコ 5Gショーケース記者説明会」(2020年11月12日)をもとに一部加筆修正して作成
表3 図3の用語解説
出所 各種資料から編集部で作成
5Gショーケースは、エンドツーエンドの5Gネットワーク環境(ローカル5GやWi-Fi 6、SD-WANなども含む)において実証実験ができる施設となっており、顧客やパートナー企業との新規ユースケースの開発やソリューション開発、その検証が可能となっている。
具体的には、大きく、
- 図3の左半分に示す企業側の「エンタープライズテクノロジー」と「エンタープライズネットワーク」
- 図3の右半分に示すサービスプロバイダー側の「サービスプロバイダーネットワーク」と「サービスプロバイダーテクノロジー」
を、アクセス管理やセキュリティ管理によって連携させるアーキテクチャとなっている。
同ショーケースの全体のネットワーク構成は、実在するネットワーク環境にほぼ近い「レプリカ」のようになっている。また、サードパーティの製品やソリューションを組み込むこともできるオープンな検証環境になっているため、新しいユースケースの創造も可能である。
▼ 注7
2021年1月25日付で執行役員 情報通信産業事業統括 システムズエンジニアリング本部に就任。
▼ 注8
セキュリティ・バイ・デザイン:Security by Design。製品やシステムなどの企画・設計段階から情報セキュリティを組み込んでおくこと。
▼ 注9
ネットワークスライシング:Network Slicing。従来の3Gや4Gでは、1つのネットワーク内でいろいろなアプリ(例:医療用アプリや放送用アプリなど)が運用されているが、5Gでは、アプリごとにネットワークをスライス(分割すること)して切り出し、その1つひとつのスライスにアプリを割り当てて運用することも可能になる。これをネットワークスライシングという。複数のそれぞれのスライスは、互いに影響しないように分離され、またセキュリティも保証して構築される。
▼ 注10
マネージドサービス:Managed Service。システムの構築や運用を行ってくれるサービス。
▼ 注11
プレスリリース「シスコ、日本市場における5Gネットワーク展開の加速を支援する5Gショーケースを開設」、2020年11月12日