[特別レポート]

シスコの2040年ネットゼロへのアプローチと5G実環境を構築した5Gショーケース

― シスコのパーパスレポートと革新的な製品開発による環境への取り組み ―
2022/04/11
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

グローバルに、コンピュータネットワーク機器の開発を行うシスコシステムズ(以下、シスコ)は、日本国内におけるサービスプロバイダ向けのルータ市場で高いシェアをもつ。
そのシスコは長年にわたって、製品が与える環境への負荷を最小化することを重視した取り組みを行っている。従来製品と比較して、数十倍のパフォーマンスを出しながら、同時に消費電力や大きさを数十分の1に抑えていくという、相反する目標に対してシスコはどのように取り組んでいるのだろうか。
ここでは、シスコのパーパスレポートで公約した「2040年ネットゼロ」実現のための取り組みの中で、特に革新的な製品開発による環境へのアプローチについて、また今、企業や自治体などが注目している5G技術の実証環境を提供する「5Gショーケース」について、Cisco CXOシンポジウム(注1)での発表内容とその後の取材(注2)をもとにレポートする。

シスコのパーパスレポート“Power an Inclusive Future for All”

 シスコは、従来のCSRレポートに代わって、新たに“2021 Cisco Purpose Report”(2021年シスコパーパスレポート)を公開したことを、2021年12月13日に発表した注3

 シスコCEOであるチャック・ロビンス(Chuck Robbins)氏の2020年6月16日のブログ記事注4では、2019年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大と、それに伴うさまざまな変化を踏まえて、組織の目的(the purpose of our organization)や仕事について考え続けた結果として、このパーパスが誕生したことが紹介されている(パーパスについては「コラム」を参照)。

 同社のパーパスは、“Power an Inclusive Future for All”注5と表現され、シスコシステムズ合同会社の中川 いち朗社長のブログ記事注6によると、日本語では「すべての人にインクルーシブ(後述)な未来を実現する」と表現している。

 同パーパスレポートによると、このパーパス「すべての人にインクルーシブな未来を実現する」を日々の活動につなげていくために、英語での表記である“Power an Inclusive Future for All”に含まれている”Power”、”Inclusive”、そして”Future”という3つの単語を使い、具体的な活動内容を整理している。このうち、最後の”Future”では、シスコの持続可能な社会を目指すための取り組みが整理されている。

 中川社長は、2021年12月21日のCisco CXOシンポジウムにおいて、「インクルーシブという誰もが分け隔てなく受け入れられ、認められていると実感できる状態、これを実現することこそがシスコの使命です」「世界的に急速なデジタルシフトが起きている中、日本でもテレワーク、遠隔教育、遠隔医療などネットワークとデジタルテクノロジーを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速しております。シスコは、今こそデジタル化の恩恵を受ける人々と恩恵を受けづらい人々との格差を解消し、誰1人として取り残されない社会を作る最大のチャンスが到来したと考えています」と述べた。

【コラム】「パーパス」とは?

〔1〕企業の社会における存在意義

 近年、企業経営における「パーパス」(Purpose)の重要性が、さまざまな機会で取り上げられるようになっている。この言葉の直訳は「目的」となるが、企業経営において「パーパス」という言葉を使う場合、一般的な意味での「目的」を指すわけではない。

 「パーパス」とは「企業が何のために存在するのか、企業の社会における存在意義」※1を指す(後出のブラックロック社の例を参照)。

 つまり、それぞれの企業を経営するにあたり、自社内の社員や株主にとって何らかのメリットをもたらすことだけに目を向けるのではなく、社会というより幅広い視野から、企業の存在意義を考えることを促すのが、この「パーパス」の位置づけである。

〔2〕ブラックロック社の「フィンク・レター」

 「パーパス」が注目を浴びるようになったのは、いくつかのきっかけがあるが、その1つが、ブラックロック社である。同社は、1988年に設立された世界最大手の資産運用会社である。同社の会長兼最高経営責任者(CEO)であるラリー・フィンク氏は、毎年、経営者に向けた書簡(letter to CEO)、通称「フィンク・レター」を公開しているが、2018年に公開された書簡“A Sense of Purpose”※2(パーパスの意識をもつ)が、「パーパス」が注目されるきっかけになったと言われている。

 この時の書簡の前半では、「上場、非上場を問わず、企業には社会的な責務を果たすことが求められています。企業が継続的に発展していくためには、すべての企業は、優れた業績のみならず、いかに社会に貢献していくかを示さなければなりません」※3というメッセージが掲げられている。2018年時点での翻訳では「パーパス」という訳語は使われていないものの、原文※4を確認すると、文中の「社会的な責務を果たす」という箇所が、“serve a social purpose”と表現されていることがわかる。

 同社の2022年の書簡※5を読むと、「企業経営者が一貫した主張、明確なパーパス、理路整然とした戦略、長期的な視点を持つことが今ほど求められている時はないでしょう。貴社のパーパスは、この波乱の時代に進むべき方向を示す羅針盤のような存在となるでしょう」と、日本語訳でも「パーパス」という言葉が使われ、引き続き、その位置づけの重要性が強調されていることがわかる。

 このような流れを受けて、さまざまな企業が自社のパーパスを掲げるようになった。

※1 ブラックロックのパーパスと行動原則
※2 LETTER TO CEO 2018: A Sense of Purpose
※3 同上
※4 Larry Fink's 2018 Letter to CEOs
※5 ラリー・フィンク 2022 letter to CEOs: 資本主義の力

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