[RE100加盟企業に聞く!]

東急の長期経営構想とエネルギー戦略

― 2050年までにCO2排出量ゼロへ、日本初の再エネ100%電車やSDGsトレインも ―
2021/05/02
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

東急が目指す「脱炭素・循環型社会」への取り組み

―編集部 次に、東急の長期経営構想中の「低炭素・循環型社会」への取り組みについて教えてください。

山成 当社が2019年9月に発表した長期経営構想(前出の図1)における長期環境目標では、図4(1)に示すように、エネルギー別CO2排出量について2019年度は、76.5%がCO2排出を伴う電力でした。これを、図4(2)に示すように、①省エネルギー(省エネ)注4と②再エネの最適利用の両面から低炭素・脱炭素化を推進し、現在、CO2排出量の76.5%を占める電力使用(2019年度)については、

  1. 2030年までにCO2排出量を30%削減する
  2. 2050年までにCO2排出量ゼロにする

という2段階のCO2削減目標を設定注5し、2050年までに再エネ由来の電力を100%で調達する、すなわち「RE100」(CO2排出量ゼロ)を目標としています。

図4 長期環境目標実現に向けたCO2換算エネルギー構成のイメージ

図4 長期環境目標実現に向けたCO<sub>2</sub>換算エネルギー構成のイメージ

出所 東急株式会社「統合報告書」、2020年9月30日発行

省エネ電力を実現した電車と駅ビルの事例

Katsumi Kanazawa

―編集部 省エネと再エネの両面から脱炭素化を推進されるということですが、どのように省エネを進められているのでしょうか。

金澤 当社は多角的な事業を展開しておりますので、いくつか代表的な例を挙げてみます。

〔1〕省エネ事例1:回生ブレーキ付き車両で省エネ化

金澤 電車の場合は、東京電力から提供される2万ボルトあるいは6万ボルトの交流電力を受電します。そして、変電所で鉄道線は直流1,500ボルト、軌道線は直流600ボルトに変換して架空電車線からパンタグラフを経由して、電力を車両に送り電動機(モーター)を回して走行しています。

 車内に扇風機が取り付けてあるような旧型車両では、電動機などの消費電力が大きいので、最新式の電動機や制御装置をもつ新型車両に更新して省電力を実現しています。

 また、走行電車のブレーキについては、車輪に物理的なディスクを押し付けて(摩擦させて)減速させる機械式のブレーキから、最新式の回生ブレーキ注6を利用しています。

 例えば、図5に示すように右側を走行している電車(上りの電車)が回生ブレーキで発電した電気を、左隣を走る「下りの電車」や、あるいは上りの「後続の電車」に、ジャンパ線(上り用の架空電車線と下り用の架空電車線を結ぶ電力線)を用いて送電して利用する、省エネ設備に切り替えています。

図5 回生ブレーキで発電した電気をジャンパ線で隣の電車に送り走行させる仕組み

図5 回生ブレーキで発電した電気をジャンパ線で隣の電車に送り走行させる仕組み

出所 東急電鉄「電車とエコのお話」

〔2〕省エネ事例2:軽量なステンレス製の車両で省エネ化

金澤 東急電鉄は、ステンレス製車両のパイオニアとして知られています。鉄製の重い車両を軽いステンレス製の車両に変え、1962(昭和37)年には日本初のオールステンレス車両を走行させるなど、省エネ車両を導入してきました。

〔3〕省エネ事例3:新造車両導入によるさらなる省エネ化

金澤 現在、導入している新造車両(2020系、6020系、3020系)は、環境に配慮し、次世代半導体素子を用いた制御装置による主電動機の効率駆動や、車内の全照明と前照灯・尾灯へのLED灯の採用により、使用電力を旧型車両(8500系)と比べて約50%削減しています。

 以上のように歴史的に各種の対策を実施して、積極的に省エネ電車を走らせることによって、全体での省エネは、CO2排出量換算で7%減(2015年度と2019年度の比較)となっています。

〔4〕省エネ事例4:駅構内の空調を大幅に省エネ化

金澤 東横線渋谷駅では、駅全体の換気・空調を行う際のエネルギー低減のため、換気に自然の力を利用しています。直結している「渋谷ヒカリエ」注7(図6)には屋外へつながる吹き抜けが設けられており、駅にも、冷房の排熱で暖められた構内の空気の通り路として、ホーム階から3層にわたる吹き抜けを設けました。熱い空気は、対流によって「渋谷ヒカリエ」の吹き抜けから外へ排出され、代わりに外の冷たい空気が導かれます。

図6 渋谷ヒカリエと連携させて空調用電力を省エネ化した仕組み

図6 渋谷ヒカリエと連携させて空調用電力を省エネ化した仕組み

出所 東急株式会社提供資料

 このような地下駅における大規模自然換気システムの採用は、世界初の試みです。この仕組みを利用して、大幅な空調関係の電力の省エネを実現しています。


▼ 注4
例えば、鉄道事業における車両の省エネルギー性能が高い新型車両への置き換えを行う等。

▼ 注5
基準年:鉄道事業(東急線)は2010年、不動産事業その他は2015年。

▼ 注6
回生ブレーキ:回生とは、「生き返る」「蘇る」という意味。電車がブレーキをかけると、電車の運動エネルギーを電力に変換する「電力回生ブレーキ」が動作し、今まで電車を駆動させていた「電動機」(モーター)を逆回転させ「発電機」として利用する(発電時の回転抵抗を制動力として利用する)。その発電機によって発電された回生電力を、パンタグラフから架空電車線を結ぶジャンパ線を経由して、最も近くにいる隣の電車や後続の電車に送電し有効に利用する。このとき、回生電力を蓄電池には貯めない(蓄電池に貯めると、蓄電池に電気を出し入れする際に損失が発生し効率が悪くなるため)。

▼ 注7
渋谷ヒカリエ:2012年4月に渋谷駅周辺の再開発の先陣を切って開業した高層複合施設(地上34階、地下4階)。「渋谷から未来を照らし、渋谷から世の中を変えていく光になる」という意志を込めて「渋谷ヒカリエ」〔Hikarie(光へ)〕と命名された。

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