再エネ100%を活用した電車
〔1〕再エネ100%事例1:日本初の再エネ100%電車
―編集部 再エネ100%で賄い、脱炭素化に向けてCO2排出ゼロを実現している事例はありますか。
金澤 はい、あります。写真1は、2019年3月25日に、日本で初めて、東急世田谷線(SG:Setagaya Line)で運行(通年・全列車の運行)を開始した「CO2排出量ゼロの都市型通勤電車」、いわゆる「再エネ100%電車」(路面電車)の外観で、走行当時は世田谷区民をはじめ鉄道ファンからも大きな反響を呼びました。
写真1 日本初の再エネ100%で走る東急世田谷線の電車の外観
出所 東急株式会社提供
この東急世田谷線は、東京世田谷区の「下高井戸駅(しもたかいどえき)」〜「三軒茶屋駅(さんげんじゃやえき)」の10駅を結び、その路線距離はわずか5.0kmです。再エネ100%電車は、東急と東北電力、東急パワーサプライの3社の協力で実現したものです(図7)。東北電力および同社グループの東北自然エネルギー社が保有している、水力発電所および地熱発電所で発電された、CO2排出量ゼロの再エネ由来の電力(FIT適用外)を使用しています。
図7 再エネ100%で走る東急世田谷線の運行の仕組み
これによって、従来は1年間で東京ドーム約0.5個分の1,269t-CO2のCO2を排出していましたが、これを排出量ゼロとすることができました注8。
写真2 運行している東急の「SDGsトレイン」
出所 東急株式会社提供
〔2〕再エネ100%事例2:再エネ100%で走る「SDGsトレイン2020」
山成 もう1つ再エネ100%電力で走る電車の例として、2020年9月8日から持続的社会の実現に向けて、東急グループと阪急阪神ホールディングスが協働して、SDGsの実現に貢献することを目指し「SDGsトレイン」(写真2)という企画電車を走行しています注9。
- 関東では、東急電鉄の東横線・田園都市線・世田谷線の3路線(各1編成)注10で運行するSDGsトレイン『美しい時代へ号』
- 関西では、阪急電鉄の神戸線・宝塚線・京都線と、阪神電車の本線・阪神なんば線(1編成)注11で運行するSDGsトレイン『未来のゆめ・まち号』
上記の名称で、最新の省エネ車両を使用するとともに、実質的に100%再エネ由来の電力で走行しています。
―編集部 東急本社ビルの電力は、すでに再エネ100%の電力を利用されているようですが。
山成 はい、その通りです。東急本社ビルの電力は、すでに2020年6月から再エネ100%の電力を利用しています。
中核となる東急パワーサプライの活躍
〔1〕2015年10月に設立された東急パワーサプライ
―編集部 脱炭素化やSDGsの実現に向けて、先進的な取り組みが行われていますね。
金澤 はい。当社には、「競合他社がやってないから行う」という伝統的な社風がありまして、例えば(一番をとるということでやったわけではありませんが)、お客様の安全を守るため、「ホームドア」を100%設置したことも、大手民鉄では最初でした。
当社の電力の脱炭素化に向けては、東急の連結子会社である東急パワーサプライが中核となって、東急グループの再エネ電力の調達、具体的には非化石証書や太陽光の余剰電力買取などを進めています。この東急パワーサプライと連携して、東急グループ全体が再エネ比率を高めています。
―編集部 東急パワーサプライについて、もう少し詳しく紹介してください。
金澤 東急パワーサプライは、電力システム改革によって2016年4月から開始された電力の小売および発電の全面自由化の前年の、2015年10月に設立されました注12。
この東急パワーサプライは、電力小売業として、東急電鉄(66.7%)と東北電力(33.3%)が株主となり、2016年4月1日から一般家庭に向けに電気の提供を、2018年10月1日からガスサービスの提供を開始しました。
〔2〕東北電力をパートナーとして選択した理由
―編集部 東北電力をパートナーとして選択した理由は何でしょうか。
金澤 東急パワーサプライは、電力小売事業者として後発であり、安定的かつ競争力のある電源や、電気事業に関わるノウハウが必要でした。そこで、東北電力に相談したところ、基盤エリアの人口減少などによって電力の販売が減少傾向にある中、当社グループがもつ豊富な販売チャンネルやブランド力を活用し、お互いに連携しましょうということになりました。
東北電力グループ全体は、再エネとして227カ所の水力発電所(総出力は約256万kW)をはじめとして、地熱発電所、太陽光発電、陸上風力発電、さらに洋上風力発電の開発計画など、再エネの拡大に積極的に取り組んでおり、お互いにWin-Winの関係の提携となっています注13。
―編集部 再エネの主力電源化へ向けた動きが活発化し、太陽光発電の卒FITも始まり、日本でも政府の2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」宣言もあり、脱炭素社会に向けた新しいビジネスモデルが続々と登場していますが、何か新しい動きはありますか。
山成 東北電力と東急パワーサプライは、2021年4月1日に、東北電力ソーラーeチャージ株式会社を設立しました注14。
この新会社では、新築の戸建住宅のお客様に、太陽光発電設備と蓄電池の設備費用(初期費用)を負担させずに設置して、エネルギーサービスを提供します。
お客様は、毎月定額料金を支払うだけで、クリーンな電気を日常使用できるだけでなく、発電・蓄電した電力を、災害などでの停電時の電源としても利用していただけます。
2021年度上期中に、東北・新潟をはじめ関東エリアでサービスを開始する予定となっています。
▼ 注8
2018年度の世田谷線電力使用実績(2,166千kWh)をもとに、CO2の密度(647,324m3)を算出。東京ドームの容積は1,240,000m3。
https://www.tokyu-ps.jp/saiene/
▼ 注9
https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20200806_1.pdf
▼ 注10
東横線、田園都市線(世田谷線は前述)は、東急パワーサプライによるJクレジットを利用したカーボン・オフセットによる電力を使用。カーボン・オフセットとは、企業活動等で削減努力をしても発生してしまうCO2(=カーボン)を、森林によるCO2の吸収や省エネ設備への更新によって創出された削減分で埋め合わせ(=オフセット)する取り組み。
Jクレジットは、省エネ機器の導入や森林経営などの取り組による、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証するもの。そのうち再エネ導入に由来するクレジットは「RE100」に利用が可能となっている。
▼ 注11
阪急電鉄と阪神電車は、関西電力の「再エネECOプラン」を活用することで、実質的に再エネを100%用いて運行。「再エネECOプラン」とは、使用する電気に関西電力が電力卸売市場から調達した太陽光・水力・風力発電などに由来する環境価値を付加した電気メニューのこと。
https://tokyugroup.jp/sdgs/train/
▼ 注12
東急パワーサプライの前身は、東急の源流となる東京世田谷区の田園調布・洗足(せんぞく)などの街づくりのために、渋沢栄一を中心に1918年に誕生した「田園都市株式会社」。
▼ 注13
https://www.tokyu-ps.jp/saiene/
▼ 注14
https://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1219461_2558.html