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東急の長期経営構想とエネルギー戦略

― 2050年までにCO2排出量ゼロへ、日本初の再エネ100%電車やSDGsトレインも ―
2021/05/02
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

今後の展開:「リスク」と「チャンス」を明確にしたビジネスを

―編集部 現在、地球温暖化問題は深刻な事態を迎えており、国際的に気候変動から気候危機へ移行していると警告されています。今後、御社のビジネス上のリスクやチャンス(機会)をどのように分析されていますか。

山成 当社では、時代(元号)が「平成(2019年4月30日まで)」から「令和(2019年5月1日から)」に変わった2019年に、30年後の未来を考える、「東急2050プロジェクト」を開始しました。このプロジェクトでは、東急2050ビジョン「世界が憧れる街づくり」に向かって、経営層・ミドル層・現場を含む全社員が一丸となって考え続けること、挑戦し続けることを目指しています。

 このような取り組みの中で、2020年9月16日に、当社は気候関連の情報開示を行う国際的なタスクフォースであるTCFD注15の提言への賛同を表明しました。

 このTCFD提言による開示項目注16のうち、当社では、鉄道事業と都市開発事業における重要なリスクとビジネス機会を抽出し特定しました。例えば、鉄道事業・都市開発事業において、表3に示すように、地球の温度上昇が2℃以下の場合の「電力コストや炭素税の増加などのリスク」、あるいはその逆の「被災リスク低エリアへの顧客の流入によるビジネス機会」などを分析しています。今後も他事業についても企業戦略を抽出し、段階的に開示していく予定です。

表3 TCFDの4つの開示項目※1のうち東急の「戦略」の例

表3 TCFDの4つの開示項目※1のうち東急の「戦略」の例

※1 TCFDの4つの開示基礎項目:企業におけるガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つ。
※2 パリ協定では、産業革命前(1750年前後)と比較した21世紀末の世界の平均気温上昇を2℃以下に抑制するとし、1.5℃以下への抑制を努力目標とした。このまま世界的に温室効果ガスの排出が続けば、地球の平均気温は3℃~4℃上昇し、人類の生存が脅かされる危機的な状況になると予測されている。
※3 ZEB:Net Zero Energy Building、快適な室内環境を保ちながら、省エネと再エネ等の導入によって、消費エネルギーを正味(ネット)でゼロにすることを目指した建物。
出所 右記のURLを参考に編集部で作成、https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20200930-2-1.pdf

 いずれにしましても、コロナ禍により、事業を取り巻く環境は大きく変化していますが、冒頭に申し上げた、2050年を見据えた当社の長期経営構想の実現に向けて、事業戦略をさらに進化させていきたいと考えています。

―編集部 ありがとうございました。

◎プロフィール(敬称略)

山成 敏彰(やまなり としあき:写真右)金澤 克美(かなざわ かつみ:写真左)

山成 敏彰(やまなり としあき:写真右)

東急株式会社 社長室サステナビリティ推進グループ 統括部長

1991年東京急行電鉄株式会社〔現:東急株式会社〕入社。法務部門、不動産賃貸部門、病院医事・管理部門の他、関連会社にて店舗運営などの事業部門、経営企画部門を経て現職。

金澤 克美(かなざわ かつみ:写真左)

東急株式会社 社長室サステナビリティ推進グループ 企画担当 課長

1990年東京急行電鉄株式会社〔現:東急株式会社〕入社。鉄道事業において電気設備担当、人材育成担当などの業務に従事、東急総合研究所出向を経て現職。


▼ 注15
TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース。2015年12月に設立。主要国・市域の中央銀行、金融監督当局、財務省などが参加する金融安定理事会によって、金融市場の安定化を目的として気候関連の情報開示および金融機関の対応を検討する作業部会。世界的には2,038の企業や機関が、日本では377の企業等がTCFDへの支持を表明している(2021年4月26日現在)。
https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20200930-2-1.pdf
https://tcfd-consortium.jp/en/about

▼ 注16
以下を参照。
https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20200930-2-1.pdf
https://www.env.go.jp/press/TCFD概要資料

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