[特別レポート]

次世代へ進む太陽光発電と蓄電システム

― 脱炭素に向けて加速する家庭用蓄電池市場 ―
2021/06/04
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

〔4〕初期導入費用の負担をなくすTPO・PPAモデル

 一方、最近では、太陽光発電システムの導入拡大の面から、需要家(家庭)が導入しやすいように、初期導入費用の負担を軽くする(無償とする)、住宅用太陽光発電第三者所有モデル(図4)が登場している。

図4 住宅用太陽光発電第三者所有モデルの例

図4 住宅用太陽光発電第三者所有モデルの例

TPO:Third Party Ownership、第三者所有方式。事業者が(第三者から資金を調達して)太陽光発電システムをリースで顧客(一般家庭、需要家)に提供して初期費用の負担をなくし、顧客はその太陽光発電の電力を使用するというビジネスモデル。
PPA:Power Purchase Agreement、電力購入契約方式。顧客(一般家庭、需要家)が事業者に屋根等の場所を提供し、事業者が太陽光発電システム等を無償で設置し、メンテナンスも行う。事業者は発電した電力について、顧客の電力消費量を検針・請求し、顧客はその電気料金を支払うというビジネスモデル。
旧一電(きゅういちでん):旧一般電気事業者のこと。具体的には、東京電力や関西電力等、以前の大手電力会社10社のこと。
出所 一般社団法人太陽光発電協会、「JPEA ビジョン・PV OUTLOOK 2050」、2020年5月18日

 これは、TPO・PPA(第三者所有型電力購入契約)モデルともいわれ、顧客(需要家)は契約した事業者に屋根などの場所を提供し、事業者が太陽光発電システム等を無償で設置する新しいビジネスモデルである。同モデルは、急速に普及し始めている注4

〔5〕太陽光発電における過積載

(1)過積載とは

 一方、卒FIT時代を迎えて、太陽光発電による電気の売電価格が急速に下落している。例えば、FIT時に2009年度48円/kWhであった価格が、2021年度には19円/kWh注5、卒FIT以降には市場価格は7〜8円/kWhになっている。このため、消費者にはこれまでのように太陽光発電による電気を売るのではなく、その電気を自分で消費する「自産自消」の動きが広まっている。

 そこで、太陽光発電システムの発電容量を増大させるため、「過積載」(かせきさい)する太陽光発電システムが登場し、普及している。

 過積載とは、図5に示すように、パワーコンディショナ—(以下、パワコン)の容量(交流出力:AC定格出力)よりも、太陽光パネルの容量(直流出力:DC定格出力)を大きくし、1日の総発電量を増大させるシステム設計のことだ。

図5 過積載:太陽光パネル対パワコンの比率の最適化イメージ

図5 過積載:太陽光パネル対パワコンの比率の最適化イメージ

出所 経済産業省、「第17回 調達価格等算定委員会」、資料3(2015年1月28日)をもとに編集部が作成

(2)2050年の想定最大導入ケースでは過積載率140%

 それでは、どのくらいの過積載であれば最適なシステムとなるのだろうか。太陽光発電協会の例で見ると、2050年の想定最大導入ケースの過積載の例として、太陽光発電システムを「戸建て住宅や工業団地などの非住宅」の需要地に導入する場合、(小計で)パワコン「AC:147GW」に対して太陽光パネル「DC:190GW」を設置するなど、約130%(=190GW÷147GW)の過積載率となっている(表2)。

表2 2050年の想定導入量における導入場所と過積載(積載率)の例

表2 2050年の想定導入量における導入場所と過積載(積載率)の例

(*)経産省 平成26年度 新エネルギー等導入促進基礎調査 再生可能エネルギーの普及可能性に関する調査報告書
   NEDO 平成24年年度成果報告書 太陽光発電における新市場拡大等に関する検討
出所 一般社団法人太陽光発電協会、JPEAビジョン・PV OUTLOOK 2050:感染症の危機を乗越え、あたらしい社会へ「太陽光発電の主力電源化への道筋」、2020年5月18日

 表2の最下段の合計に示すように、全体としては、「AC300GW」のパワコンに対して「DC420GW」の太陽光パネルを設置し、140%の過積載率となっている。

 このとき、パワコンの容量よりも、太陽光パネル容量のほうが大きくなるため、一定の電力損失が発生する。しかし、(図5右で説明しているように)太陽光パネル容量の増加(オーバー)分を最適化することによって、その太陽光発電設備は、損失よりも発電量を増加できるというメリットが生じる。このため、最近では過積載が広く普及している。

表3 2050年カーボンニュートラルの実現に向けた野心的目標の設定

表3 2050年カーボンニュートラルの実現に向けた野心的目標の設定

CN:Carbon Neutral、カーボンニュートラル。炭素中立。CO2の排出(ものの燃焼による排出)とCO2の吸収(植物による吸収)を±ゼロ(実質ゼロ)にするという意味
出所 一般社団法人太陽光発電協会、「2050 年カーボンニュートラル実現に向けて~太陽光発電の最大限導入をめざして~」、2021年3月29日

〔6〕太陽光発電協会はさらなる野心的目標を発表

 2021年3月、太陽光発電協会は、政府の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受けて、「太陽光発電の最大限の導入」に向けた声明を発表した。具体的には、表3に示すように、AC(交流電圧)ベース、すなわちパワコンの出力ベースで、

  1. 2030年度の「100GW(前出の図3)を125GWへと25%引き上げる」
  2. 2050年度の「300GW(前出の図3)を300GW超(さらに2040年代に前倒しで達成)へ引き上げる」

など、2050年にカーボンニュートラルの実現を目指す、野心的な目標を設定し発表した。


▼ 注4
最近の例として、シャープエネルギーソリューションは、東京電力グループのTRENDE(トレンディ)と協業し、①太陽光発電システムのみの「ソーラープラン」と、②太陽光発電システムと蓄電池をセットした「ソーラー蓄電池プラン」の2つのプランから選択できる、新築住宅向け定額制PPAサービス「COCORO POWER(ココロパワー)」を、2021年6月30日から申込受付を開始すると発表した(2021年5月18日)。

▼ 注5
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_kakaku.html

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