[特別レポート]

世界の5G市場の最新動向

― 本格化する「5G SA」の商用サービスと高まる「FWA」へのニーズ ―
2021/08/01
(日)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

各国における5G商用サービスの展開状況

〔1〕急速に進む5Gの商用サービスの拡大

 5Gを活用した今後の成長が期待されている通信業界だが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に見舞われた2020年でも、世界中の多くの通信事業者が5Gの商用サービスを開始している。

 その状況の確認に参考になるのが、European 5G Observatory(直訳は「欧州5G観測所」)が2020年12月に公開した四半期レポート第10号注8に掲載されている各国における商用サービスの提供状況である(図5)。

図5 世界における5G商用サービス提供状況

図5 世界における5G商用サービス提供状況

出所 5G Observatory Quarterly Report 10

〔2〕European 5G Observatoryの分析

 このレポートを発行しているEuropean 5G Observatoryは、欧州を中心とする、各国における5Gの商用サービスの展開状況に関する動向調査をはじめとして、5Gの機器や具体的なサービスなど、5Gに関するさまざまな情報収集と分析を行っている。

 2018年にスペインで開催されたMWC(Mobile World Congress) 2018において、活動の開始を発表していた注9

 European 5G Observatoryの収集した情報は、欧州委員会(EC:European Commission)が2016年9月14日に発表した注10 5Gに関する実行計画である“5G for Europe: An Action Plan”(欧州5Gアクションプラン)を含む、さまざまな政策について、戦略的な示唆を与えることを考慮して分析されている。

 European 5G Observatoryでは、さまざまな分析結果をQuarterly Report(四半期レポート)という報告書として四半期に一度のペースで公開している。この報告書には、EU(European Union、欧州連合)加盟国と英国、そして米国や中国、韓国、そして日本などの商用サービスの展開状況など、さまざまな情報が盛り込まれている。

〔3〕最初の5G商用サービス開始はベライゾン?

 図5に戻ると、2018年6月にフィンランドのElisa(エリサ)が最初の5G商用サービスを提供していることになっている。同社は2018年6月28日にプレスリリース注11を出しており、世界初の5Gの商用サービスを提供したと伝えている。ただし、当該のプレスリリースを確認すると、確かに5Gサブスクリプション(定額料金)の販売を開始したとは書かれているものの、その後に「秋には最初の5Gライセンスを割り当てる準備ができている」と記載注12されていることからも、この時点で具体的にどのようなサービスを開始したのかは定かではない。

 また、例えば総務省による『令和2(2020)年版 情報通信白書』注13などでも、2018年10月に米国でVerizon(ベライゾン)がFWA(Fixed Wireless Access、固定無線アクセス)サービスで開始したものが最初だとされていることからもわかるとおり、一般的には2018年10月の米国ベライゾンのFWAサービスが世界初だと見なされている。

〔4〕世界におけるモバイル5Gサービスの導入状況

 翌年の2019年は、多くの国で商用サービスが始まっている。

 米国では4月にベライゾンのモバイルサービス、5月にはSprint(スプリント)がモバイルサービス、6月にはT-Mobile(Tモバイル)が商用化している。さらに欧州では、5月以降、英国、スイス、スペイン、イタリア、ルーマニア、ドイツ、アイルランド、ドイツで商用サービスが始まっている。また、アジアに目を向けると、2019年中に韓国と中国で、それぞれ商用サービスが開始されている。

 図5では、欧州アクションプランに則り、2020年中にすべてのEU加盟国が5G商用サービスを始めることが見て取れる。しかし、図5の5G商用サービス開始に関する情報は網羅的ではないことに注意が必要である。

 European 5G Observatoryの報告書本文には、実際にはキプロスとマルタ、そしてポルトガルの3カ国が2020年に商用サービスを開始できなかったと書かれているし、また、2019年7月にラトビアが商用サービスを開始しているが、その情報は図5には掲載されていない。


▼ 注8
http://5gobservatory.eu/wp-content/uploads/2021/01/90013-5G-Observatory-Quarterly-report-10.pdf

▼ 注9
European 5G Observatory and 5G Pioneer Award | Mobile World Congress 2018 | Shaping Europe’s digital future

▼ 注10
Communication ? 5G for Europe: An Action Plan and accompanying Staff Working Document | Shaping Europe’s digital future

▼ 注11
Elisa first in world to launch commercial 5G

▼ 注12
英文としては“ The Ministry of Communications is ready to allocate the first 5G licenses to the 3,400-3,800 megahertz frequency band in autumn”となっている。

▼ 注13
『令和2年版 情報通信白書』の40〜41ページ参照。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...