[脱炭素時代の実現に向けた半導体の最新動向]

第1回 EV(電気自動車)が本命視される理由

2021/09/06
(月)
津田 建二 国際技術ジャーナリスト

脱炭素時代には、電力・エネルギーはPCS(パワコン)で制御される太陽光発電などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)が主力電源となり、自動車は電化されてエンジン車からモーターによるEV(電気自動車)へ、さらに自動運転車への移行が始まり、建物ではZEB/ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル/ハウス)がHEMSを核としたスマートホームの波が押し寄せている。これらの新しい技術を、安全かつ効率化して制御する心臓部が半導体技術であり、新しい半導体産業の発展につながる。
連載では、このような半導体技術に着目し最新動向を見ていく。第1回は、EVの概要を示し、半導体の役割やその可能性について紹介する。

半導体で賢くエネルギーを制御し脱炭素化へ

 CO2を排出しない再エネによる電源や、CO2を排出しない動力を使う電気自動車(EV:Electric Vehicle)や燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)、水素の内燃エンジン車(HICEV:Hydrogen Internal Combustion Engine Vehicle)などが続々と登場している。これらを制御可能にするデバイスが半導体である。逆に半導体で制御しなければ、これらは効率よく動けない。

 一方、最初にスマートグリッドという概念が登場してきた電力網におけるスマート化の波は、スマートシティやスマートビルディング、スマートホームなど、これまでのシステムをより賢く制御し、エネルギー効率を最大にするシステムへと広がってきた。その中核となるデバイスが半導体チップである。

 最近では、半導体/エレクトロニクス技術を使ってシステムや装置、ITサービスを賢くするスマート化は、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)という言葉でも表現されるようになった。エネルギー分野では、CO2を削減し環境保護と経済を両立させる社会変革をグリーントランスフォーメーション(GX:Green Transformation)という言葉で表すことも始まっている。

 CO2を排出しない脱炭素時代は、半導体で賢くエネルギーを制御することで、CO2を排出しないだけではなく、より高いエネルギー効率が得られ、無駄なエネルギーを使わずに済ませることができるようになる。脱炭素時代には半導体チップが欠かせなくなる。

 ここでは、電気や水素を動力とする自動車(電動車)に使われる半導体に加えて、再エネをどのように活用し、半導体がどのような役割を演じているのか、さらに、現在、半導体で主流となっているシリコンを超える半導体の可能性について、論じていく。

電気自動車と燃料電池車、水素エンジン車の多様化

 まず、電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)を簡単に紹介する。

 図1に示すように、EVは大容量のバッテリー(蓄電池)でモーターを回し、車輪を回すという仕組みである。FCVは、水素タンクからの水素(H2)と大気中の酸素(O2)を反応させて電気を起こし、その電気でモーターを回す。ハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)は、通常の内燃エンジンとバッテリー+モーターの両方をもつ。

図1 ハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)、電気自動車(EV)の模式図

図1 ハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)、電気自動車(EV)の模式図

出所 資源エネルギー庁、「燃料電池自動車について」(平成26年3月4日)をもとに、一部加筆して作成

EVの航続距離は伸びる

 EVは、走行距離が短くて不安だ、という声は徐々になくなりつつある。最初の本格的なEVである日産自動車の「リーフ」は航続距離(1回の満充電で走行できる距離)が240km程度で、実質的には200kmを切る程度しかなかった。しかし、最近の「リーフ」のカタログに示されている航続距離は、62kWhのバッテリー搭載車で450km、40kWhのバッテリーだと314kmとなっている注1

 米国テスラ(Tesla)のModel 3では、リーフよりさらに大きな容量である75kWhのバッテリーを搭載し、米環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)基準で、航続距離は499kmとなっている。実際に走行した実験レポート注2によると、兵庫から東京まで(走行距離650km)、途中1回の充電で走行できたとしている。しかも、真夏だったためエアコンをフルに稼働させての数字である。さらに、Model 3は、急速充電注3が可能なバッテリー構成であるため、45分間で「5%から89%までの充電」ができたという。

 650kmを1回の充電で走行できたことは、テスラが自前のバッテリー充電設備を各地に配備していることによる。

EV:走行中はCO2を排出しない

 EVは走行中、CO2をまったく出さない。しかし、充電する電力の元になっている発電所が火力発電を利用しているのなら、充電にはCO2を排出していることになる。このため、EVだからといってCO2排出量がゼロではない。しかも、EVを生産する工場がCO2を排出している限り、EV1台当たり生産するために使った工場でのCO2排出量もゼロではない。だから、「EVは必ずしも環境に優しいという訳ではない」という議論は確かにある。

 しかし、走行中にはほとんどCO2を出さない。また、今後、生産工場でも再エネの利用が進み、発電所においても太陽光発電や風力発電など、再エネの発電が進めばEVによるCO2抑制は極めて高い効果がある。

 欧州では、新車のCO2排出量を2030年までに現行よりも55%削減し、2035年までにはゼロにする、という方針をEC(欧州委員会)が2021年7月14日に発表した。化石燃料(ガソリンなど)を使用する内燃機関(エンジン)を使用する新車の販売をハイブリッドカーも含め、実質的に禁止する。

 いずれ日本と米国もこれに追従することになる。こういった高い目標を定めれば、人間は必ず目標を達成してきたからだ。古くは1970年の米国マスキー法注4による排出ガス規制だ。日本と欧州がこの規制に従い、排出ガスの少ない技術を確立した一方で、米国の自動車メーカーは石油危機を契機にその規制を緩める改正を行った。このため排出ガス技術で遅れてしまった。


▼ 注1
日産リーフAUTECH主要諸元

▼ 注2
テスラ『モデル3』長距離実走レポート:東京=兵庫【テスラにはもう追いつけない? 編】、EVsmartBlog、2020年8月17日

▼ 注3
急速充電:EVの充電器はスマホの充電器と同様、普通充電と急速充電がある。急速充電では、電圧や電流を高く上げて一気に電荷をバッテリーに充電する。日本の当初のCHAdeMO(チャデモ)規格ではせいぜい450Vまでしかないが、欧州では500Vから1000Vまで上げて急速充電を図る開発が進んでいる。CHAdeMO2.0では1000V×350A〜400A(350kW〜400kW)という急速充電が予定されている。

▼ 注4
マスキー法:米国で制定された自動車の排気ガスを規制する法律。1970年に上院議員のマスキー(E.S.Muskie)氏の規制強化案を取り入れて、1963年に制定された連邦法(Clean Air Act)が改訂された。

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