[脱炭素時代の実現に向けた半導体の最新動向]

第2回 CASE時代: EV仕様の完成とプラットフォーム化

2021/10/04
(月)
津田 建二 国際技術ジャーナリスト

EV(電気自動車)仕様がほぼ固まってきたことを背景に、EVシステム(EV、EV充電器等)に関するビジネスが加速している。EVの量産がシリコンバレーで始まった時のように、その変革のスピードは速くなった。
EVに求められる機能や性能は進化するとともに、ますます賢さも備えるようになった。自動運転やコネクテッドカーはエレクトロニクス・半導体があってはじめて実現できる機能であり、「電気」は事故を防ぐための基本的な技術でもある。その結果、クルマにはますます多くの半導体が搭載されることになる。第2回では、その一端を紹介する。

EVのプラットフォーム化

〔1〕車台の床一面にバッテリーを敷き詰める方式が主流に

(1)EVのベンツを目指す最高級車「Lucid Air」

 EVは、連載 第1回「EV(電気自動車)が本命視される理由」(2021年9月号)で解説したように、バッテリーシステムを床一面に敷き詰める方式の車台(プラットフォーム)が主流になりつつある。こうすると車内のスペースが広くとれるだけではなく、重心が低くなるため、クルマの動作としても安定するからだ。この方式は、EVメーカーにとってプラットフォーム(基盤)になりつつある。

 テスラ(Tesla)をスピンオフし、EVの最高級車を作ろうとしてシリコンバレーに設立したスタートアップ企業“Lucid Motors”が、現地時間2020年9月9日に、最初の量産車を発表した注1

 第1号車「Lucid Air(ルシード・エア)」(写真1)は、EVのいわゆる「ベンツ」を目指す。ここでもやはり、バッテリーを床一面に敷き詰める方式をEVのプラットフォームとして採用しているだけではなく、その一部をさらにもう一層のバッテリースタック(最小単位のセルを集積したもの)を重ねる「ダブルスタック方式」も追加した。

写真1 EVの最高級車Lucid Airの一例

写真1 EVの最高級車Lucid Airの一例

出所 Lucid Motors

(2)1回充電で500マイル(約800km)を走行

 最高級車「Lucid Air Dream Edition」は、1回の充電で500マイル(約800km)を走行し、最高1,080馬力という性能を発揮する車種である。実際に、ロサンゼルスからサンフランシスコを経由してシリコンバレーの本社までの走行試験で520マイル(837km)を走破した。もちろんエアコンを使用したうえでの数字だ。シリコンバレーに到着後でもまだ少しバッテリー容量が余っていたという。しかも、内部に高電圧の急速充電回路を積んでおり、わずか20分の充電で300マイル(約480km)も走る。

〔2〕次世代EVプラットフォーマー「REE Automotive」

写真2 REE社が発売する車台(プラットフォーム)

写真2 REE社が発売する車台(プラットフォーム)

出所 REE Automotive

(1)車台システムをビジネス化

 バッテリーを床一面に敷き詰める方式の車台をビジネスにする、ティア1(Tier1)サプライヤー注2も現れた。イスラエルのREE Automotive(リー・オートモーティブ。以下、REE社)である。

 REE社は、写真2のような車台を製造し、その上に搭載する車体はユーザー(自動車メーカー)の好みによって変えられるようにするという発想だ。最終製品をパソコンとすると、まるで心臓部の半導体部品CPUをビジネスとするインテルのような企業である。

(2)ハイテクが詰まっているREE社の車台

①インホイールモーター方式

 REE社の車台システムの中にはハイテクが詰まっており、これだけでも走行できる。車輪には、モーターとインバーター(直流−交流変換回路)が一体化した「インホイールモーター方式」注3を採用しており、さらにブレーキやステアリング(ハンドルともいわれる)、サスペンション(車輪を支え、衝撃を吸収する部分)までもこの車輪に含まれている。このため、車体だけで走る、曲がる、止まる、というクルマの基本的な3機能は実現できている。

 モーターが各4つの車輪の中にあるインホィールモーター方式だと、4輪が独立して動くことができるため、縦列駐車注4も簡単できるというメリットがある。この車台が動いている様子はビデオで見ることができる。

②タブレットによるハンドル操作

 このビデオは試作時のものだが、運転はタブレットで操作している。この台車の上に車体を載せる場合でもハンドルのないクルマも可能となり、自動運転車への展開もスムーズにできそうだ。

 ハンドル部分は、ステアリング-バイ-ワイヤー(Steering by Wire)方式注5で曲がるというステアリング(ハンドル)動作はモーターで制御するため、ハンドルは飾りのようなものとなる。運転手は、タブレットに表示されたハンドルを指で右へ回すことによって車体が右へ曲がる、という訳だ。

 インバーターには、パワー半導体をはじめ、ドライバIC(駆動用IC)やマイコンなどさまざまな半導体が使われる。ブレーキやステアリングの操作を無線で行う以上、無線用の半導体をはじめ、機械的な操作を行うモーター駆動用半導体、指令を出すマイコンなどの半導体も欠かせない。


▼ 注1
ルシード・モーターズは、米国カリフォルニア州メンローパークに2007年に設立。

▼ 注2
ティア1(Tier1)サプライヤー:自動車メーカーに、自社で製造・開発した部品などを直接納入する企業、すなわち一次請負企業のこと。
ティア1(Tier1)サプライヤーに製品を納入する企業は、ティア2(Tier)サプライヤー(二次請負企業)といわれる。

▼ 注3
インホイールモーター(In-Wheel Motor)方式:EVの駆動系レイアウト方式の1つ。車輪(タイヤ)のすぐ近くにそれぞれモーターを配置し、タイヤを直接駆動する。ホイール(Wheel)とは、タイヤの内側からはめ込む車輪状のパーツのこと。

▼ 注4
縦列駐車:道路などに、一列に並んで駐車している車と車の間に、さらに車を駐車する方法。通常、車間がある程度広くないと駐車しにくいが、インホイールモーター方式の場合は車間が狭くても容易に駐車できる。

▼ 注5
ステアリング-バイ-ワイヤー方式:従来のハンドルは長い車軸を通して前輪2つを同時に動かすが、バイ-ワイヤー方式は長い車軸がなく、単なるハンドルの輪(ステアリング)の動作を配線でつなぎ、配線の先はモーターを駆動する回路につながれている。つまり、輪だけのハンドルを回すとその信号を捉えて右や左の方向に車輪が向くようにモーターを駆動するシステムのこと。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...