[脱炭素時代の実現に向けた半導体の最新動向]

第2回 CASE時代: EV仕様の完成とプラットフォーム化

2021/10/04
(月)
津田 建二 国際技術ジャーナリスト

CASE時代のドメインアーキテクチャ

〔1〕ECU(電子制御ユニット)の役割

 EVによって電動化が進むだけではなく、将来のクルマはCASE注10になることは間違いない。自動運転を組み込んで事故を減らし、クルマ同士や交通信号機などとつながることで事故を減らすことができる。また、クルマの所有者の所有時間の8割以上を車庫に止めているだけという実態から、その使用効率を上げるためクルマをシェアするという考えも出ている。

 CASE技術を使えば使うほどクルマのエレクトロニクス化は進み、搭載される半導体の数は増える。その半導体は、一般にECU(Electronic Control Unit、電子制御ユニット)と呼ばれる箱の中に詰まっており、このECUは、高級車だと1台当たり80〜100台、大衆車でさえ20〜40台も搭載されている。ECUが増えれば増えるほどそれらをつなぐ配線(ワイヤーハーネス)も増え、車体は重くなる。そうすると燃費や電費が悪くなり不経済になる。

〔2〕クルマの安全第一:ドメインアーキテクチャ

 そこで、いくつかのECUをまとめて1つのドメイン(領域)にしようという発想が生まれた。ただし、すべてのECUを1つの中央コンピュータなどで制御しようという発想ではない。1つにまとめるほうがリスクを伴うからだ。機能ごとにまとめる「ドメインアーキテクチャ」という考え方が安全第一のクルマには向いている。

 例えば、図2に示すように、いろいろなECUをドライブ・ドメイン(駆動系領域)、セイフティ・ドメイン(安全系領域)、センサー・ドメイン(センサーフュージョン系領域)、ボディ・ドメイン(車体系領域)、インフォテインメント・ドメイン(情報通信システ系領域)などに分ける。それぞれのドメインには、マイコンやSoC注11 1〜2個でドメイン全体を制御する。これによりECUの数を減らすことができる。

図2 ドメインアーキテクチャの一例

図2 ドメインアーキテクチャの一例

※ECUを駆動系、安全系、センサーフュージョン系、車体系、情報通信システム系のドメイン(領域)に分けている。
出所 Infineon Technologies記者説明会資料(2019年1月発表)をもとに一部日本語化して作成

 それでは、ドメイン1個のアーキテクチャはどうなっているか。図2の例では、駆動系では、インバーターやDC-DCコンバーター、バッテリー管理システム、パワーステアリング、ブレーキシステムなどのECUを集めている。安全系では、エアバッグやフロントライトやバックライトなどの照明用のECUを集めている。

 図2では、これらのドメインを外部の5Gなどの無線通信とつながるゲートウェイ(相互接続装置)と結び付けているが、すべてのドメインをゲートウェイにつなぐ必要があるかどうか議論が分かれるところだ。自動運転では、通信を通らず、まずインフォテインメント系でセンシングして判断してから駆動系につながるためだ。細部ではまだ決まっていない部分もあるが、図2では外部からつながる時は、必ずセキュリティチップを通して認証されるべきかどうかの判断をして、クルマの内部とつながるというシーンを示している。

クルマのコンピュータにも仮想化技術

〔1〕仮想化技術とは

 図2に示した、ドメインアーキテクチャは、実はコンピュータの仮想化技術につながっている。

 仮想化技術とは、1台の高性能コンピュータを使用しているのに、数台のコンピュータで構成されているかのように見せかける技術である。

 クラウドコンピュータでは、この仮想化技術を使って大勢のユーザーにそれぞれの業務用コンピュータを振り分けている。振り分ける役割をハイパーバイザーと呼ばれる機能で行う。

 仮想化技術は、図3に示すような構成をしており、Si半導体で作られた多数のCPUを配置したハードウェアを用いて、ハイパーバイザーでOSやアプリケーションを切り替える。ユーザーは、自分の望むさまざまなアプリケーションを選択、使用できる。

図3 仮想化技術の概念図

図3 仮想化技術の概念図

※最も下にあるCPUを大量に揃えておき、ソフトウエアのハイパーバイザーでアプリケーションごとに切り替えて多くのユーザーが使えるようにしている。
ハイパーバイザー:仮想マシンを作成および実行するソフトウェア
SI:シリコン
出所 Wind River記者会見資料(2019年3月発表)をもとに一部日本語化して作成

 この場合、図3に示すOS1やOS2は、WindowsでもAndroidでもよい。

〔2〕ドメインコントローラにも仮想化技術

 自動車向けのドメインコントローラにおいても、この仮想化技術の考え方を導入することができる。

 多くのCPUコアを集積したSoC(システムLSI)を仮想化技術に使って、1〜2個のSoCチップで、さまざまなECU向けのマイコンを構成するという訳だ。

 最近では、OSをLinuxなどで統一しておき、ミドルウェアやアプリケーションをハイパーバイザーで切り替える「コンテナ」方式の考え方がクラウドコンピュータの主流になりつつある。同様に自動車でもコンテナ方式で、駆動系や安全系などを構成することができる。


▼ 注10
CASE:Connectivity(つながり)、Autonomy(自律性)、Sharing(共有)、Electricity(電動化)を組み合わせた合成語。英語としては面白くないため、米国ではC、A、S、Eの組み合わせを変えてACES(エイシスと発音)と呼ぶことが多い。言葉の意味としてはエースが複数いるという意味になるためカッコ良さが出てくる。

▼ 注11
SoC:System on Chip。システムLSIともいわれる。システムの動作に必要な多様な機能を1つの半導体チップに集約して実現した半導体。

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