バイオマス発電の運用状況は?
編集部 ありがとうございました。ところで、「道の駅 たかのす」のVoter40の運用状況についてお聞きしたいのですが。
北林 はい。このような事業を通して、地元に企業を誘致(例:ボルター秋田)することができ、技術者や営業、事務職員含めて現在13名の雇用が生まれています。現在、バイオマス発電事業単体としてみると赤字となっています。
しかし、この新しいバイオマス事業は、北秋田市の将来の成長に向けた新しい投資分野ですので、ノウハウを蓄積しながら、さらに付加価値をつけた事業展開や脱炭素化も目指していきます。
現在、投資期間にあるバイオマス発電とはいえ、間もなく稼働から5年を迎えますので、黒字への転換を図る事業の変革を検討し、黒字化の見通しも見えてきました。
今後、これまでの1号機の減価償却をはじめ、試行錯誤していた木質チップの乾燥方法や排熱の活用、市民への多様なサービスなども含めて、これまで多くのノウハウが蓄積されています。これらを活かして黒字への転換をはかり、さらに2021年12月を目指して、Volter40の2号機の導入を計画しているところです。
バイオマス発電についての新しい動き
編集部 ところで、バイオマス発電についての新しい動きがあれば教えてください。
〔1〕自家消費でも採算ベースになるケースも登場
沼 最近、バイオマス発電への取り組みが活発化していることもあり、木質バイオマス発電の燃料となる間伐材の需要が増え、全国的に増産傾向となってきています。都道府県によって差はありますが、明らかに林業が活性化している側面もあります。
ですから、Volter40の場合、1台で年間約500トン(表2参照)程度の木質チップを必要としますが、このような木質チップを供給できる適地を見つけるのは難しい話ではなくなりました。
ただ、脱炭素に向けて運送費がかからない(自動車のCO2排気量を縮小する)近場で、バイオマス発電の燃料となる間伐材を集められる適地を見つけて、木質チップを乾燥させる加工会社があるかどうか、ということが重要となってきました。
また、最近ではFITで売電しなくても、自家消費でも採算がとれるケースなども出てきており、これまでと違うバイオマス発電の新しい利用形態が注目されています。
〔2〕非常用電源として導入されるケースも
北林 そういう点から見ますと、Volter40の場合は電気出力(40kW)とともに、熱出力(100kW)がありますので、この熱(道の駅では足湯に利用)を木質チップの乾燥に利用すれば、コスト的にも脱炭素にも効果的ではないかと見ています。
これによって、これまで採算的にも難しかった「木質チップの乾燥」というハードルを越えることができます。
沼 島根県津和野町のバイオマス発電のケースでは、津和野町が「チップ工場」を建設して運営し、津和野フォレストエナジーが「バイオマス発電事業」と「チップ乾燥事業」を運営しています。
まさに、自治体による林業の振興を実践され、模範的な地産地消のバイオマス発電モデル事業(Volter40×12台)を推進しているわけです。
バイオマス発電の良さは、災害時に停電になったとしても短時間に再起動ができますので、非常用電源としても導入されるケースが出てきました。このような、通常はFITとして売電し、緊急時は小規模な地産地消型のバイオマス発電として利用する地域活用電源としても、注目されるようになってきました。
ただし、停電時に再起動するには、非常用電源ユニットや蓄電池などの追加設備が必要となります。
今後の展開:「再エネと農業で」秋田に新しい夢を
〔1〕「地産地消・オンサイト化」がキーワード
編集部 バイオマス発電の今後の展開として重要なことは、どのようなことでしょうか。
沼 脱炭素時代を迎えて、2030年に向けたキーワードは、「地産地消・オンサイト化」です。特にバイオマス発電は、燃料産地の近く(オンサイト)に発電所を設置することが重要です。遠距離あるいは海外からの輸入ですと、自動車や輸送船によって、CO2の排出量が増えて環境負荷が大きくなってしまうからです。
さらに、Volter40の場合は「熱」の有効活用が重要となります。欧州でコジェネが普及している理由の1つは、欧州では生活に熱(温水)を使うインフラが整っており、熱供給の副産物として電気をつくる仕組みになっていますので、日本とは主・従が逆となっているのです。
現在、日本の温泉やビニールハウスは、どこでもボイラーの燃料に重油(灯油)を使って熱をつくっていますが、これを重油ボイラーから木質チップを燃料とするVolter40に変えることで、脱炭素を促進できます。
日本の国土面積のうち約70%が森林ですから、小型のバイオマス発電向けの適地は多く、今後も普及する可能性があります。そのため、「Volter40」と木質チップ乾燥機「WoodTek」を両輪として普及させていきたいと考えています。
〔2〕再エネと農業で「秋田の夢を実現したい」
北林 秋田県のこれからの成長産業は、(1)「再エネ」であり、(2)「農業」であると宣言されています。
現在、冬の間はハウス栽培に重油(灯油)を使用していますが、これは、これから目指すカーボンニュートラル化と真逆じゃないでしょうか。CO2を大量に排出する灯油などを使わず、秋田県産の木質チップでバイオマス発電を普及させるとともに、山(森林)の手入れをしながら同時に集約農業を推進し、低いといわれている秋田県民の平均年収(2019年時点で、47都道府県中の第44位)を、ぜひとも向上させたいと思っています。
今後は、大規模な再エネとして注目されている、秋田の海における洋上風力発電事業の推進とともに、小規模な再エネ発電(分散電源)として、さらには非常用電源として、バイオマス発電に注目しています。
また、農業を重視しているのは、秋田県には、もはやお米一辺倒の農業ではなく、付加価値の高い集約農業が求められているからです。例えばハウス農業であり、シイタケやアスパラなどの栽培農業の普及です。そこに、Volter40から出る「熱」を足湯だけでなく、これらの農業に有効利用する具体的な提案を行っていきたいのです。
このため、沼さん(フォレストエナジー)の経験豊富な知見をどんどんいただいて、秋田の夢を実現したいと思っています。
編集部 ありがとうございました。