[連載]

都市の未来にふさわしい、新しい電力供給(配電)方式を!

─ エネルギー供給強靱化法に基づく新しい配電設備に何が必要か ─
2022/01/09
(日)
勝又 淳旺 エバーグリーンエナジーイニシアティブ 代表取締役社長

配電設備について喫緊に検討する課題

〔1〕「地中配電ビジョン」の検討が必要

 配電線の地中化(無電柱化)については、

  1. 高層ビルやマス施設など電力需要が高い、高密度電力の建物(単位面積当たりの電力使用量が多い建物)への供給手段として、
  2. 都市災害の防止や景観に配慮した都市空間の形成など、都市環境整備の一環として、

「地中配電ビジョン」の検討が必要である。さらに、コストダウンのための技術開発の推進や、配電線の埋設深さの浅層化(より浅く配電線を地下に埋設すること)注5、税制上の優遇措置、土木工法などの支援が不可欠である。

〔2〕配電電圧を6.6kV/100・200Vから20kV級/400V級へ

 同時に、今後、EV(電気自動車)の急速な普及や、EVに必要な充電スタンドの増加が予測されるため、電化傾向による電力需要が増大していくという不可欠な課題がある。

 これに対応して、柱上変圧器などの電力設備の輻輳化注6を回避して設備効率を高めるためには、現行の「6.6kV/100V・200V」の配電電圧〔図4、図5(1)〕を、「20kV級/400V級」に引き上げた配電線の導入を推進することが重要である〔図5(2)〕。

図4 現行の家庭向けの配電システムの構成イメージ

図4 現行の家庭向けの配電システムの構成イメージ

送電網から66~154kV程度で送電されてきた電気は、その地域に設置された配電用変電所で6,600Vに変圧されて家庭近くの電柱に送られる。さらに、その電柱に設置された変圧器(柱上変圧器)で100/200Vに変圧され、引き込み線で家庭へ送られる。
出所 関西電気保安協会(以下を参考に一部加筆修正して作成)
https://www.ksdh.or.jp/information/line.html

図5 100/200Vの電線引き込み例(現状)と200/400Vの電線引き込み例

図5 100/200Vの電線引き込み例(現状)と200/400Vの電線引き込み例

出所 筆者作成

 このようにすることで、供給能力の向上や設備の集中的な配置、送電損失の低減(地球温暖化対応。電流が増加するので、送電損失は電流の2乗できいてくる)注7が可能となる。電圧を上げると、電流は電圧に比例して減少するからである。

 また、再エネ(太陽光発電等)などの分散電源の普及によって、配電線のオペレーションはすでに自動化されている。しかし、FIT制度のもとに再エネを電力会社に売電するため、逆潮流(需要家側から系統側への電力の流れ)が起こるため、自動運転できる電流・電圧監視制御の仕組みが必要となっている。このため、早急に配電線内の電圧や電流などを監視制御できる装置の導入が必要である。

未来都市に向けた新しい電力供給方式の基盤整備

〔1〕長時間の停電回避のための需要家との合意

 現在、電気を使っている多くの需要家は、配電用変電所から電力が供給されている。

 これらの変電所は、すべて電気設備技術基準注8に基づいて統一された考え(ルール)で設備が作られ、運用されている。したがって、通常想定されるトラブルによって引き起こされた停電の復旧時間は、設計時の復旧時間内で解消する。

 しかし、今後、自然災害を含めたトラブルは想定外となることが予想されるため、その都度、復旧方法については状況を判断して進めていく必要がある。

 しかし、屋外型の配電用変電所が設備破損事故で全壊した際に、通常は配電用変電所の新設には半年程度の時間が必要であるにもかかわらず、変電所に隣接する駐車場に、移動用変圧器や移動用開閉器(移動用開閉器は電力会社が所有)を活用して、わずか24時間で配電用変電所を復旧した事例もある。

 配電用変電所は、設置地域全体の電源供給の拠点である。どの程度、どのような事象を想定して、あらかじめ停電時の復旧時間を決めておくかについては、(場合によっては、電気料金が上がる問題なども関係するので)投資回収の面から、電気を使用する需要家との間で合意が必要である。

 しかし、今後、配電ライセンス事業者が登場すれば、このような停電の復旧時間について同事業者が投資をすれば、時間短縮ができるようになる。

〔2〕運用主体である地方自治体をパートナーとすべき

 今後、多くの地域で、再エネによる発電設備を増強するためには、住宅用の屋根への太陽光発電パネルの設置は避けられない。そこで、電力の柔軟な需給調整のために、配電用変電所の単位でDR(デマンドレスポンス、)注9ができる仕組みが必要である。そのためには、地方自治体の設備を活用することが不可欠となる。例えば、空調設備をヒートポンプ注10とするなどは、DRの手段として大きな期待がもてる。

 さらに、配電線の地中化の問題は、都市や街の景観上の重要な課題でもある。今後、配電事業ライセンス制度によって、配電設備が自治体管理となれば、道路整備と同期させて配電設備の設置を推進できるようになる。

 「長時間の停電回避」や「配電線の地中化の問題」においても、自治体の考えが強く反映するため、「配電事業ライセンス」を取得した事業者は、運用主体である地方自治体をパートナーとすることが必須である。

*    *    *

 日本が積み上げてきた電力技術は、国内では最適化されてきたが、その結果グローバルスタンダードとの親和性が薄れた。これは、日本の電力システムが、欧米が重視している国際戦略である標準化に対応せず、経験ベースの独自技術で突き進んできたためだ。

 このため、日本には、グローバルスタンダードを目指してカーボンニュートラル時代に対応した未来の都市づくりが必要である。

 つまり、配電電圧や配電網制御方式、気象変動・景観などを考慮した新たな設備形成や、配電網の運用形態などの基盤整備が求められている。


▼ 注5
配電線の埋設深さは国や地方自治体などで決められているが、道路埋設位置をはっきりさせるなどの都市計画の検討も進めるべきである。また、埋設位置などを都市計画で決めないと配電線の外傷事故にもつながる。

▼ 注6
輻輳化:容量が大きくなると設備が大きくなり重量も増加すること。

▼ 注7
送電損失は電流の2乗:オームの法則は、W(電力)=V(電圧)×I(電流)=VIである。V(電圧)=I(電流)×R(抵抗:配電線の抵抗)=IRであるから、W=IR×I=I2Rとなり、電力(W)の送電損失が電流(I)の2乗に比例して増大することがわかる。

▼ 注8
正式名称は「電気設備に関する技術基準を定める省令」。電気事業法に基づいて制定されている電気設備に関する技術基準。経済産業省の省令として公布されている。

▼ 注9
デマンドレスポンス:Demand Response(DR)、需要家応答。電気の需要(消費)と供給(発電)のバランスをとるために、需要家側の電力を制御すること。

▼ 注10
ヒートポンプ:少ないエネルギーで低温の熱源から熱を集めて高温の熱源へ送り込む装置で、身の回りにあるエアコンや冷蔵庫、最近ではエコキュートなどにも利用されている省エネ技術。ヒートポンプの仕組み自体からはCO2は排出されず、熱源には空気中の熱や工場の低温排熱、地中熱など、利用価値がなかった熱エネルギーが利用されることから、省エネ技術としてだけでなく、未利用エネルギーの活用という側面からも関心が高い。

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