『Vision 2050』の改訂版「大変革の時」を発表
写真1 ISAP 2021「本会合5:パネルディスカッション」の参加メンバー
左から武内 和彦 氏(IGES理事長)、二宮 雅也 氏(損害保険ジャパン取締役会長)、小野田 真二 氏(司会:IGESリサーチマネージャー)、右上はピーター・バッカー(Peter Bakker)氏(WBCSDプレジデント兼CEO。ビデオ参加)
出所 編集部撮影
〔1〕「激動の時代」は終わらず
WBCSDは、2010年に『Vision 2050』(ビジョン2050)という報告書を発表し、サステナブルな世界を創り出す方法や、実現のための企業の役割を示していた。
報告書の中では、2050年の理想的な世界を実現するための道筋として、2010年から2020年までを「激動の10年」(turbulent teens)と位置づけ、その10年でサステナブルな世界を実現するためのアイデアや実現方法が生まれると想定。それらを「2020年から2050年まで」の時代(大変革の時:transformation time)に実践し、変革を成し遂げていく流れを描いていた。
しかし、2020年になっても、当初描いていた速度や規模での変化は起きていない。そこで、2010年に検討した『Vision 2050』を改訂し、今後10年間に向けた産業界のリーダーシップをうながすための報告書として、2021年3月に発表されたのが『Vision 2050: Time to Transform 』注4である。
〔2〕日本語版『ビジョン2050:大変革の時』の発表
改訂版『Vision 2050』の日本語版である『ビジョン2050:大変革の時』は、2021年10月に発表された注5。この日本語版は、IGES(地球環境戦略研究機関、Institute for Global Environmental Strategies)が中心となり、損保ジャパン、トヨタ自動車、富士通の協力のもとに作成された。
2021年11月24日に神奈川県のパシフィコ横浜で開催された、IGES主催のイベント「ISAP 2021」(International Forum on Sustainable Development in Asia Pacific、持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム)の「本会合5」では、「企業は、いかにして世界が必要とする大変革を主導できるのか」と題したパネルディスカッション注6が行われ、ビデオ参加したWBCSDプレジデント兼CEOのピーター・バッカー(Peter Bakker)氏から、WBCSDの活動や日本語版の報告書などについて紹介された(写真1)。
4つのパートから成る改訂版『Vision 2050』
改訂版『Vision 2050』の報告書(以降、『Vision 2050』とする)は、大きく4つの内容から構成されており、それぞれを「パート」と呼んでいる(表1)。
表1 『Vision 2050』の全体像
出所 『Vision 2050』(ビジョン2050:大変革の時)日本語版をもとに著者作成
Part 1では、「2050年に向けた共有のビジョン」が示されている。『Vision 2050』で掲げられているビジョンとは、「2050年までに90億人以上がプラネタリーバウンダリー注7の範囲内で真に豊かに生きられる」というものだ。
このビジョンが具体的に指し示すものは何だろうか。
報告書ではこのビジョンを、
- 「90億人以上が真に豊かに生きられる」という人に焦点を当てた部分
- 「プラネタリーバウンダリーの範囲内で」という地球環境に焦点を当てた部分
の2つに分け、それぞれの定義とこの定義に基づいた2050年における理想的な状態が示されている(表2)。
表2 『Vision 2050』で掲げられたビジョンの詳細
出所『Vision 2050』(ビジョン2050:大変革の時)日本語版をもとに著者作成
▼ 注4
https://timetotransform.biz/
▼ 注6
ISAP 2021:本会合 5
▼ 注7
プラネタリーバウンダリー:Planetary Boundaries、地球環境の限界。経済発展や技術開発によって、人間の生活は物質的には豊かで便利なものとなったが、一方で、人類が豊かに生存し続けるための基盤となる地球環境は限界に達しつつあることを意味する。