[クローズアップ]

3.16福島県沖地震&天気予報悪化の下、なぜ東京エリアで大規模停電を防げたのか

― 日本初の「需給ひっ迫警報」を発令 ―
2022/05/06
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

ブラックアウトを回避できた背景と要因

〔1〕kWベースの電力需給からの分析

 「政府からの需給ひっ迫警報」や「東電PGのTwitterによる節電要請」などの努力が功を奏し、図1に示すように、3月22日夜のブラックアウトを回避できる目途が立った。

図1 3月22日における東京電力管内の電力の想定需要と需要実績の推移と節電量・節電達成率

図1 3月22日における東京電力管内の電力の想定需要と需要実績の推移と節電量・節電達成率

出所 資源エネルギー庁「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証について」、第46回電力・ガス基本政策小委員会、資料3-1、2022年3月25日

 回避に至った内容について、図1に示す3月22日の東京電力管内における、電力需給(kWベース)の状況の推移(kWベース)を見ながら解説しよう。

 図1の3つの折れ線グラフには、次の内容が示されている。

① 3/21の18時時点の想定需要(図1の最上位の茶色の折れ線グラフ)
② 節電の目標とする需要(図1の黄色の折れ線グラフ)
③ 需要実績(図1の黒色の折れ線グラフ)

〔2〕急激な天候悪化で気温が急低下

 前出の表3に示したように、3月19日20時の時点では、3月22日の最高気温は9.4℃(約10℃)と予報されていたことなどを考慮して、3月22日の想定最大需要は、4,300kWであった。

 しかし、その後、3月20日、21日の天気予報は悪化し、東京都心でも降雪になるなど、最高気温・最低気温ともに、予期せぬほど大幅に下がる予報となった。このため、前日の21日16時の時点で、3月22日における想定最大需要電力(kW)は4,840万kW(図1、表5)と、2日前(3月19日)の需要見通しよりも540万kW(=4,840万kW-4,300万kW)も大幅な増加となった。

表5 東京電力管内における節電達成率(2022年3月22日、kWベース)※想定需要:3/21の18時時点の想定需要、需要実績:3/22日各時間の実績

表5 東京電力管内における節電達成率(2022年3月22日、kWベース)※想定需要:3/21の18時時点の想定需要、需要実績:3/22日各時間の実績

※節電達成率:節電期待値に対する節電実績値の割合(図1の下表に示すような万kWhベースのデータ(この表5では省略されている)に基づいて計算した割合。
出所 資源エネルギー庁「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証について」、第46回電力・ガス基本政策小委員会、資料3-1(21ページ)、2022年3月25日

 このため、3月21日の18時時点の想定需要(kW)は、図1の最上位に示す「①茶色の想定需要グラフ」となり、節電目標とする黄色の需要(kW)グラフを大幅に超えてしまい、このままでは、ブラックアウトが予想された。しかし、前述した「需給ひっ迫警報」や「東京電力PGのTwitter」に応えた一般需要家側の節電や、日本製鉄などの企業がもつ火力発電の出力増加などによって、図1の「②黄色の節電目標グラフ」と「③黒色の需要実績グラフ」がほぼ一致する(重なる)ところまで節電できたため、需給ひっ迫を乗り切ることができた。

〔3〕kWhベースによる節電目標の達成率は72%へ

 ここまでは、発電におけるkWベースの電力量(出力容量)の推移を見てきたが、これを家庭などで実際に使用したkWhベースの電力需要量(kW×時間=kWh)の視点から見てみよう。

 図1の下表に示すように、3月22日の東京電力管内の電力需要(kWhベース)は、8時から15時まで、節電実績量は、目標とする節電期待量の「2,868kWh」を大きく下回った「1,105kWh」となり、その節電達成率は低く、39%であった。

 しかし、前述したように「強力な節電要請」効果によって、15時~23時は、節電量が急速に拡大(特に表5の16時以降は連続して100%を超えるなど)し、節電期待量「3,247kWh」を43kWhほど上回った節電実績量「3,290kWh」となり、節電達成率が101%となった。

 この結果、3月22日の1日(8時~23時)を通して、節電達成率は目標の約7割(72%)に達し、22日夜の停電を回避するメドが立ったのである(図1下表の最下段、赤枠部分)。

〔4〕注目された揚水発電の活躍

 今回、停電が回避できた要因の1つとして注目されたのは、表6に示す揚水発電(前出)の活躍であった。

表6 東京電力リニューアブルパワーの揚水式発電所一覧

表6 東京電力リニューアブルパワーの揚水式発電所一覧

※上記の東京電力リニューアブルパワーの揚水式発電所662.8kWの他、電源開発や自治体の揚水発電を含めて計850万kWが活躍した。
出所 東京電力リニューアブルパワー「水力発電所一覧

 具体的には、表6に示す、東京電力リニューアブルパワーの揚水発電(約663kW)に、電源開発や自治体などがもつ揚水発電も加えて、計850万kWの揚水発電が電力のひっ迫時に活躍し、その重要性が再認識された。

 このため、東京電力PGは、揚水発電における上部調整池の水の残量(発電可能量)の状況を、順次、Titterで「揚水式水力発電所の発電可能容量(kWh)の残量」などの情報を発信し続けた注8


▼ 注8
例えば、2022年3月22日午後7時35分の東京電力PGのTwitterを参照。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...