どのような対策で電力使用率を引き下げたのか
電力の需給ひっ迫予想に対して、表2(2)の実績値では、電力使用率が97%を下回り、危機的な状況を回避できた(すなわち予備率が3%を超えて電力を確保できた)。
それでは、実際にどのような対策で電力使用率を引き下げたのだろうか。
最も危機的であった、使用率が100%になると予想されていた6月29日の時間別の需給状況を、表3(1)の午前、表3(2)の午後に分けて見てみよう。
表3 2022年6月29日における電力の需給状況(赤枠は注目点)
※需要は、「火力」「水力」「バイオマス」「太陽光」「風力」「揚水」「連系線」の合計値。
(注)供給力=需要+供給予備力、使用率=需要÷供給力
[出典]東京電力パワーグリッドの公開データをもとに自然エネルギー財団が作成
出所 自然エネルギー財団・メディアセミナー「電力システムの柔軟性:6月下旬の東京エリアの電力需給ひっ迫」、2022年7月28日
表3(1)と表3(2)のそれぞれ下の詳細な表は、6月29日当日の東京電力PGの需要に対する供給力が、火力発電、水力発電、バイオマス発電、太陽光発電、風力発電、揚水発電、連系線(他の電力エリアからの電力融通)となっていたことを示している。
〔1〕6月29日の午前:太陽光の供給力が1,134万kW(20%以上)へ
6月29日の午前〔表3(1)〕の実績を見ると、9時〜10時〔表3(1)の青色の網掛け部分〕が使用率のピーク(96%)に達していた。
「この表3(1)で注目していただきたいのは、赤枠で囲った太陽光、揚水、そして連系線で、これらが非常に重要な役割を発揮したことがわかります。例えば、太陽光に関しては9時〜10時で、1,000万kWを超える電力供給(1,134万kW)を実施しています。これは、需要〔4,776万kW、表3(1)左〕に対して23.7%(=1,134万kW÷4,776万kW)と、2割を超えるほど重要な供給源になったということがわかります」(石田氏)。
さらに、「注目すべきは揚水発電です。揚水発電とは、図1に示すように、2つの大きなダムを上部と下部に建設し、余剰電力があった場合に、下の池から上の池に余剰電力で水を吸い上げる。そして電力が足りなくなると、この上のダムに貯めた水を下のダムに落として、水力発電と同じように電力供給する方法です。
6月29日の午前〔表3(1)〕では、使用率がピークとなる9時〜10時の間、揚水発電はマイナス(−83万kW)になっていますが、これは余剰電力を使って水をくみ上げている状態です。しかし10時〜11時には揚水発電は21万kW、11時〜12時には32万kWというように、揚水発電で発電が開始されています。このように揚水発電は、電力系統用の大型蓄電池のような役割を果たしているのです」と石田氏は続けた。
さらに石田氏は、「9時〜10時では、連系線によって580万kWが他の電力エリアから供給され、これらを総合して実績(使用率ピーク)でも同時間帯には96%(予備率4%)に収まったのです」と、多様な対策によって需給ひっ迫が回避できたことを解説した。
〔2〕6月29日の午後:揚水発電の供給力が602万kW(約12%)へ
次に表3(2)の6月29日午後を見ると、当初は16時〜17時に使用率ピークが100%に達してしまう(予備率0%)と予想されていたが、表3(2)の下表の実績を見ると、太陽光は475万kW〔表3(2)の青色の網掛け部分〕と、需要の1割近くを供給している。また、揚水発電は、午後に入ってからどんどん供給量を増し、16時〜17時には600万kWを超える供給量(602万kW、約12%)になっている。そして連系線からも、6月29日午後では約600万kW前後が供給されている。
「太陽光、揚水、連系線などと、供給力の中心になっている火力と組み合わせることによって、需要に対する十分な供給力を提供できたのです。その結果、使用率ピークは90%で収まり、午後の時間帯は最高でも92%となりました。これによって、需給状況としては心配のないところに落ち着いたのです」(石田氏)。