[特集]

「電力需給ひっ迫」危機を回避する電力システムの柔軟性

― 6月の東京エリアの「需給ひっ迫」をどう乗り越えたか ―
2022/09/09
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

揚水発電および地域間連系線と節電の効果

〔1〕大きい揚水発電の役割

 これまで見てきたように、6月末の電力需給の調整において、揚水発電の果たす役割は非常に大きかった。表4に、2022年度の夏季における沖縄を除く9つの電力エリアに、どれくらい揚水発電の供給力があるかを示した注4

表4 揚水発電の供給力(2022 年度夏季)

表4 揚水発電の供給力(2022 年度夏季)

※四捨五入の関係で合計が合わない場合がある。
※揚水発電では、発電所ごとの運転継続時間により使用する調整係数が異なる。表中には参考で運転継続時間が8時間、4時間の場合の2パターンを記載している。
※調整係数の詳細な数値は、本機関ホームページ「2022年度供給計画で用いる太陽光・風力・自然式水力・揚水式水力のエリア別調整係数・L5出力比率一覧表」参照。
[出典]電力広域的運営推進機関「電力需給検証報告書 」、2022年6月
出所 自然エネルギー財団・メディアセミナー「電力システムの柔軟性:6月下旬の東京エリアの電力需給ひっ迫」、2022年7月28日

 例えば東京エリアだけでも、1,000万kW近いに991万kWの供給力がある。前述した6月29日時点の実績でも、揚水発電は600万kW強(602万kW)であったので、まだ供給量に余力がある。表4に示すように、この東京エリア以外の中部、関西、中国、九州などのエリアでも、かなりの揚水供給力がある。そのため、今後、需給ひっ迫が起きた際にも大きな効果を期待できる。

〔2〕地域間連系線による電力融通

 地域間連系線による電力融通も大きな役割を果たしたが、その状況を見てみよう。

 図2は、地域間連系線による電力融通の現状と増強計画を示している。東京エリアには、北海道・東北エリアからの供給と、西日本の中部エリアを通じた供給が可能になっている。

図2 地域間連系線による電力融通の現状と増強計画

図2 地域間連系線による電力融通の現状と増強計画

出所 資源エネルギー庁、「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証について」、2022年4月12日

「現在は、東北エリアからの550万kWと中部エリアからの210万kWを合わせて最大760万kWが供給可能です。これはまだ〔表3(2)に示す602万kWに比べて〕少し余裕があります。さらに2027年度に向けて、増強計画が進んでいます。これによって、両方合わせると1,300万kWを超える電力融通(1,028万kW+300万kW=1,328万kW)が可能になりますので、現状の2倍近い規模の電力融通ができるようになります。このため5年後になれば、より多くの電力融通によって、需給ひっ迫を解消しやすくなると期待されています」と、石田氏は5年後を見通して解説した(今後のさらなる増強計画「マスタープラン」については後述)。

〔3〕節電も大きく貢献

 6月末の電力の需給ひっ迫において、特に夕方の需給状況を改善した大きな要因として、節電がある。電力需給ひっ迫注意報を受けて、例えば、東京エリアでは、企業が自ら自家発電を増やす、あるいは工場の稼働を停止する、自治体では東京都庁オフィスの照明を落とす、東京タワーのライトアップを停止するなどによって電力需要を減らした。

 また家庭でも、照明を落とすことや冷房(エアコン)の温度を上げるなど、様々な工夫で節電された。2022年3月の電力需給ひっ迫警報発令時の分析結果注5では、16時〜17時台の節電量が大きくなり、想定された最大需要より400万kW程度も需要削減ができ、節電は、需給ひっ迫の解消に大きな効果を発揮した(本誌2022年5月号参照)。

〔4〕太陽光発電は24%も貢献

 今後の太陽光発電への可能性と期待について、石田氏は次のように述べた。「電力の需給ひっ迫問題が起こると必ず、『太陽光は昼間しか電力供給していない』といわれますが、図3に示す6月29日の状況を見てみると、青色の棒グラフが需要(kW)で、オレンジ色の棒グラフが太陽光発電量(kW)になり、かなり活躍していることがわかります。ちょうど午後に向かって需要が増えるタイミングで、太陽光も供給力が増えていました。一番使用率が高かった9時〜10時〔使用率ピークの時間帯、表3(1)参照〕では、需要に対して24%(=1,134万kW÷4,776万kW)もの太陽光が供給されました。一方、夕方の16時〜17時の時点でも9%〔=475万kW÷5142kW、表3(2)参照〕と、1割近い供給力になっています。したがって、もしこの太陽光発電が2倍の規模があれば、より多く日中の電力を供給できたのです。」

図3 電力需要に対する太陽光発電量(2022年6月29日、東京電力PG)

図3 電力需要に対する太陽光発電量(2022年6月29日、東京電力PG)

出所 自然エネルギー財団・メディアセミナー「電力システムの柔軟性:6月下旬の東京エリアの電力需給ひっ迫」、2022年7月28日

〔5〕老朽化する火力発電

 一方、火力発電所は夏の高需要期(7月・8月)に備え、計画的な補修点検も含めて、運転を停止していたところもあった。しかし、需給ひっ迫の解消に向けて急遽、点検中の千葉県市原市にある姉崎火力発電所の5号機を稼働させようと、6月29日に運転再開の計画が発表された注6

 しかし石田氏は、「実際には設備の補修に時間がかかり、運転再開できたのは6月30日の朝になってしまい、残念ながら、予想(使用率ピーク)が100%になるとされた6月29日(前出の表3)に、姉崎火力発電所は動かすことができませんでした。補修作業に時間がかかった理由は明確にはされていませんが、1つ考えられるのは、同発電所は運転開始(1997年4月)から45年以上も経過していることです。老朽化した火力発電の運転を、安定的に維持するのは難しいという課題があります」と述べた。

〔6〕燃料を海外輸入に頼る火力発電から燃料費ゼロの太陽光/風力発電へ

 図4の全国的な火力発電の供給力の推移を見てみると、老朽化した火力発電設備が順次廃止されている中で、2022年度が一番少なくなっている(11,272万kW)。図4では、2023年度、2024年度は再び増加する見通しになっているが、火力発電は2021〜2025年度の5年間では400万kWくらい(441万kW)が廃止、2026〜2030年度の5年間は、その2倍にあたる881万kWの廃止が計画されている(図5)。

図4 火力発電所の供給力(全国)

図4 火力発電所の供給力(全国)

[出典]供給計画届出書
出所 資源エネルギー庁「電力需給対策について」、2022年6月30日

図5 老朽化・廃止へ向かう火力発電所

図5 老朽化・廃止へ向かう火力発電所

[出典]資源エネルギー庁、「今後の火力政策について」、2022年3月25日
出所 自然エネルギー財団・メディアセミナー「電力システムの柔軟性:6月下旬の東京エリアの電力需給ひっ迫」、2022年7月28日

「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて火力発電の新設については、非常に少ないと予測されていますので、これから2030年に向けて、火力発電の発電容量は縮小していくことを見込む必要があります」(石田氏)。

 2020年度における日本の電源構成のうちの75%は火力発電になっており、その燃料となる石炭・石油・天然ガス(LNG)の多くは海外からの輸入に頼っている。日本のエネルギー自給率は11%(2020年)注7と、先進国の中で最も低く不安定であるため、今後、燃料費がゼロである太陽光発電や風力発電などへの期待が高まっている。

〔7〕再稼働するも老朽化する原子力発電所

 2050年カーボンニュートラルへの実現とともに、電力需給ひっ迫の解決に向けて注目されているが課題も多い原子力発電も、火力発電と同様に老朽化が進んでいる。

 図6に、日本の原子力発電所の最新の状況を示している。再稼働10基から廃炉24基を含む全60基についてマップされている。

図6 日本の原子力発電所の状況(2022年6月29日時点)

図6 日本の原子力発電所の状況(2022年6月29日時点)

設置変更許可申請:原子炉設置に関する基本設計および体制の整備等の基本方針の変更について、安全性に問題のないことを原子力規制委員会に審査してもらうための電力会社からの申請 未申請:新規制基準に対して適合性の審査へ未申請の炉のこと
出所 資源エネルギー庁、原子力立地政策室・原子力広報室「地域との共生と国民理解の促進」、令和4(2022)年6月30日

「現状で、日本の原子力発電所で再稼働ができたのは10基ですが、すべて西日本エリアで、東日本では1基も再稼働がされていない状況です。表5に再稼働できた10基、そして設置変更許可7基を示していますが、表5の右側に示すように、運転年数30年を超えるものがかなり多くなっています。例えば、高浜3号機は37年、美浜3号機に至っては45年ですので、このような老朽化した原子力発電所に、今後の安定供給、電力需給ひっ迫の解決策を期待するのはなかなか難しいと思われます」と、石田氏は原子力に発電ついても老朽化の課題を述べた。

表5 原子力発電所の状況(再稼働と設置変更許可)

表5 原子力発電所の状況(再稼働と設置変更許可)

[出典]原子力規制委員会の情報をもとに自然エネルギー財団が作成
出所 自然エネルギー財団・メディアセミナー「電力システムの柔軟性:6月下旬の東京エリアの電力需給ひっ迫」、2022年7月28日


▼ 注4
電力広域的運営推進機関「電力需給検証報告書」、2022年6月

▼ 注5
2022年6月の状況についての詳しい分析結果はまだ発表されていない。

▼ 注6
株式会社JERA、「姉崎火力発電所5号機の運転再開予定日について」、2022年6月28日〔JERA:東京電力フュエル&パワー(FP)と中部電力の合弁会社。設立は2015年4月〕

▼ 注7
資源エネルギー庁、「直近の電力需給・卸電力市場の動向について」(2022年3月25日)を参照

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