需給調整を柔軟に行うための対策は?
図7 柔軟で安定した電力システムへ
出所 自然エネルギー財団・メディアセミナー「電力システムの柔軟性:6月下旬の東京エリアの電力需給ひっ迫」、2022年7月28日
これまでに述べた電力の需給ひっ迫状況に対して、今後、その解決に向けた調整や対策を柔軟に行うために、どのような方法があるのだろうか。
〔1〕短期的な対策
短期的な対策(図7上部)として、第1は、電力の需要と発電量の予測精度を向上させることである。予測精度が高くなると、時間単位ごとにピンポイントで様々な政策を打てるようになる。第2は、揚水発電と地域(エリア)間連系線の運用の最適化を図り、これらを時間帯ごとにきめ細かくうまく運用していくことである。第3は、需要を減らすという観点から、デマンドレスポンス(DR)と節電プログラム注8を拡大していくことである。
〔2〕中長期的な対策
一方、中長期的な対策(図7下部)としては、第1に、太陽光や風力などの分散型の自然エネルギー発電設備の導入を拡大することである。
「皆さんの記憶にあるように、2018年9月に北海道でブラックアウト(北海道全域の295万戸が停電)が起きたのは、「平成30年北海道胆振(いぶり)東部地震」(M6.7)によって、大規模な石炭火力発電所の運転停止注9したことによる停電が原因でした。この事例が、まさに大規模集中型発電所に依存する危険性です。このような危険性を回避するには、数多くの太陽光発電や風力発電などの分散型自然エネルギーの発電設備を導入することによって、一部の発電設備が故障しても全域へ影響を与えないような対策が重要になります。これによって、電力システムに柔軟性をもたらすことができるようになるのです」(石田氏)。
第2は、蓄電池の導入を拡大することである。余った電力を蓄えて、必要なときに供給する蓄電池への期待は大きいが、まだコスト問題も含めて蓄電池の普及はこれからである。今後、中長期的に蓄電池を大量に導入することによって、蓄電池と同じ役割を果たす、揚水発電(前述)と合わせることによって、電力の需給調整をより幅広くすることができる。
第3は、前出の図2に示した地域間連系線の増強である。この課題については、現在、電力広域的運営推進機関(広域機関)注10で、更なる増強に向けて「マスタープラン」(次世代に向けた全国の送配電網の整備に関する基本計画)が検討されており、その実現が期待されている。
第4は、建築物の省エネ性能をさらに向上させることである。すでに、ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、ZEH−M(マンション)、ZEB(ゼブ:ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)などによって建物の省エネ(節電)が推進されているが、日本の省エネ制度は、海外に比べるとまだ向上の余地がある。このため、省エネ制度の更なる強化で、建物のエネルギー需要を減らすことが効果的な対策になる。
「このような短期・中長期の対策を複数組み合わせることによって、電力システムをより柔軟に構築できるようになるため、需給調整も容易になり、電力の需給ひっ迫にも対応しやすいシステムとなります。その結果、エネルギー安全保障の解決にもつながっていくのです」(石田氏)。
今後の展開:予備率の改善にも期待される大規模蓄電池
石田氏は、最後に予備率の改善に向けた動きとして、前述した蓄電池に関する新しい動きを紹介した(関連記事:本誌3ページのトピックス参照)。
写真1は、2022年7月14日に、関西電力とオリックスが共同で発表した、和歌山県の紀の川変電所に大規模な蓄電所(電池方式:リチウムイオン電池)を建設する計画だ。
写真1 和歌山県・紀の川蓄電所の建設予定地とイメージ
出所 関西電力プレスリリース「オリックスと蓄電所事業へ参入」、2022年7月14日
図8に、紀の川蓄電所事業における「平常時」と「電力ひっ迫時」の仕組みを、表6に和歌山県・紀の川蓄電所事業の概要を示す。
図8 紀の川蓄電所事業の仕組み(平常時と電力ひっ迫時)
×印:雨天などにより、太陽光による発電量不足によって電力がひっ迫している場合を示し、このような場合は左の蓄電池から放電して、需給ひっ迫を解消する。
出所 オリックス・ニュースリリース「関西電力との共同事業、2024年に運転開始 蓄電所事業に参入」、2022年7月14日
表6 和歌山県・紀の川蓄電所事業の概要(敬称略)
出所 以下を参考に編集部で作成
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2022/pdf/20220714_1j.pdf
https://www.orix.co.jp/grp/company/newsroom/newsrelease/220714_ORIXJ.html
紀の川蓄電所は、定格出力48MW(4万8,000kW)で、定格容量は113MWh(約1.3万世帯分の電力/日)となっており、2年後の2024年4月に運転開始の予定である。
石田氏は、「このような規模の蓄電所を関西エリアに10カ所建設すると、48万kW(480MW)くらいになります。これは関西の最大需要(2,500〜2,900万kW前後)の2%程度に相当しますので、例えば予備率が3%を切るようなときに2%分を蓄電池で供給できるのは、非常に重要な改善策になります。東京エリアなどでも同じような対策が取れるので、電力需給ひっ迫時には、今後、このような蓄電池の増強も有効な手段となってきます」と締めくくった。
▼ 注8
DRと同様に、節電に協力した事業者や家庭に何らかのインセンティブを与えるサービス。例えば東京電力エナジーパートナーは、「今すぐ役立つ省エネ情報:TEPCO省エネプログラム2022」を実施中。
▼ 注9
2018年9月6日の未明、「平成30年北海道胆振(いぶり)東部地震」が発生〔M6.7(震度7)〕。3.11東日本大震災と同規模の大型地震で、北海道全域の約295万戸が停電(ブラックアウト)した。このとき、北海道電力の苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所(石炭火力。総出力165万kW、北海道厚真町)では、地震発生前の総需要の約310万kWのうち、約50%にあたる約150万kWという、一極集中の発電状態であった(詳細は本誌2018年10月号参照)。
▼ 注10
電力広域的運営推進機関(広域機関):「広域連系系統のマスタープラン及び系統利用ルールの在り方等に関する検討委員会」を設置(22020年8月28日、第1回開催)し、そこで長期的な方針であるマスタープラン(次世代に向けた全国の送配電網の整備に関する基本計画)が策定されている。
「マスタープラン策定に向けた長期展望について(連系線増強の方向性)」2022年6月23日、