イオンモールが描く将来像
〔1〕不透明な再エネ調達コスト、そのリスク対策にも地産地消化は有効
脱炭素化にあたり、現状では、将来にわたる電力調達コストが見通せないことが課題となっている、と渡邊氏は指摘する。
再エネの普及が見通せない中、系統電力料金や単価に関しての将来的な予測が困難となっている。非化石証書付き電力価格の変動のほか、CO2排出量取引制度注20の実現は不透明なままだ。さらに、将来的には炭素税注21の導入も見込まれる。
年を追うごとにエネルギー課題に伴うコスト変動の増加が予想され、プロジェクト遂行の不確実要因となっている。「こうしたリスクを排除しながら脱炭素化を実現する方策として『地産地消』は意義があり、これによって、(図8のグレー部分の棒グラフに示すように)より安定的な電力調達ができるのではないか」と渡邊氏は予見している。
図8 将来の電力価格変動のイメージ
出所 イオンモール株式会社、「地域の脱炭素社会実現への貢献 ~地域とともにお客さまとともに地産地消の再生可能エネルギーを創出~」、2022年10月7日
〔2〕将来は、地域のソリューション・プラットフォームを目指す
イオンモールが目指しているのは、脱炭素化だけではない。防災や防疫など、今後の店舗運営に必要な要素を総合的に実現した「地域のソリューション・プラットフォーム」となることを目指している。その概要を紹介しよう。
(1)地域の防災拠点
イオンは2019年7月、内閣府と災害対応に関する連携協議を締結し、警察や消防、自衛隊と災害時の対応方法について、法律で想定されていない事態を含め検討を重ねている。
2019年9月、千葉県で台風15号による甚大な被害を受けた際には、イオンモール木更津の駐車場内に、東京電力の復旧拠点を設置するなどしている。地産地消の再エネ化は、こうした防災機能のいっそうのレジリエンス(強靱化)にもつながる。
(2)施設の安全・健康の追求
イオンモールでは、モール施設の感染症対策に関して、早稲田大学理工学術院と共同研究を実施して、施設や運営の安全性を確認している。
同社では、独自に「イオン新型コロナウイルス防疫プロトコル」(2020年6月制定、2021年4月改訂)を制定し、明確な基準で防疫対策に取り組んでいるが、そのリスク低減の実効性を、「新型コロナウイルス感染症制御における換気の役割」などで知られる同大学の田辺 新一(たなべ しんいち)教授の研究室と学術的な観点で検証を行った。
この実証期間は2021年4月から2022年3月まで行われ、6月に主な検証結果を発表している注22。
(3)資源循環システムの確立
イオンモールでは、モールの新規建設やリニューアルを行う際、資源循環システムの構築に取り組んでいる(図9)。新築時に使用する建材にリサイクル不可能建材を使わず、最終的にはリユース建材とリサイクル建材のみで施設を建築することを目指している。
図9 建設における資源循環システム構築の概念図
出所 イオンモール株式会社、「地域の脱炭素社会実現への貢献 ~地域とともにお客さまとともに地産地消の再生可能エネルギーを創出~」、2022年10月7日
〔2〕SDGs注23を実現するプラットフォームへ
イオンモールが考える将来の理想像は、脱炭素だけでなく、人々の健康、自然との共生、生物多様性、レジリエンスなど持続可能な社会SDGsを実現し、地域の人々の暮らしにソリューションを提供するプラットフォームとして機能することを目指している。
「地域の経済を循環させ、そこで暮らす人に幸福を提供する。私たちは、そういう役割を地域で果たしていきたいと考えています。そのためのまさにベースの1つとなるのが、地産地消再エネ100%化だと位置づけています」と渡邊氏は語る。
▼ 注20
CO2排出量取引制度:あらかじめCO2など温室効果ガスの排出枠を設定し、その枠を取引することを目指す制度。排出枠より多く排出した場合は、排出枠が余っている事業者などから枠を買うことで名目上のCO2排出ゼロを実現する。企業や国単位で導入が検討されている。
▼ 注21
炭素税:石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料に、炭素(C)の含有量に応じて税金をかけることで需要を抑制し、結果としてCO2排出量を抑えることを目指す政策手段。
▼ 注22
https://www.aeonmall.com/files/management_news/1728/pdf.pdf
▼ 注23
SDGs:Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標。持続可能でよりよい世界を目指す国際目標で、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」など17のゴール(目標)で構成されている。