[特別レポート]

2040年に「地産地消再エネ100%」を目指すイオンモールの取り組み

― 「まちの発電所」や「V2AEON MALL」で地域に根ざした再エネ利用を促進 ―
2022/11/13
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

イオンモールの新たな取り組み

〔1〕再エネ利用をさらに進展させ2040年に「地産地消再エネ100%」へ

 イオンモールの脱炭素化へのアプローチで特徴的なのは、達成目標へのアプローチの途中でその手法が変わることだ。当面は、2025年までに国内全モールの使用電力を「100%再エネ」とし、さらに2040年には直営モールで「地産地消再エネ100%」とすることを目指している。

 そのために直営モールをコアとした、地域のエネルギー供給網の構築を目指している(図4)。今後は、太陽光発電所の新設をはじめ、段階的に風力発電といった他の発電手法や水素エネルギー、蓄電池などを活用していく予定だ。これらによって、直営モール全店で必要となる年間電力量約20億kWhを調達する。

図4 地産地消の再生可能エネルギー創出のための全体像

図4 地産地消の再生可能エネルギー創出のための全体像

出所 イオンモール株式会社、「地域の脱炭素社会実現への貢献 ~地域とともにお客さまとともに地産地消の再生可能エネルギーを創出~」、2022年10月7日

(1)「まちの発電所」

 地産地消の再生可能エネルギー創出のためにイオンモールがまず手掛けたのが「まちの発電所」(図5)だ。全国各地の太陽光発電所と直営モールをつなぐ取り組みで、全国約740カ所の低圧太陽光発電所注11からの電力を、直営モールに供給する。計画では、発電規模は合計で約65MW、対象となる直営モールは全国で31施設となっている。これらの施設では自己託送注12による電力調達を、すでに2022年9月から行っている注13

図5 「まちの発電所」対象施設と発電施設の例

図5 「まちの発電所」対象施設と発電施設の例

出所 https://www.aeonmall.com/wp/wp-content/uploads/2022/09/20220920.pdf

(2)オフサイト太陽光発電施設の開発

 各地域では、低圧・分散型の太陽光発電施設の開発を進めている。

 地域にある耕作放棄地を中心とする遊休地を活用するほか、耕作地の上に太陽光パネルを設置する営農型(ソーラーシェアリング)の設置も行う予定である。

「すでに構築された電力供給網から供給するのではなく、私たち自身で再エネを創ることが重要だと思っています」(渡邊氏)。

(3)来店するEVと連携する「V2AEON MALL」

 「V2AEON MALL」は、顧客がEV(電気自動車)で直営モールに来店した際、その蓄電池の電力を、EV充放電器によってモール側に放電するという新しい取り組みだ。これによって、各家庭の余剰電力を直営モールに供給できる。顧客には、イオンモールから環境貢献指数の見える化やポイントなどを提供する(図6)注14

図6 EVによる地産地消の電力融通「V2AEON MALL」の仕組み:顧客参加型の再エネ循環プラットフォーム

図6 EVによる地産地消の電力融通「V2AEON MALL」の仕組み:顧客参加型の再エネ循環プラットフォーム

出所 イオンモール株式会社、「地域の脱炭素社会実現への貢献 ~地域とともにお客さまとともに地産地消の再生可能エネルギーを創出~」、2022年10月7日

 これは、いわば顧客参加型の再エネ循環プラットフォームで、イオンモールでは「V2H」注15になぞらえて「V2AEON MALL」(Vehicle to AEON MALL)と呼んでいる。そのために、直営モールにEVの充放電器も設置するほか、顧客にポイント提供を行うため、最新のブロックチェーン技術注16によるシステムやアプリの開発も進めている。

 さらに、植樹活動や廃棄プラスチック回収、食品ロスの対策協力など環境貢献活動に対しても数値化を行うなどして、環境活動全般を活性化する。この取り組みは環境省の「グリーンライフ・ポイント」の対象事業となっている。

「これらの施策は、イオンモールに来ていただくお客さまに対して、地域の脱炭素社会を一緒に実現していきましょうという、私たちからのメッセージでもあります。私たちは、お客さまの暮らしをより豊かにするため、地域の主役であるお客さま自身の『環境意識』を『行動』につなげられるようサポートしたいと考えています」と、渡邊氏はその狙いを語る。

〔2〕地域に根ざした再エネ電力調達の拡大を目指す

 前述の〔1〕の取り組み以外にも、イオンモールは地産地消の再エネを調達する様々な取り組みを行っている。その一部を紹介する。

(1)卒FIT注17電力の受け入れ

 FITが終了した世帯からの太陽光電力の受け入れについても、積極的に進めている。各世帯には、供給量に応じてポイントを提供、そのポイントをイオンの各施設で利用するといった循環が生まれている(図7)。

図7 「卒FIT」余剰電力を活用した店舗の再エネ化

図7 「卒FIT」余剰電力を活用した店舗の再エネ化

出所 イオンモール株式会社、「地域の脱炭素社会実現への貢献 ~地域とともにお客さまとともに地産地消の再生可能エネルギーを創出~」、2022年10月7日

 すでに、イオンモール名古屋茶屋/岡崎/長久手などで運用されており、各施設の使用電力量の5〜25%をカバーしている。

(2)EV充電器・充放電器の拡充

 EV充電器は国内136モールに、1,841基を設置済みである(2022年2月末時点)。

 前述の「V2AEON MALL」のために、今後は充放電器の増設も予定されている。またEVだけでなく、物流トラックなどにFCV注18(燃料電池自動車)を導入する動きもあり、それに対応して設備も変更・拡充していく。

(3)洋上風力発電や水素なども視野に

「洋上風力発電注19、特に浮体式に着目しており、最新の状況をウォッチしています。他に小型水力発電や、地域の資源循環という視点で考えたとき、バイオマス発電利用の可能性もあると考えています。」(渡邊氏)。

 イオンモール各店舗では、施設内にガソリンスタンドを併設しており、そこが将来的にEV充電ステーション、もしくはFCVの水素ステーションにもなり得る。「そうなれば水素による発電施設を作り、その電力を店舗でも利用することも考えられます」(渡邊氏)。


▼ 注11
低圧太陽光発電所:定格出力が50kW未満の太陽光発電施設を指す。

▼ 注12
自己託送:企業が自家発電した電力を、一般送配電事業者が所有する送配電ネットワークを利用して、離れた場所にある事業所へ供給できるという仕組み。

▼ 注13
https://www.aeonmall.com/wp/wp-content/uploads/2022/09/20220920.pdf

▼ 注14
https://www.aeonmall.com/files/management_news/1671/pdf.pdf

▼ 注15
V2H:Vehicle to Home、EVと家庭の電源をつなぎ、EVの蓄電池の電力を家庭で使えるようにするシステム。

▼ 注16
ブロックチェーン技術:取引履歴を暗号技術によって1本のチェーンのようにつなげ、正確な取引履歴の維持を目指す技術。暗号資産(ビットコイン)で初めて実用化された。

▼ 注17
卒FIT:再エネ固定買取制度「FIT」の買取期間である10年間を満了した発電設備。

▼ 注18
FCV:Fuel Cell Vehicle、燃料電池自動車。水素と酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーによって走る。乗用車が市販されているほか、バスやトラックなどの大型車両でも実証実験が進められている。

▼ 注19
洋上風力発電:海洋上に設置した風力発電。海上に設置された風車を風の力によって回転させて発電する。沿岸付近の浅瀬に建設する固定式のほか、海上に浮かせた構造物上に構築する浮体式がある。

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