トラフィックは3倍に達する!
全世界のモバイルデータトラフィック調査では、2023年から1年間の増加の伸び率は25%、月間トラフィックは145EB〔1450億GB。1エクサバイト(EB)=10億ギガバイト(GB)〕となった。トラフィック(通信回線でやりとりされるデータ量)の伸び率は過去30%前後だったものが少し下がった(図3)。通信を維持するにはネットワーク容量を年間で25%増やさなければならないため、事業者にとって厳しい状況は続く。
この結果に基づき、今後のトラフィックとその伸びを予測すると、トラフィックは2023年から2029年の6年間に約3倍になる(図4)。
このように増え続けるトラフィックに対応するには、高速・大容量通信が可能なミリ波(5G用に導入された28GHz帯および39GHz帯)の活用だけでなく、抜本的なネットワーク容量の確保も必要だ。そこで鹿島氏は、「4Gトラフィックの5Gへの移行」の必要性を挙げる。
現在、5G通信は4G(LTE)の設備と5Gの基地局を組み合わせるNSA(Non Stand Alone、4Gと5Gの併存システムともいわれる)が多く、実際、ネットワークを流れるデータのうち5Gを介しているのは2023年時点で25%に留まっている(図3のグレーの折れ線グラフ)。この25%しか利用していない5Gの空きスペースに4Gトラフィックを移行して、トラフィック全体の容量を確保する、というものだ。
図3 全世界のモバイルデータトラフィックと前年比成長率(EB/月)
出所 エリクソン・ジャパン株式会社、「エリクソンモビリティレポート 2024年6月版記者説明会」資料P8より抜粋
図4 世界のモバイルデータトラフィック(EB/月)の推移
XR:Extended Reality。クロスリアリティとも読む。現実(リアル)世界と仮想(バーチャル)世界を融合し、新しい体験を創造する技術。XRは「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」などを含めた総称。
FWA:Fixed Wireless Access、固定無線アクセス
出所 エリクソン・ジャパン株式会社、「エリクソンモビリティレポート 2024年6月版記者説明会」資料P9より抜粋
端末デバイスの普及・進化と5Gネットワークによる新機能
今回の調査でネットワーク以外のトピックについて、鹿島氏はスマートフォンを挙げた。
スマートフォンは、出荷台数ベースで2024年第1四半期では6%程度の伸びを示し、回復の傾向を見せている。また、スマートフォン1台あたりのデータ通信量は、2023年の世界平均は17GB、これが2029年には42GBに急増すると予測している(図5)。加入者が増えることを勘案しても、1ユーザーあたりのトラフィックは2倍以上に増える計算となる(42GB÷17GB=2.47倍)。そのため、今後のネットワーク整備は、こうした状況も視野に入れる必要がある。
5Gネットワークは、基地局や制御設備などにおいて5G専用の技術・機器や、標準化された5G専用の5GC(5G Core Network)などで構成する5G SA(Stand Alone)への移行が進んでおり、それによって多彩な新しい機能の提供が進められている。
例えば、ネットワークを仮想的に分割(スライス)して複数のサービスを同時に提供するネットワークスライシングをはじめ、鉄道や空港旅客などミッションクリティカルな通信(基幹業務の通信)で使われるタイムクリティカル通信(遅延時間などの時間制約の厳しい通信)、各種センサーなどIoT機器との5G通信を容易にする新たな通信技術RedCap(Reduced Capability、5G端末の機能を縮小した規格)などだ。
RedCap(レッドキャップ)は、5G NR(New Radio)をベースとした5G専用のセルラーIoT規格で、文字通り5GのNR機能をIoT向けに制限(機能を縮小)したもの。このRedCap端末としては、ウェアラブル端末やネットワーク・カメラなどの利用が想定されている注2。
図5 スマートフォン1台あたりのモバイルデータトラフィック(GB/月)
出所 エリクソン・ジャパン株式会社、「エリクソンモビリティレポート 2024年6月版記者説明会」資料P10より抜粋
注2:従来、4G(LTE)をベースとしたセルラーIoTによるLTE-M規格やNB-IoT規格が策定され普及してきた。