[収益化に関する分析] |
厳しさが増すモバイル事業環境のもと、収益を確保するにはどうすべきか。鹿島氏はそのキーワードとして、「5Gミッドバンド」を挙げた。
5Gネットワークでは、大きくハイバンド(高周波数帯。24GHz帯以上)、ミッドバンド(中間周波数帯。1〜6GHz帯)、ローバンド(低周波数帯。1GHz帯以下)の3つの周波数帯が使用されるが、ミッドバンドは、通信容量とカバレッジ(通信範囲)のバランスをとった利用に適している(日本では3.5GHz帯と4.5GHz帯が5Gミッドバンドとして割り当て)。
データ無制限プランはシェア拡大につながらない
現状、5Gではどのようなサービスが提供されているか。世界的な市場トレンドとしては、データ通信利用量に応じたサービス設定が主流となっており、これに加えてデータ使用量無制限のサービスも増えている。しかし、このサービスは市場シェア拡大に必ずしもつながらないという結果が出ている。これはエリクソンがヨーロッパ西部の通信会社41社の調査した結果によるものだ(図6)。
その一方で、xDSL注3のような有線通信による固定ブロードバンド回線の代替として、無線通信を使うFWA(Fixed Wireless Access)サービスが伸長している(図7)。2024年4月現在、プロバイダによるグローバルFWAサービスの提供は全体の78%、その中で5Gサービスを展開しているのは53%。また2022年4月時点の調査から開始している、回線速度ベースのサービス展開は21%であるが、それが2024年4月時点では40%とほぼ倍増している(図8)。
図6 無制限サービス提供に関する市場シェアの推移(西ヨーロッパ)
出所 エリクソン・ジャパン株式会社、「エリクソンモビリティレポート 2024年6月版記者説明会」資料P14より抜粋
図7 FWA接続数(単位:百万)
出所 エリクソン・ジャパン株式会社、「エリクソンモビリティレポート 2024年6月版記者説明会」資料P15より抜粋
図8 FWAサービスプロバイダの40%が速度ベースのFWAを提供
出所 エリクソン・ジャパン株式会社、「エリクソンモビリティレポート 2024年6月版記者説明会」資料P16より抜粋
ユーザーは料金だけでなく「通信性能」も重視
ユーザー視点からは、5Gネットワークの性能がユーザーの評価を大きく左右することが、エリクソンのコンシューマ部門の調査・レポートで明らかになっている(図9)。
世界各国で通信事業者の乗り換えをしたユーザーにその理由を調査したところ、最上位は「料金プランの安さ」だが、以降は「通信速度」「屋外カバレッジ」「屋内カバレッジ」「接続の安定性」といった通信性能に関する項目が並ぶ。これらの割合は合計すると45%(=13%+11%+11%+10%)にも及び、通信性能がサービス乗り換えに大きな影響を与えていることがわかる。
また、どのような場所で通信の問題を感じ、それが解約の動機となったかという調査では、空港やアリーナ、コンサート会場といった非日常的な場所(図9右)が多い。その場合、6カ月で解約する可能性は他の場所に比べて約3倍にものぼっている。
図9 ユーザーロイヤリティ(サービスに対するユーザーの評価)に関するユーザー分析
出所 エリクソン・ジャパン株式会社、「エリクソンモビリティレポート 2024年6月版記者説明会」資料P17より抜粋
2.5秒が適正、1.5秒になると良いという評価
ユーザー体験の判断に、鹿島氏は「Time-to-Content」を挙げる。「Time-to-Content」は、画面タップ(クリック)などで要求してから望むコンテンツが表示されるまでの時間のことで、ユーザー体験を評価するうえで重要な指標となる。
この調査では、ユーザーが「適正」と感じるのは2.5秒以下で、1.5秒になると「良い」と感じるという結果となっている(図10)。逆に4秒以上になると「悪い」と判断される。この秒数は、アップリンク(上り)とダウンリンク(下り)の総合的なネットワーク速度で決まり、2.5秒で表示するためには通信速度は10Mbps程度、1.5秒の場合は20Mbpsが必要となる。
図10 Time-to-Content:ユーザー体験の評価
出所 エリクソン・ジャパン株式会社「エリクソンモビリティレポート 2024年6月版記者説明会」資料P18より抜粋
注3:xDSL:Digital Subscriber Line、デジタル加入者線。アナログの電話回線を使用して高速なデータ通信を行う方式。ADSL、VDSL、SDSL、HDSLなどいくつかの方式があるので、総称してxDSLと呼ばれる。