[特集]

対談:放送・通信融合を語る(3):放送・通信融合時代の制度的・政策的な課題は何か?

2006/07/31
(月)
SmartGridニューズレター編集部

【4】通信の自由化は、インターネットでリアリティをもった!

慶應義塾大学 村井 純 教授

村井 全くそのとおりですね。ただ、1985年の通信の自由化というのは、制度的には革命的でしたが、結局インターネットが出てくるまでリアリティがなかった。通信が開放されると「こうなる!」という開放後の具体的なイメージは、90年の初頭に草の根的なインターネットが登場するまで実感できませんでした。

このように、インターネットという従来とまったく異なる形の通信のイノベーションによって、リアリティがもてるまでに7~8年かかっています。そのきっかけとなったのも、さまざまな分野でのデジタル化でした。

ですから制度的には、もう少しいろいろな検討の機会をもっと前に作っておけばよかったと思います。実際にはその努力をしてきたつもりでしょうが、背景には、国における制度・政策上からの抵抗感、あるいは放送業界の壁のようなものがありました。結果として、実態的にはその壁や抵抗感を破れないということだったのです。

実際、とくに放送側からの通信(インターネット)に対する警戒心というのは、とても根強いものを感じます。さきほどお話した在り方懇(「通信・放送の在り方に関する懇談会」)は、このように警戒されているからこそ注目された面もあります。一方、在り方懇によって、このようなタブーがなくなり議論できるようになったことは、少しでも前に進んだことだと思います。

今後、この放送・通信の新しい世界が本当にブレイク・スルーするのは、とても魅力的で、楽しくて、みんなが支持するようなサービスが出てきた時だと思います。そのように出てくるサービスは、誰も止められないのです。

社会的に支持されるサービスや魅力的な技術の裏づけがあれば、制度や政策の改革は、必然的にせざるを得ない状況ができ上がっていくのだと思います。

亀山 今、村井先生がおっしゃったように、改革があった時点からそれが熟して実際の行動が起こる(リアリティをもつ)までというのは、確かにタイムラグがあります。しかし、世の中が急速に発展しているため、ちょうど20年前の開放がリアリティをもつためのタイムラグが7年だとすれば、現在は多分その半分、あるいは4分の1くらいのタイムラグでリアリティをもつようになると思います。

ひょっとすると、放送・通信の融合という話が、政策レベルできちんと話されるということになると、間もなく(1年とか2年くらいに)バーンと爆発するようなことが起こるのではないでしょうか。

—そのブレイク・スルーというのは、いつごろ起こりそうなのでしょうか?

村井 いつ起こるかというよりも、私は必ず2つの力が作用すると思います。その2つの力というのは、たとえば通信の場合、電話などの技術がひっぱる方向性の力や流れと、マーケットの中から出てくる方向性の力や流れがあります。いつもこの2つの間の駆け引きのようなものがあり、結局、VoIPのようなところが、大きな象徴として展開してきたのだと思います。

これは、放送の場合もまったく同じことを予想することができます。現在の放送は、ひっぱる技術力と制度を持っています。そこからちょっとはみ出たところで、新しいサービスや、新しい制度、さらに新しい考え方を生み出していく。この場合も、技術の力に加えて、マーケットの力、人の力とか、草の根的なボトムアップな力などがあります。このような2つの力の流れがあるのです。

これからの展開の背景として、電話事業者の夢と、放送事業者の夢と、それから利用者の夢があり、それぞれ多少方向性が違っている。そのため、これらがいろんな形でぶつかりあったり、融合したり、仲良くなったり、妥協したりしながら未来を創っていく。こういう流れだと思うのです。

 

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