固定・移動の合計が8億台を突破する勢い

表1に示すように、中国の電話市場は固定・移動を合わせて、7億8400万台(2006年5月現在)と、間もなく8億台を突破する勢いである。そのうち携帯電話は急速に伸びており、固定電話をはるかにしのぐ、4億2100万台に達し世界No1のモバイル大国となっている。
その人口普及率は、まだ、30.3%(中国の人口は約14億人)であり、飽和状態といわれる日本の普及率77.5%(9300万台、日本の人口約1億2000万人)に比べて、まだまだ成長が見込める巨大マーケットである。
中国人は電話を使って話をするのが非常に好きな国民で、これが携帯電話の普及を後押ししている。さらに、中国特有の短くて的確に相手に伝える漢字4文字で、相手とコミュニケーションする文化の歴史があるため、短い文章で話の内容を相手に伝えるショート・メッセージ(SMS)が大変普及しており、これも携帯電話の普及を後押ししている大きな要因となっている。
現在、SMSは、携帯電話のコール数を超えてしまうほどの勢いで成長しており、SMSと携帯電話(音声)が同じように取り扱われて普及していく、世界でもユニークな国である。
携帯電話は4億台を突破!
表2に示すように、中国の携帯電話方式の市場は、GSMが3億8700台と中国の携帯電話市場の91.6%のシェアをもっている。これは全世界のGSM市場の20.2%を占めている。一方、CDMAは3400万台で、これは中国市場で8.4%、世界では11%を占めている。
中国における携帯電話の普及台数の推移を、図1に示す。1997年時点では1000万台を超えたところであったが、4年後の2001年になると1億4400万台と10倍以上となり、2006年5月には4億台を突破し、4億2100万の加入者数になっている(PHSの9200万台は含まない)。
TD-SCDMAの大規模な実証実験を展開
表3に、中国の移動体通信事業者ごとの携帯電話の加入者数(2005年末時点)を示す。中国では、基本的に2億4700万のユーザー数をもつチャイナ・モバイル(中国移動)と、その約半分の1億2500万のユーザー数をもつチャイナ・ユニコム(中国聯通)の2社で市場を分け合っている。現在、中国政府は、移動体通信が本格的に第3世代(3G)に入る時期にきていると認識しており、3G導入に向けて積極的に取り組みを開始している。
3G については、すでに、チャイナ・モバイルからW-CDMAのサービスが、チャイナ・ユニコムからCDMA2000 1X、1xEV-DOのサービスが提供されている。ここでは、これらの3G方式とは別に、中国から提案されITU-Rで標準化(勧告化)された、中国の3G方式(中国が知的財産権を保有)である「TD‐SCDMA」(注1)の取り組みを紹介する。
このTD-SCDMAは、商業化については他の3G方式(W-CDMA、CDMA2000など)から1歩遅れている状況である。しかし、中国政府の本格的なサポートを受けて、現在フィールド試験(2006年10月まで)が行われており、まもなく追いつく見込みである。TD-SCDMA方式の商用化については一部に悲観的な見方があるが、TD-SCDMAと同じTDD(時分割複信)方式を採用しているPHSが中国で生存し普及している現状を見れば、TD-SCDMAは中国で普及できると確信している。
通信事業者3社がTD-SCDMAの実証実験を展開
TD-SCDMA方式の実証実験には、3社の通信事業者が参加している。具体的には、新しい事業者として、固定系電話通信事業者のチャイナ・テレコム(中国電信)とチャイナ・ネットコム(中国網通)が参加し、また既存の移動電話通信事業者としてチャイナ・モバイル(中国移動)が参加している。
このTD-SCDMAの実証実験では、中国政府のサポートの下に、北京(ペキン)、上海(シャンハイ)、青島(チンタオ)、保定(ホテイ)、厦門(アモイ)などいろいろな規模の5つの都市が選定され、2006年2月から10月の約8カ月にわたって、大規模な実証実験(フィールド・トライアル)が行われている。
TD-SCDMAの目標は、通信事業者と通信機器ベンダの協力によって、高速化、商業化、ビジネス化を図ることであり、W-CDMAやCDMA2000などとの競争に勝つことである。
表4に、TD-SCDMAの実証実験に参加している通信事業者、実験都市、通信システム・メーカー、端末メーカーを示す。
図2、図3に示すように、すでにTD-SCDMAの基本的な設計とネットワークの構築が完了し、高速データを加えない状況でのテスト(無負荷状況のテスト。電話のみのテスト)は終了している。この試験では、一般電話の通話試験、たとえば固定電話、PHS、GSMなどとの相互通話試験などが行われた。
また、音声のほかに、ビデオフォン(テレビ電話)や映像のストリーミング、SMS(ショート・メッセージ)などの試験サービスも提供されてはじめており、このフィールド・テストの最終の結果は、本年(2006年)10月に公表される。
なお、中国では、すでに3G以降の3.5G(第3.5世代)についても取り組み進んでおり、WiMAX(IEEE 802.16-2004および802.16e-2005)については、すでに3.5GHz帯の周波数が割り当てられている。当面、29の大都市でのサービスを目指して、CETC-Chinacommという新しい通信事業者が候補者として名乗り出ている。
中国は世界最大の通信国家へ
中国の工場で生産した携帯電話のワールドワイドの2005年の出荷台数が3億台を超え、世界市場生産台数約9億台の30%以上を占めている。今年はもっと大きな生産台数となる。これに無線基地局(BS)、移動交換局(MSC)などすべての移動通信機器を加えると、中国の移動通信システム関連製品については、すでに世界最大規模の生産大国になっている。
2010年になると、中国の電話市場は10億ユーザーになると想定され、そのうち約6億人以上が携帯電話ユーザーとなる。全体的な売上高は1000億USドル(12兆円)に達し、10兆個のSMS(ショートメッセージ)が発信されるだろうと予測されている。
(注1)
■TD-SCDMA:Time Division Synchronous Code Division Multiple Access
時分割複信(TDD)方式による同期符号分割多元接続。第3世代(3G)携帯電話の無線インタフェース方式の一つ(正式名称:IMT-2000 CDMA TDD)。
1999年にITU-Rで勧告化された、W-CDMAやCDMA2000などと並ぶIMT-2000の標準無線インタフェースのうちの一つ。中国から提案され勧告化(標準化)された、歴史的なインタフェースのため、中国政府はTD-SCDMAによる商用サービスに向けて、国をあげて積極的な取り組みを展開している。
TD-CDMA方式が下り(基地局からユーザー端末の方向)のみ同期を取るのに対し、TD-SCDMAは、上り(ユーザー端末から基地局方向)も同期(Synchronous)をとる(すなわち、上りと下りの両方で同期をとる)方式である。このため、TD-CDMAにS(Synchronous)と言う文字が追加されている。
■TD-CDMA:Time Division Code Division Multiple Access
時分割複信(TDD)方式による符号分割多元接続(正式名称:TD-SCDMAと同じIMT-2000 CDMA TDD)。W-CDMAやCDMA2000と並ぶIMT-2000(第3世代)の国際標準方式の一つ。
■TDD:Time Division Duplex
時分割複信。同一の周波数を時間的に分割し、「上り」と「下り」を交互に切り替えて通信する双方向通信方式。