東京大学 教授 江﨑 浩 VS KDDI 執行役員 冲中秀夫
—これまでのお話を整理すると、インターネットが進化してグレイター・インターネットになっていくと、NGNとの差別がなくなってしまうような気がしますが。
江﨑 NGNが、すべての情報通信ネットワーク上に存在しているコンピュータ同士あるいは端末同士で、コミュニケーションできるという前提で設計しサービスを提供するのか、それともクローズドな(グローバル)ネットワークのサービスを提供するのか、というところが大きな違いだと思います。
—冲中さん、実際にウルトラ3Gの中ではどうなのでしょうか?
ウルトラ3G(NGN)のルータはQoSをもつ
冲中 図1(KDDIの次世代ネットワーク「ウルトラ3G」構想)を見てください。図1のIPコア網の部分、いわゆるトランスポート(次世代CDN:コンテンツ配信ネットワーク)の部分は、いずれIPv6になるシステムですが、ここの部分だけを取り出せば、これはインターネットもNGNも、基本的に機能は変わっていない。
ただし、NGNのために、この各ルータすべてに何段階かのQoSポリシーをもたせていて、それを上位のサービス制御レイヤであるIMS(MMD)からコントロールする、そういうインタラクティブネス(相互作用性)をもたせています。
つまり、NGNの中核部分は、実はこのIMSといわれるところであり、これがSIPベースで動いているのです。この中核部分が本当にオープンかといったら、基本的にはオープンではない。セキュリティやネットワークのインテグリティ(完全性)の課題がありますから。しかし、各通信事業者間は当然、このIMS同士を相互接続するためのプロトコルを規定する必要があります。
江﨑 そのときの、いわゆるインターネット上で動いているSIPサーバとIMS(MMD)の相互接続、あるいはルーティング・ポリシーというのが一番重要となりますね。
冲中 物事を逆に見れば、図1のIMS(MMD)レイヤにあるSIPサーバと、インターネットがもっているSIPサーバの間の相互接続が、インターネットの世界から見て必要なのかどうか、という質問になります。必要とするのであれば、当然作らなければいけません。しかし、誰がその相互接続のトリガーを引くのか、ということが問題になります。
江﨑 その通りですよ。私は、それを実現しなくてはいけないと思っています。つまりウェル・コントロール(よく制御)されたSIPのネットワーク(NGN)と、ウェル・コントロールされていないネットワーク(インターネット)でも、つながってくれないと、エンドユーザーとしては困るのです。
その場合、そのNGNのサービスの提供の仕方として、例えばそのキャリア・グレード用のSIPサーバと、キャリア・グレードではないSIPサーバが通信事業者(キャリア)のNGNの中に存在しても、いいと思います。ユーザーがどちらか選べばよいのです。
これはいわゆるルーティングのインテリジェンスですね。ユーザー端末から見ると、遠くの京都にいるAさんと、近くの東京にいるBさんを区別しなくていい。知らないうちにユーザーの端末(コンピュータ)が選んでくれれば、それでいいという気がします。
以上のように、2種類のSIPサーバを1個ずつ(計2個)もつ、あるいは、通信事業者にとっては、2個は面倒なので1個にして1台のSIPサーバ内で機能分担させる、また、1個にして運用が不安定になるなら分ける、というのが運用上のデザインになっていくと思います。
—最初、インターネットで出てきたときは、端末側が知的処理を行い、そのネットワーク側はパケットを流すだけでよいといわれてきたのに、ネットワーク側は結構複雑になってきましたね。
江﨑 今のインターネットでも、DNSサーバあり、DHCPサーバあり、メール・サーバあり、ファイアウォールなどなど、かなり複雑にはなってきていますよね。いわゆるシンプルという定義が少し変わってきていると思いますよ。
ですから、私がグレイター・インターネットと言ったのは、そのNGNのオールIP化の話と絡んでいるのです。やはり、ひとつのコンピュータから、グローバル・スペースが見えるかどうか、グローバルにリーチャブル(到達できる)かどうかというのがインターネットで重要なことなのです。先ほど申し上げたグレイター・インターネットとしては、それが担保(保証)できるかどうかが重要なのです。