[特集]

神尾 寿の新ビジネス・モデル研究(3):GPS搭載義務化で活性化する位置情報ビジネス

2006/11/27
(月)
SmartGridニューズレター編集部

高精度測位衛星時代に向けて発展は続く

中長期的な視野に立てば、GPS利用サービスはビジネス規模の拡大もさることながら、その後に続く高精度測位衛星時代に向けての"布石"としても重要である。

高精度測位衛星では、日本は今年3月、内閣官房が「準天頂衛星システム計画の推進に係る基本方針」を発表。GPS補完システムである準天頂衛星を、官主体で推進する方向性を打ち出した。

まずは第1段階として、早ければ2008年に1機の準天頂衛星を打ち上げて、宇宙航空開発機構(JAXA)が運用する形で技術実証・利用実験が始まる予定だ。この準天頂衛星を使えば、測位誤差1メートル以内の精度での測位が可能になるだけでなく、測位速度も向上する。

準天頂衛星に対する携帯電話業界の注目も高まってきている。過日、筆者はクアルコムジャパン 代表取締役社長の山田純氏にインタビューをしたのだが、その際に山田氏は、「日本で準天頂衛星が稼働したら、(クアルコムは)早いタイミングで対応する考えである」と話した。日本のGPS携帯電話のほとんどがクアルコム製のチップセットを搭載していることを鑑みると、同社が準天頂衛星を前向きに捉えていることは重要な意味を持つ。

EUが推進する「Galileo」計画

また海外に目を向けると、欧州連合(EU)が推進する「Galileo」計画が注目である。こちらはGPSと同様に、複数の衛星による全地球測位システムであり、EU各国はもとより、中国や韓国などアジア地域での採用も決まっている。また、欧州のITS推進組織ERITICO(European Road Transport Telematics Implementation Coordination Committee)が推進する次世代交通安全コンセプト「e-Safety」での採用も決まっている。

Galileo計画は現在、最終的に30個になる人工衛星の打ち上げ中であり、正式な運用開始は2010年の予定だ。それまではGPS衛星の信号を補完する形で利用し、クルマや携帯電話でのアプリケーションやビジネス開発を進めていくという。

Galileoが正式運用になれば測位誤差は1メートル以下になり、高精度な位置情報サービスが実現できる。また、アメリカ空軍が管理する現在のGPSに比べて運用の透明性が高く、地域による測位精度の違いが是正されると考えられることから、EU各国をはじめ採用国ではGalileoを使った位置測位システムの利用が盛んになるだろう。

なお、日本ではアメリカのGPSシステムと連携・補完する準天頂衛星を推進しており、高精度測位衛星も「日米協調」路線を貫く方針だ。

用語解説

ETRICOとe-Safety
ERITICOは、欧州のITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)推進組織であり、EU諸国の自動車メーカー、欧州委員会および各国政府、大学とともにITSの実現とビジネス化に向けた活動を行っている。同様のITS推進組織としては、北米市場を統括するITS America、アジア市場の中心的役割を果たしているITS Japanがある。

そのERITICOが、2003年にマドリッドで開催されたITS世界会議において提唱した、総合的な次世代安全システムのコンセプト名が「e-Safety」である。e-Safetyは2006年現在、クルマの事故未然防止システムから道路インフラとの協調安全システム、次世代緊急通報システムまで様々な分科会に分かれてシステム開発・実証実験を行っており、その中でGalileoシステムを使ったアプリケーションの研究も進んでいる。

GPS関連市場は2007年以降さらに拡大する

GPS搭載義務化という"外因"もあるが、携帯電話ビジネスの中でGPSは重要な位置を占め始めており、その動きは来年さらに広がりそうだ。auに続き、ドコモやソフトバンクモバイルでもGPSが携帯電話の標準的な機能になり、GPS関連サービスの市場は大きく拡大するだろう。さらに「地図の見やすい液晶」や「ナビゲーションが操作しやすいポインティング・デバイス」といったデバイスの新たな需要を喚起する可能性もある。

携帯電話ビジネスの今後において、「GPSによる位置情報」と「デジタル地図」は見逃せない要素になる。この分野に注目し、また自らもユーザーの立場でGPS携帯電話と関連サービスの体験をしておいて損はないだろう。

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