[標準化動向]

IPTVの標準化動向(1):NGNと連動してIPTVの標準化スタート!

2006/09/04
(月)
SmartGridニューズレター編集部

ITU-TでIPTVの標準化作業が始まった。ここでは、 2006年7月10〜14日、スイス・ジュネーヴで開催されたFG IPTV(ITU-T内のFG)の第1回会合の模様をレポートする。初の会合ということもあり、組織論的な議論が中心で、技術的な議論はあまり行われなかったようだが、そもそもIPTVとは何かに関して、スタートから参加者間でかなり意見が分かれたようだ。とくに中国・韓国などのアジア勢が積極的に提案文書を提出した。これら異なる見方が、標準規格の策定に向かってどう収斂されていくのか、注目される。

「IPTV」とは何か?分かれる見方

国際的に放送と通信の融合が注目され、NGNの標準化を背景に、IP(Internet Protocol)ネットワークを使用して映像コンテンツを流す「IPTV」への関心が急速に高まっている。現在日本では、IPマルチキャスト(※1 用語解説参照)を使って有線放送のように、番組を再送信することの是非を巡って、議論が活発化している。

IPTVは非常に幅の広い概念で全体像を捉えることは容易ではないだろう。マルチキャストを使った放送的なものやVODのように通信ベースのものもある。また、IP再送信(※2)のように従来の放送システムに対する深い理解なくしては容易に実現できないものもある。

日本では、民放キー局(※3)各社なども積極的に提供している蓄積型サービス「VoD」(ビデオ・オン・デマンド)や、インターネットの双方向性を利用したマルチメディア・サービスである「ネットTV」のようなサービスも含めて「IPTV」と呼ばれることがある。

ここでは、2006年6月にITU-T内に新しく設立されたFG(Focus Group)である「FG IPTV」における、IPTV技術の標準化動向を中心にレポートする。後述するように、IPTVの標準化に着手するにあたってはかなり議論されたが、そもそもIPTVとは何かに関して、参加国の間でかなり見方が異なっていることが浮き彫りとなった。

例えば、

(1) 地上デジタル放送のIP再送信を念頭におく人

(2) すでにあるVoDサービスの延長線上のマルチメディア・サービスを考える人

(3) または「Not Just TV Broadcasting」というように、IP網の双方向性を生かした「これまでにないすごいサービス」を想定している人

など、各国の放送制度、事業体の戦略の違いなどを背景に、参加者からは多様な意見が出された。すなわち、現在「IPTV」という用語は、「IPによるテレビ放送」という言葉上の解釈はできるものの、具体的にある定義された特定のテレビ放送技術を指すものではなく、幅広い概念を含んでいる用語として認識されているのが現状である。

IPTVは現在のテレビ放送に比べるとまだ国際的に広く普及しているとは言えないものの、一方では、すでに一部で実用化され、サービスが提供されてはじめている国もある。このような状況に加えて、同じくITU-Tでは通信インフラのオールIP化を目指してNGN(次世代ネットワーク)の標準化作業が進められている。このNGNは、従来のベスト・エフォートのインターネットとは異なり、QoSが確保されたIPをコアとするネットワークである。

このNGNのキラー・アプリケーションの一つとして 位置づけられるIPTVに関する技術の標準化を目指して、1年程度の期間を目安に、テーマを限定し集中的に審議するグループ「FG IPTV」(ITU-T)で、本格的な標準化の作業が開始されたのである。

なお、FGとは、国単位による参加・投票という性質上、どうしても標準化(勧告化)作業に遅れが生じるITUが、ドッグ・イヤー的なペースで発展する通信業界などにおける技術の標準化に、その名の通り、集中的かつスピーディに取り組むべく設けた議論グループのこと。

ITU-Tのメンバー(主に企業・団体)でなくても、自分の出身国がITUの加盟国なら誰でも参加することができる。活動期間は原則1年間である。FGでの集中審議により基本技術仕様を作成した後に関連するSGへ文書を移管し、勧告として承認する予定である。なお、Focus GroupについてはITU-T勧告A.7(Focus group: Working methods and procedures)で規定されている。関心のある方は参考にされたい。

異例の200名が参加、半数はアジアから

2006年7月10〜14日、FG IPTVの初の会合が、スイス・ジュネーヴで開催された。この種のITU会合としては異例とも言える200名を越える参加があり、IPTVへの関心の高さをうかがわせた。

中でも、中国と韓国からの参加者が目立ち、それぞれ30〜40名ほどが参加。日本からも約20名が参加し、アジア勢だけで参加者総数の約半数を占めた。また、提案文書はほとんどなかったものの、開発途上国の参加も目立ったのが印象深い。

参加者層は、通信事業者や通信機器メーカーがほとんどを占め、放送事業者および放送業界をバックグラウンドとする関係者は全体の1割ほどにとどまった。

第1回FG IPTVへの提案文書は100件を越えたが、その半数も中国と韓国からのもので、日本からは6〜7件であった。ただし、初の会合である今回の主な議題は、WG(Working Group)の構成や、各WGリーダーの選出など、組織論的な話題が中心で、技術的な議論は比較的少なかったことから、中国や韓国には入力文書の数で存在感を示すという思惑があったと見受けられる。これは、中国や韓国からの文書は、主張の見えにくいものが多く、技術的に目新しい提案などが少なかったからである。

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