バックアップ用途にも使われるワンセグ
—ワンセグ・サービスは、放送と通信の融合の身近な例といわれますけれども、この点について、先生はどうみておられますか?
羽鳥 ワンセグを携帯電話に積んでいると、必要に応じて、携帯電話の画面に表示されるデータ放送からインターネット経由で、詳しい情報を取り寄せることもできるといった「放送と通信の連携」ができるわけですから、それはとても重要なことと思います。
すなわち、地震や津波というようなときに、緊急警報放送で、携帯電話の電源をONにしてくれ、まずテレビ放送からの情報が得られ、さらにもっと詳しく情報を知りたいと思ったならば、通信回線(インターネット)でアクセスすることもできるわけです。音声でかけると通信回線がパンクしてしまいますが、インターネット(パケット通信)は簡単にはパンクしませんから、非常にうまい使い方だと思いますね。
また、ワンセグの特長のひとつとして、放送電波の1チャネル(6MHz幅)を13セグメントに分けたうちの1セグメント(ワンセグ)のみを使用して受信しますから、13セグメントを受信することに比べて、信号処理のための消費電力を原理的には13分に1(ディスプレイのための消費電力は除く)に少なくできることがあげられます。
さらに、ワンセグではデジタル変調方式として、地上デジタル放送の64QAM(最大伝送速度の場合)方式よりも遅いQPSKを使用し、誤り耐性のある、つまり信号対雑音比(S/N:Signal to Noise Ratio)のよい方式を採用にしていることがあげられます(※1 最終ページ下の用語解説参照)。
谷岡 羽鳥先生が言われたように、例えば、地上デジタル・テレビ放送を自動車の中で受信していて、電波の受信状態が悪くなってきたら(電波が弱くなってきたら)、画質は少し落ちますが受信感度のよいQPSK方式のワンセグの受信に切り替えることもできます。
携帯への搭載も期待されるフレキシブル・ディスプレイ
—ワンセグ受信ができる携帯電話は、ユビキタス端末に非常に近くなってきますが、研究所では何か新しい研究はされていますか?
谷岡 現在、フレキシブル・ディスプレイの研究を進めています。フレキシブル・ディスプレイは、プラスチック・フィルムを基板に用いて、柔らかくて、落としても割れなく、丸めて巻き取れるようなディスプレイのことです。
現在の携帯電話のような小さな画面ではなく、いつでもどこでも大きな画面で高画質のテレビを簡単に見られるように、巻物のようにして携帯電話の中に格納でき、見るときには引っ張り出して使うというようなイメージを想定しています。
丸められるだけでなく、テレビ受信にも適した画面の明るいフレキシブル・ディスプレイを目指して、技研では有機EL(Organic Electro Luminescence、発光体に有機物を使うEL)と液晶の2つの方式を研究しています。ディスプレイを駆動するためのTFT(Thin Film Transistor、薄膜トランジスタ)についても柔軟なものにしなければいけませんので、有機材料によるTFTの開発にも力を入れています。
—電子ブック用のディスプレイとしても、注目されますね。
谷岡 電子ブックの場合ですと、レスポンスはさほど早くなくても良いのです。けれども、テレビの場合は、動画ですからレスポンスが早く、しかもカラーでなくてはならないので、電子ブックに比べ作成には格段にむずかしい技術が必要になるのです。