[インターネット・サイエンスの歴史人物館]

連載:インターネット・サイエンスの歴史人物館(2)クロード・シャノン

2006/11/28
(火)

飛行物体の航路を予測する研究に従事

クロード・シャノン

クロード・シャノン
(Photo : Courtesy MIT Museum)

シャノンはプリンストン高等研究所に1年間滞在して、1941年9月にニューヨーク市ウェスト通りのベル研究所に入所した。シャノンは、一度観察した飛行物体の航路を予測するために、確率論で信号をモデル化する方法に取り組み始めた。この研究にはノイズが混入した通信経路から伝達するメッセージの信号を取り出したり、暗号から電文を識別する研究と共通点があった。

ウィナーは1942年2月1日、120ページの報告書(The Extrapolation, Interpolation and Smoothing of Stationary Time Series)をまとめ、通信の基本単位がメッセージであり、メッセージは時間的に分散する測定可能な量であると定義し、ノイズにより質が劣化しても統計的な手法で、質の改善や再構成が可能であることを指摘した。

そして、2つの観測点から航空機の位置を確認して、過去の観測地点から航空機の未来の位置を統計的に予測して、一定の時系列における座標上の曲線で表現する方法を数学的に定式化した。ベル研究所ではスティビッツがその解説書を執筆し、シャノンはウィナーの数学を検証しながら予測装置の改良に取り組んだ。

連合軍の勝利に貢献
「XT-1自動追跡レーダー」と「M-9予測装置」

放射線研究所の「XT-1自動追跡レーダー」とベル研究所の「M-9予測装置」は、陸軍により1,256機が欧州戦線に展開され、標的の近傍で爆発する砲弾と組み合わせることにより、命中精度を大幅に向上させ連合軍の勝利に貢献した。

シャノンは1945年、国防研究委員会の報告書「Data Smoothing and Prediction in Fire-Control Systems」を、1935年にコロンビア大学でネットワーク理論を研究して博士号を取得したヘンドリク・ボーディとともに執筆した。ボーディはレーダーから情報を無線で受け取り、サーボモーターを活用したフィードバック・システムで対空砲火の照準と射撃のタイミングを自動化する上で中心的な役割を果たした。彼らが実現したシステムは、最初の戦闘ロボットになった。

大西洋上の通話を暗号化

シャノンには予測装置に続いて、英国のアラン・チューリングと仕事をする機会が訪れた。チューリングは、チャーチル首相とローズベルト大統領など要人が利用する無線の音声通信を暗号化する密命を帯びて、米国を訪れていた。

ケンブリッジ大学の学生だったチューリングは1936年に「計算可能な数について」を著し、ハードウェアもプログラムもデータも同じように2進数で符号化することができ、紙テープを扱うひとつの概念装置で、多様な計算手順を機械化できることを示した。

彼は1936年から2年間プリンストン高等研究所に滞在して、割り込み処理を導入した改良型のチューリング・マシンを完成させて英国に戻り、ドイツ軍のエニグマ暗号の解読機を開発した。割り込み処理は、インターネットの土台となったタイム・シェアリングを可能にする技術へと発展した。

米国海軍は、チューリングの暗号解読機「Bombe」をオハイオ州デイトンのNCRの工場で製造して、1943年から大西洋上の暗号解読を米国で行うことを決めていた。チューリングはデイトンでBombeの設計と利用法を指導し、1942年11月にワシントンDCを訪れ、ベル研究所の技術で英米の要人通話を暗号化できるかどうか評価する役割を担っていた。

アラン・チューリングとの協働

ベル研究所は1935年に、音声信号の周波数を等間隔でサンプリングし、間隔と無音を判別する符号とともに狭い帯域幅で送信して音声を復元するボコーダ(Vocoder)の特許を取得していた。

ベル研究所はこの仕組みを発展させ、1941年に数字で音声を符号化して、ワンタイム・キーで順序をランダムにして送信する「Xシステム」を開発した。Xシステムに対応した装置による英米における最初の通信実験が、1942年2月に行われ、チューリングはその結果を評価して改善点を指摘することになっていた。

チューリングの数学と論理学を理解して、その要望に対処できる人物は、プリンストン高等研究所でジョン・フォン・ノイマン、クルト・ゲーデル、ヘルマン・ヴァイルといった数理論理学の最高の頭脳と交流したシャノンしかいない。通信実験を終えたチューリングとシャノンはすぐに意気投合して、人間の脳をまねる機械やチェスを機械に行わせるアルゴリズムなどについて共通の関心を語り合う間柄になった。

シャノンとチューリングは、極めて限られた無線通信の帯域幅で音声信号を圧縮してノイズの影響を除去する方法を探り、ボコーダ、PCM(Pulse-Code-Modulation)、Xシステムに欠けている問題点を洗い出した。チューリングは3月4日に報告書を完成させて、ワシントンに赴き、3月23日にニューヨークを去った。Xシステムは1943年7月23日に、大西洋を挟んで実稼働に入った。

シャノンは1945年9月1日に、機密文書「暗号の数学理論」(A Mathematical Theory of Cryptography)を著し、その内容は1949年に「機密システムの通信理論」(Communication Theory of Secrecy Systems)で明らかにされた。

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