[インターネット・サイエンスの歴史人物館]

連載:インターネット・サイエンスの歴史人物館(2)クロード・シャノン

2006/11/28
(火)

コンピュータ・チェス・プログラムへの関心

シャノンは1950年に「チェス・プレイのためのコンピュータ・プログラミング」を、サイエンティフィック・アメリカン誌に投稿した。チェスを指すプログラムを示したわけではなかったが、ジョン・フォン・ノイマンとオスカー・モルゲンステルンのゲーム理論のミニマックス・アルゴリズムを最善の一手を計算するために採用した。

ロスアラモス研究所はこの論文を参考にして、ノイマン型コンピュータの「MANIAC」で動く最初のチェス・プログラムを1956年に開発した。その後のチェス・プログラムはミニマックス・アルゴリズムを土台にして発展したので、シャノンはコンピュータ・チェスの父の名を手にした。

シャノンはコンピュータ・チェスには生涯関心をもち続けた。UNIXを開発したケン・トンプソンが1980年にチェス・コンピュータ「Belle」を設計して、オーストリアで開催された世界選手権を征した時、シャノンも現地で観戦していた。

迷路問題を解くネズミのロボット

シャノンは1950年に、迷路問題を解くネズミのロボット「テセウス」(Theseus)を製作した。テセウスとは、ギリシャ神話に登場するクレタ島の迷宮に棲むミノタウロスを倒し生還したというアテナイの王の名前だが、シャノンのテセウスは、迷路の出口を探り出す模型のネズミだ。

仕切りで作った迷路の任意の場所にネズミを置くと、ネズミは出口を探り始める。そして、以前記憶した場所を識別すると、出口に向かって走り出す。ネズミは、迷路の下で動くモーターと電磁石により動くことができる。ネズミの脳は、約100個のリレーで構成された回路で、最初の学習機械になった。

人工知能の領域でも先駆者に

1952年になると、プリンストン大学で数学の博士号を取得したジョン・マッカーシーとマービン・ミンスキーが、シャノンの元で過去の出来事により論理回路の状態が変わるオートマトンの研究に携わった。

この研究は1953年に論文「コンピュータとオートマタ」になり、シャノンは人工知能の領域でも先駆者と見なされるようになった。その後、マッカーシーとミンスキーは人工知能の研究者としての道を歩む。

MITの情報理論の研究者ロバート・ファノは、1956年にシャノンをMITに招き、1949年に結婚したシャノンと妻のエリザベス・ムーアはマサチューセッツ州ウィンチェスタに住まいを移した。マッカーシーは1961年1月に、MITで対話型で利用できるタイムシェアリング・システムを提案し、電話のように利用しただけ料金を支払う「情報ユーティリティ」としてのコンピューティングを提唱した。

マッカーシーは、試行錯誤を繰り返す人工知能の研究を、バッチ処理のコンピュータで行う不便さからタイムシェアリング・システムを望んでいた。しかし、この提案は国防省高等研究計画局(ARPA)のJ. C. R. リックライダーの関心を惹きつけ、1963年4月にARPANETプロジェクトが始動することになる。ファノはMITで、ARPAの支援を受けてタイムシェアリング・システムの開発プロジェクトを監督する役割を担うことになった。

ネットワーク世界の発展への明確な指針

シャノンが指導教授を引き受けた数少ない大学院生のアイヴァン・サザランドは、コンピュータ・グラフィクス、ユーザーインタフェース、オブジェクト指向言語の原点となる「スケッチパッド」を開発して、ARPAの情報処理部長になった。

サザランドと大学院の同期生だったローレンス・ロバーツとレオナード・クレインロックは、シャノンの理論を理解してパケット通信によるコンピュータ・ネットワークを現実に導く原動力になった。シャノンの情報理論を学んだ研究者や大学院生は、通信を音声と電信の世界からコンピュータ・ネットワークの世界に広げる上で、将来の情報通信のロードマップについて明確な指針を得ることができた。

シャノンは1966年にジョンソン大統領から米国科学大賞を受賞してから、講義を行うこともなくなった。それでも1972年までベル研究所のコンサルタントを勤め、MITには1978年まで在籍した。1981年にCDが登場して情報理論が再び脚光を浴びた頃、シャノンはアルツハイマー症の病状を示し始め、93年には介護施設に入らざるえなくなった。クロード・シャノンは2001年2月24日、84歳で永眠した。

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参考文献

Neil J. A. Sloane and Aaron D. Wyner "Biography of Claude Elwood Shannon"

http://www.research.att.com/~njas/doc/shannonbio.html

John R. Pierce"An Introduction to Information TheoryーSymbols, Signals and Noise" Second Revised Edition, Dover Publications, Inc. 1980

Flo Conway and Jim Siegelman"DARK HERO OF THE INFORMATION AGE IN SEARCH OF NORBERT WIENER THE FATHER OF CYBERNETICS" Basic Books 2005

Andrew Hodges "ALAN TURING: THE ENIGMA" Waker & Company 2000

http://www-history.mcs.st-andrews.ac.uk/history/PictDisplay/Shannon.html

http://scienceworld.wolfram.com/biography/Shannon.html

http://cm.bell-labs.com/cm/ms/what/shannonday/work.html

http://en.wikipedia.org/wiki/Hendrik_Wade_Bode

http://en.wikipedia.org/wiki/Nyquist-Shannon_sampling_theorem

 

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