[特集]

対談:電波・周波数を語る(1):通信に適した周波数はなぜ5GHz以下なのか?

2006/11/06
(月)
SmartGridニューズレター編集部

周波数の利用効率を高める
新技術への期待と課題:MIMOやLDPC等

—服部先生、いま話の出た周波数の効率的な利用に関しては、政策的な対応のほかにも、いろいろと技術的な対策も必要だと思いますがいかがでしょうか。

服部 そこは技術開発のひとつの出番ですね。よく光ファイバ関係の研究者の方から「無線はいいですね」といわれます。何がいいかというと、周波数のリソース(資源)は有限ですから、いろいろな技術開発を行う余地があるためです。

服部武氏

光ファイバは、シングルモード光ファイバやマルチモード光ファイバを開発してしまうと、帯域が大きいため、それを使いこなすほどの需要がない。光ファイバも無線も、本来は波を用いた通信媒体ですけれども、このような違いがあります。

周波数は、先ほど申し上げたように、例えば携帯電話ですと、電波は反射と回折(ビルに回り込むように折れ曲がって伝わっていくこと)と散乱という3つの性質を持っています。

電波が基地局から相手(ユーザー端末)に届くまで、ビルなどの障害物がありますから、必ずしも見通しのよい通信の環境とは限りません。これを「見通し外通信」といいます。

ですから、そのような見通し外の領域で通信できるためには、その基地局から送出した電波が、ビルの屋上で回折して伝搬する、また反射しながら伝わっていく必要があります。そういう、複合的な電波のメカニズムによって、電波が相手まで到達するわけです。

ところがその電波の「回折という性質」は、周波数が、数GHz(ギガ・ヘルツ)、例えば4~5GHz以上になると、急激に減衰していくのです。このような場合、電波は、見通しがないエリアには届きにくいのです。

—つまり、4~5GHzが一般的に利用できる周波数の限界ということですね。

服部 そういう意味で、電波には物理的な限界があります。本来は、情報量がたくさん送られる高い周波数の電波を利用したいのですが、高い周波数にはこのような問題があるのです。このため、総務省の指針でも、広域・高速移動通信では、4~5GHzが限界とされ、第4世代の携帯電話には4GHz帯が検討されています。広域的に使用する場合は、それ以上高い周波数は、実用上難しいわけですね。

ですから、広域的に利用する携帯電話などによってマルチメディアを提供するためにブロードバンド化する場合は、周波数の利用効率を上げていく必要があります。そのために、とくに移動環境の伝搬路におけるマルチパス(ビルの反射などによる複数の伝送路)を積極的に利用する研究、さらに電波の伝搬の際に発生する電波のレベル変動(ダイバーシチ)を軽減すること、などを複合的に行って、いかに伝送品質と容量および周波数効率の高いシステムを作っていくかが重要となります。

もうひとつは、屋内あるいは近距離(ショートレンジ)系の通信の場合ですと、見通しのよい通信が中心となりますが、このような環境では周波数としてはもう少し高い5GHzあるいは10GHzなどの、高い周波数でも通信が可能となってきます。

いずれにしても、スピードを上げていくためには、電波の利用率を高めていく必要がありますが、そのような技術として、今までは例えばアンテナを複数設けることによって、複数のアンテナのうち受信レベルの高いほうのアンテナからの信号を利用して、電波のレベル変動を軽減する技術、すなわちダイバーシチ技術があります。

一方、通信路において発生する電波の歪(ひずみ)を克服する技術として、無線LANや3Gなどで使用されている、送信信号を拡散して干渉に強くしたCDMA(Code Division Multiple Access、符号分割多元接続)技術があります。

それから、周波数の利用効率をもっと上げるために、電波の受信状況をフィードバックして、その時々の状況によって、最適な変調方式を選択して受信する「リンク・アダプテーション」というような技術も開発され利用されています。

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