【2】電子タグ
—河内さん、無線PANとしてUWBとともに、電子タグ(RFID)もまた、最近また動きが活発になってきましたが、いかがでしょうか。
河内 UWBが、非常に幅広い周波数帯を使うのに対して、電子タグは周波数的には狭い帯域を使用します。やりとりする情報量は、非常に少ないものの、身のまわりにあるタグの数は多いという状況になると思います。
このように、UWBとRFIDとは通信距離の長さは近いという共通性はありながら、使い方としてはまったく異なっています。電子タグ自身は、いろいろな所で、小容量のさまざまな識別情報をやり取りするような使われ方をしています。例えば、身近では駅で電車の改札を通るときに使うスイカ(Suica、※1)のようなもの、また製品に貼り付けて、物流の管理などにも使われています。
用語解説
※1 Suica
Suica:Super Urban Intelligent Card、JR東日本などが利用者に提供している、定期券やプリペイド・カード(イオカード)機能をもった非接触式のICカードのこと。ソニーが開発した非接触IC「FeliCa (ISO/IEC 18092)」を使用。
—電子タグが使用する周波数帯については?
河内 電子タグが使用する主な周波数帯のうち、例えば135kHz帯は、スキー場でスキーのゲートを通るときにチェックする場合や、食堂の精算などにも使われています。それから、13.56MHz帯は、先ほどのスイカ(Suica)のようなICカードや入退室の管理カードにも使われています。
また、2.45GHz帯は無線LAN(802.11b/g)と同じ周波数帯ですが、先ほどの製品の物流管理、あるいはコンテナに付けるというような使われ方がされています。
—最近の動きについてはいかがですか?
河内 最近では、UHF帯の950MHz帯で、実用化がなされています。今までの無線タグでは非常に短い距離、例えば1m以下、あるいは数cmとか、そういう短い距離での情報のやりとりが主だったのですが、この950MHzの場合では、数mの距離でのやりとりが可能です。このため、例えば、飛行場の手荷物の管理とか、あるいはその飛行機からの物を集めたコンテナの管理などに有効です。
さらに、最近、新しく電波監理審議会から、制度的な答申が出たばかりの規格として、433MHz帯の電子タグがあります(図1)。これは、アクティブ・タグと呼ばれる電子タグです。従来のものはすべてパッシブ型の電子タグでした。すなわち、元のコントローラから電波を受け(パッシブ)て、その電波を反射するという仕組みのものだったのですが、この433MHz帯のものは、アクティブ型なのです。
アクティブ型は、電子タグ自身が電波を出す(アクティブ)という仕組みのタグです。これによって、より高度な情報のやり取りができるようになります。近く製品も出てくるものと思われます。
—服部先生、近距離通信につきましていかがでしょうか?
服部 その前に、先ほどのUWBについて補足しますと、UWBの標準化を進めていたIEEE 802.15.3aでは、2003年から審議を重ねてきましたが、残念ながら2つの方式が対立し一本化できませんでした。
すなわち、2つの方式とはマルチバンドOFDM(MB-OFDM)方式とDS-UWB(直接拡散UWB)ですが、両者はお互い譲らず、3年もの審議を重ねても一本化できなかったのです。このため、標準化ができないまま、802.15.3aは2006年1月に解散になってしまいました。これは、大変残念なことでした。こういうシステムが、広く普及し実際に使ってもらえるようになるためには、相互接続ができることが、非常に重要なのです。
例えば、無線LANがここまで広く普及したのは、Wi-Fiアライアンスという相互接続を認証するような組織が大変重要な役割を果たしたからなのです。残念ながら、UWBはそこまでにいかずに解散してしまったわけです。
IEEE 802.15としての役割は、そこで終わってしまったわけですけれども、今後、業界としてどういう方式を、その標準方式にするかということは、今後も検討していくべきだと思います。それによって、本格的な普及が始まると思います。
—期待されていただけに一本化してほしかったですね。
服部 一方、電子タグ(RFID)は、今後、ZigbeeやBluetoothと並んで、まさしくユビキタス社会のなかで、非常に重要な役割を果たす技術だと思います。物を認識したり、あるいはその位置情報を送るといった、物の位置をピン・ポイントで認識するためには、電子タグのような形で情報を収集し送ることが非常に重要になってきます。
電子タグでは、いろいろな周波数が規定されていますが、周波数には、それぞれの特徴・性質があります。例えば2.4GHzは、水に弱いのです。例えば「みかん」のような水分のあるものは、電波が吸収されて上手く反射しないため、認識率が下がってしまうというようなことが起こるので、注意が必要です。ですから、この2.4GHzを使う電子レンジは、逆にその性質を利用して、水分のあるものを温めるために2.4GHzを使っているのです。
そういう意味で、電子タグのような場合には、いろいろな周波数を用途に応じて使えるようにしておくことが重要で、日本で新しくその950MHzとか433MHzという新しい周波数が追加されるというのは、今後望ましいことなのです。