第4世代(4G)とWiMAXの関係は?
—河内さん、IEEE 802系のWiMAXとか、802.20とかが登場する一方、ITU-Rでは、第4世代(4G)に向けた検討が行われています。WiMAXや802.20も第4世代としての可能性があるわけですが、この辺はどういう風な関係として見ておけばよろしいでしょうか
河内 技術がどんどん進化してきていて、いわゆるWiMAXや802.20のような無線LANの進展技術と、いわゆる携帯電話からの発展である第3世代、第4世代技術との距離はどんどん近づいてきております。
こうした中で、技術を開発される人たちは今後、伸びる市場に対して自分たちの技術を適用しようと考えていて、それを標準化するために提案されているわけです。ですから、それぞれのシステムのコンセプトが適切であり実現可能な技術であれば、両方のシステムに対して標準化の提案をしたからけしからんということにはなりませんね。ただ現時点で、第4世代というのはいったい何かということは、まだ議論の途上にあります。
—服部先生、この辺を研究者のお立場から整理していただけますでしょうか
服部 第4世代というのは、よく2010年頃を目指して、高速移動時に100Mbps、静止時に1Gbpsの伝送速度で、オールIP化を実現するといわれていますが、必ずしも世界的なコンセンサスが確立しているわけではなく、いろいろな見方があります。
例えば、ヨーロッパではIST(※4)というプロジェクトの中で、イースクエア・アール(End to End Reconfiguable Network)という構想が出されています。
これは、これから携帯電話をはじめ、無線LAN、WiMAXなどのアクセス系がいろいろ進展していく中で、ネットワーク全体として、これらをシームレスに接続し、サービスが受けられるようにする構想です。当然、すべてをIPで統合していき、通信プラットフォームがいろいろなアクセス系をつなぎこむ役割を果たすことになります。こういう構想も、大きくは、第4世代という内容を含んでいます。
その中に、第4世代が目標とする具体的な技術として、先ほど申し上げた高速移動時に100Mbps、静止時に1Gbpsのハイスピードを狙うという無線技術上の課題があるのです。
次世代のネットワークは、IPで統合(コンバージェンス)され、IMS(IP Multimedia Subsystem、※5)によって、音声・映像などのコンテンツを含むマルチメディア・サービスを統合的に提供していくことになります。このような、ネットワークの技術、コンテンツのコンバージェンス(統合)の技術、さらにアクセス系の技術などが含まれた、全体の姿が第4世代だと思うのです。
このような中で、ハイスピードを狙うというのは、これは永遠の課題といいますか、当然のことなのです。すでに欧州では、WINNER (Wireless World Initiative New Radio)というコンソーシアムで、次世代のモバイル通信技術やサービス、アプリケーションなどの開発が進められています。
日本でも例えば、移動通信事業者、メーカー、コンテンツ開発企業などで構成される「モバイルITフォーラム 」(mITF:mobile IT Forum)で、第4世代移動通信システムやモバイル・コマースなどを実現するために、次世代モバイルに関する研究開発や標準化の調査研究などが行われています。(つづく)
用語解説
※4 IST:Information Society Technologies、情報社会技術
欧州連合(EU)の欧州委員会(EC)が運営する研究プロジェクト
※5 IMS:IP Multimedia Subsystem、IPマルチメディア・サブシステム
映像(映画・放送)や音声などのリアルタイム通信が求められるアプリケーションを、IP(Internet Protocol)をベースとするパケット・ネットワーク上でも提供できるようにするために、3GPPで標準化された仕組みのこと。詳しくは本サイトの連載「NGNの核となるIMS 」をご覧ください。
プロフィール
服部 武
上智大学 理工学部
電気・電子工学科 教授
総務省情報通信審議会
携帯電話等周波数有効利用方策委員会
主査
略歴
1974年 東京大学 大学院 工学系研究科 電子工学博士課程了(工学博士)
1974年 日本電信電話公社横須賀電気通信研究所 入所
自動車・携帯電話、新コードレス電話方式、パーソナル通信方式、PHSの研究開発推進に従事。この間、研究開発本部調査役、無線システム研究所・研究企画部長/パーソナル通信研究部長などを歴任
1996年 通信網総合研究所ネットワーク企画推進室 主席研究員
1998年より現職(上智大学 理工学部 電気・電子工学科教授)
現在、次世代移動通信方式、高速移動パケット伝送、ワイヤレス・システムにおけるQoSスケジューリング、位置検出、OFDM/MIMO伝送などの研究に従事
<主な活動>総務省情報通信審議会 携帯電話周波数有効利用方策委員会 主査
河内 正孝
総務省 総合通信基盤局 電波部長
略歴
(学歴)
金沢大学大学院工科
研究科 電子工学修士課程
(職歴)
1978年4月 郵政省入省
1997年7月 電気通信局電気通信事業部電気通信技術システム課長1999年7月 放送行政局放送技術政策課長
2001年7月 〃 〃 技術政策課長
2002年7月 〃 総合通信基盤局電波部電波政策課長
2004年1月 〃 信越総合通信局長
2005年8月 独立行政法人情報通信研究機構理事
2006年7月 現職に就任