国際的評価が高い日本の光ファイバ(FTTH)
—放送のような高品質なコンテンツを流すうえで、日本は世界的にみても光ファイバ(FTTH)によるブロードバンドが広く普及してきていますね
村上 先ほど申し上げましたように、日本は国際的に見て、光アクセスと携帯電話とテレビで顕著に先行していますが、とくに光アクセスがこれだけ普及しているのは他に例がありません。しかし、ADSLが全盛の2、3年ぐらい前までは、私たちが光の普及のことを言いますと、世界的にもほんとうにばかにされましたね。スチューピッド(愚か)だと。なぜ、あんな光のような敷設コストが高いものを広めることができるのだと言われました。ところが最近になると、世界的にも結構評価してもらえるようになり、日本を見習おう、光を入れようというところも出てきているぐらいです。
—具体的には、どのような国から評価されているのでしょうか
村上 欧州からも、もちろん米国からも評価されています。とくに米国では、通信事業者がケーブル・テレビ(CATV)に対抗するうえで、光を入れざるを得なくなったのですね。すなわち、放送のような大量の情報をもつ映像コンテンツ流す場合は、やはり光に対して非常に大きな関心を抱くわけです。数年前は、光を銅線による電話の置きかえだけと考えていたため、多くの人は、電話の置き換えになぜ高速な光が要るのだと思っていたのです。
しかし、ここにきて、放送・通信の融合などを背景に、放送コンテンツの流通が現実の課題となり、やはり光が必要だと言われるようになり、最近はスチューピッドだとは言われなくなりました。それに代わって、アグレッシブであるとか、日本はすごいとか、日本の政府(総務省)はすごく先見の明がある、というような声を、海外で聞くようになりました。
ですから、やっぱり日本は光を普及させることによって、そういう新しいアプリケーションとかコンテンツを流せるようになり、この面からも世界をリードしていけるようになるのです。その結果、今度は逆にアプリケーションが光を後押ししてくれるようになっていくと思います。今後、日本の強みとして、アプリケーションを重視したネットワークのコンテンツ流通に注目していく必要があります。
森川 そのとおりですね。日本からではなくて残念ですが、私が一番注目しているものの一つにYouTube(ユーチューブ)があります。YouTubeのようなじゃぶじゃぶ使うアプリケーションが、光をもっている日本から出てきてほしいですね。また最近、インターネット電話ソフトである「スカイプ」を開発した人たち(スカイプの共同設立者:ヤヌス・フリス氏やニクラス・ゼンストローム氏)が、ベニスというプロジェクト(The Venice Project)を立ち上げています。このベニス・プロジェクトはその後、会社名およびブランド名を「Joost(ヨースト)」と決定していますね。
このヨーストは、インターネットをとおしてテレビや映画を配信したり視聴したりする技術です。これは、ファイル共有技術であるP2P(ピア・ツー・ピア)を使用していますが、著作権保護が図られているところが大きな特徴です。このヨーストというのは、分散型のYouTubeのようなもので、1時間そのままつけっ放しにしておくだけで、320MBのダウンロード・トラフィック、105MBのアップロード・トラフィックが流れます。このようにじゃぶじゃぶ使う、そういう光ならではのサービスというものに非常に期待しています。
また、村上さんのお話と重なりますが、今、米国はブロードバンド後進国だということで、かなり危機感が出ています。米国のブロードバンドの定義はかなり低く、200kbpsがブロードバンドの基準となっており、日本とオーダーが異なります。ですから、アジアの各国と比べてもブロードバンド後進国であり、これはいかんというぐらい危機感をもっています。
—NTTの光に対する基本的な戦略は?
村上 NTTは2004年11月に、2010年までに、固定電話6,000万回線(銅線)の半分である3,000万回線を光ファイバ回線にするという中期経営計画を発表し、現在その敷設を進めているところです。しかし、例えばBT(ブリティッシュ・テレコム)は2010年には、全加入者をNGNにすると言っていますが、BTの場合は、光ではなくほとんど銅線のNGNなのです。
—日本は半分、銅線のまま残るのですね
村上 そうですね。私たちが半分の3,000万回線の光化を目指しているのは、光でブロードバンドを使いたい人、つまり、新しいことにトライしたい人たちからNGNを利用していくことになると思います。無理やり光回線に変えるのではないので、当然、銅線のままでよいという人は残るのです。しかし、2010年の段階での光の普及状況をみて、今後とも銅線を残すのか、新しいサービスなどによってオール光化を目指すかは、その時点で判断することになっています。
私たちは、加入者を無理やりNGNに移行させてしまうとか、ブリティッシュ・テレコムのように、加入者が知らないうちにいつのまにかNGNに移行しているということをするのではありません。新しいブロードバンドの世界に行きたいというアグレッシブな人たち(3,000万)にNGNを提供していくのです。それがどのぐらいのアグレッシブさなのかによって、全部銅線を取り払うのか、それとも、部分的に銅線を残しておくことにするのかは、これからの判断になります。
(つづく)
プロフィール
森川 博之 (もりかわ・ひろゆき)
東京大学 大学院工学系研究科
電子工学専攻 教授
略歴
1987年 東京大学 工学部 電子工学科卒業。1992年同大学院博士課程修了。1997年〜1998年 コロンビア大学客員研究員。2002〜2006年 NICTモバイルネットワークグループリーダ兼務。現在は東京大学で教授を務め、コンピュータネットワーク、モバイルコンピューティング、無線ネットワーク、フォトニックインターネット等、多岐にわたる分野で活躍している。総務省情報通信審議会、国土交通省交通審議会専門委員。
村上 龍郎 (むらかみ・たつろう)
NTTサービスインテグレーション基盤研究所
主席研究員
略歴
1981年 日本電信電話公社(現NTT)に入社、武蔵野電気通信研究所。以来、通信ソフトウェアの研究、交換機ソフトウェアの開発、広域LANの構築、インターネットオフロード・VoIPの研究開発を担務し、現在、NGNアーキテクチャの検討をはじめ、NGN関連の標準化に向け精力的に活動している。