[特別レポート]

日本ストラタステクノロジーのNGN戦略:NGN向けテレコムソリューション「ENTICE」

2007/11/05
(月)
山口 学

無停止型サーバ「ftServer」のメーカーとして知られる日本ストラタステクノロジー株式会社は、テレコムソフトウェア「ENTICE」(エンタイス)とftServerを組み合わせたソリューションをNGN市場に向けて積極的に売り込んでいく。ENTICEの実体はLinuxアプリケーションとなっており、インストールするデバイスドライバーの種類によって多様なコミュニケーション機能を実現できるのが特長。無停止クラスの可用性が得られるだけでなく、負荷分散、冗長構成、動的構成変更などにも対応している。ここでは、日本ストラタステクノロジー株式会社・執行役員・第五営業部長本多章郎(ほんだ・あきお)氏への取材をもとにレポートする。
(取材/文:山口 学)

テレコムソフトウェアと無停止型サーバーを組み合わせたNGNソリューション

≪1≫無停止型のftServerをNGN市場に向けて積極的に売り込んでいく

日本ストラタステクノロジー株式会社は、米国Stratus Technologies, Inc.の子会社として、日本国内におけるフォールトトレラントコンピュータシステムの販売と技術サポートを行っている。この「フォールトトレラント」(無停止型)とは、CPUなどのコンピュータの主要部分が多重化されていることを意味する形容詞だ。仮に1系統(3重化では2系統まで)に障害が発生しても「生き残っている」もう1系統のシステムは停止せずに動作し続ける関係上、非常に高い可用性が得られる。そのため、現行ラインナップであるftServerシリーズは、製造、医療、通信、金融など、瞬秒の停止も許されないシステムに採用されることが多い。


写真1 ftServer 6200システム(クリックで拡大)

今後の社会インフラとなるNGNにも、同じように、非常に高い可用性が求められる。しかも、NGNにはコンピュータとネットワークの融合という側面があり、トランスポート、サービス、アプリケーションの各層にIPベースのサーバが多用される。これらのサーバの可用性を高めるにも、ftServerシリーズは最適だ。

本多章郎氏
写真2 本多章郎氏(日本ストラタステクノロジー株式会社・執行役員・第五営業部長)

このような状況を追い風として、日本ストラタステクノロジーはNGNの分野にもftServerを積極的に売り込んでいく。同社でNGN関連ビジネスの指揮を執る本多章郎氏(執行役員・第五営業部長)は、その意気込みを次のように語る。「NGNの普及によって、動的帯域制御やQoSはずっとフレキシブルに行えるようになります。その結果、通信事業者は高度なマルチメディアサービスを容易に提供できるようになり、サービス多様化の時代が花開くことになるでしょう。弊社は、そうした時代に向けて、ftServerの特長を生かしたソリューションを提供していくことを企業戦略の一つに選びました。通信事業者のコアネットワーク向けだけでなく、企業や家庭向けのソリューションにも力を入れていくつもりです」


≪2≫多様なコミュニケーション機能をも持つENTICEをftServer上で動作させる

そうしたNGN向けソリューションとして日本ストラタステクノロジーが販売を開始したのが、ENTICE(Emerging Networks Telecommunications Infrastructure Control Environment)と呼ばれるテレコムソリューションだ。ENTICEの実体はLinuxアプリケーションであり、同社の無停止型サーバ「ftServerシリーズ」上で動作する。

ENTICEの核となるのは、呼制御を行うコールプロセッサの機能だ。具体的には、H.323ゲートキーバーとSIPプロキシー/リダイレクトの役割を果たすソフトウェアである。実際に使用する際は、必要とするコミュニケーション機能に対応したソフトウェアモジュールであるデバイスドライバーをいくつか組み合わせてインストールすればよい。「自由に色付けを変えられる柔軟性が、ENTICEの最大の特長です」と本多氏は言う。

サーバ連結用のソフトウェア/サービスバックプレーンとなるコネクタを備えていることも、ENTICEの大きな特長だ。複数のサーバをコネクタを介して結ぶことにより、負荷分散(帯域別や機能別の分散にも対応)や冗長構成を容易に実現できるのである。また、予備のサーバをあらかじめ用意しておき、トラフィック量に応じて動的に拡張・追加するプロビジョニング型の運用も可能だ(図1)。コネクタで連結する各サーバの仕様は同一でなくてもよいから、ニーズに応じて構成は自由に選べる。「小さく始めて大きく育てる」のにも好都合だ。

インストールするデバイスドライバーの種類によって、ENTICEサーバはSIPサーバ、ソフトスイッチ、セッションボーダーコントローラ(SBC)、シグナリングゲートウェイ、VoIPソリューションなどの多様な役割を演じることができる。


図1 ENTICEのソフトウェアアーキテクチャー。ftServerにENTICEのソフトウェアモジュールを組み込み、NGNの実現に求められる機能をソフトウェア方式で実現する(クリックで拡大)

〔1〕SIPサーバ

ENTICEのもっとも基本的な機能で、NGNの基本プロトコルであるSIPを処理するサーバとして働く。このデバイスドライバーのスタックは、動作中にもダイナミックな追加、変更ができるのが特長だ。SIPには通信事業者やベンダーごとの「方言」が数多く存在するので、それに速やかに対応できるようにするためである。

〔2〕ソフトスイッチ

SIPサーバにH.323サーバを追加すると、ENTICEサーバはソフトスイッチとして動作する。これはIPネットワーク上で回線交換サービスを行うための機能で、ENTICEでは呼制御とプロビジョニングもサポートする。H.323/H.248網のアプリケーションサービス(IPエンドポイントを含む)も提供可能だ。 また、ゲートウェイ機能を併用すると、ENTICEサーバベースの複数のスイッチを論理的に統合する「スーパースイッチ」も構築できる。スーパースイッチは巨大な交換機として動作し、監視や管理は一ヶ所から行えるから、管理コストを抑制する効果は高い。各スイッチの持つ情報はスーパースイッチ内の全スイッチが共有するので、障害発生時の被害も最小限にとどめられる。

〔3〕セッションボーダーコントローラ(SBC)

ソフトスイッチ(SIPサーバ+H.323サーバ)にさらにメディアサーバを追加すると、セッションボーダーコントローラ(SBC)となる。この機能ではIPネットワーク上でのシグナリングとメディアサービスを提供するほか、不正アクセスを境界で遮断するファイアウォールとしての機能も果たす(表1)


表1 セッションボーダーコントローラ(SBC)としてENTICEサーバを使う場合の機能(クリックで拡大)

〔4〕シグナリングゲートウェイ

回線卸業者や長距離通信事業者向けに、既存の交換回線と接続するためのゲートウェイを提供する機能だ。構成は、ソフトスイッチ(SIPサーバ+H.323サーバ)にシグナリングゲートウェイ/メディアゲートウェイ用のコンポーネントを追加するスタイルになる。他社ゲートウェイとして標準でサポートされているのは、Cantata Technology製のSS7サーバなどだ。

〔5〕VoIPソリューション

ソフトスイッチ(SIPサーバ+H.323サーバ)にメディアサーバとクラス5機能をプラスしたものが、ENTICEサーバベースのVoIPソリューションである。これにはAAAサーバ(認証サーバ)や管理用ポータルサイト(リテール用/ホールセール用)も含まれているから、通信事業者にはVoIPサービスを短期間で開始できることが歓迎されるに違いない。ポータルサイトのソースコードは、ユーザー側で自由にカスタマイズできる。

〔6〕運用管理機能・拡張サービス

このほか、ENTICEには標準の運用管理機能として、マシンマネージャー、OAM&Pエージェント(運用管理保守)、レポートマネージャー、データベースエンジンなどが組み込まれている。また、オプショナルな機能を追加するための拡張サービスとしては、ビリングサーバ(課金サーバ)、AAAサーバ(認証サーバ)、ボイスメディアサーバ、プリペイドカード/ポストペイカード処理、ユニファイドメッセージング、コンファレンス(ビデオ会議/電話会議)、冗長化機能なども利用可能だ。

≪3≫将来は一般企業や家庭などのエッジ側にも浸透させていく

機能のすべてをソフトウェアで実現しているENTICEは、NGNへの参加を考えているあらゆる通信事業者にお勧めできるソリューションと言えよう。既存設備に追加する形でサービスを実験的に始めるのも容易だし、商用サービスに移行した後は顧客数やトラフィック量に応じて構成を柔軟に拡張していける。最終的に世の中すべてがNGNになった段階でもソフトウェアはそのまま使えるから、投資が無駄になることはない。

さらに、日本ストラタステクノロジーは、ENTICEをエッジ側にも浸透させていきたいと考えている。「シグナリングで使われるSIPが企業や家庭に直接入り込むようになれば、市場もそれに応じて急拡大することでしょう」(本多氏)と予測しているからだ。もっとも可能性が高いのは、エッジ側SIPファイアウォールとしてSBCが使われるようになるというシナリオである。

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