[特集]

ユビキタス社会を目指して現実化するアドホック・ネットワーク

2007/12/11
(火)
SmartGridニューズレター編集部

国際的にNGNやFMCのサービスが提供されはじめる中で、来るべきユビキタス社会に向けた研究開発も活発化している。例えば、インターネットや電話網といった既存のインフラを使わずに、ユーザー同士が直接結びつくことで形成されるアドホック・ネットワークがその1つである。このアドホック・ネットワークの可能性に注目して、新しい通信環境を実現しようという研究が進んでいる。中でも目を引くのが、通常のプロセッサとは異なるアーキテクチャで設計されデータの送信時にのみ動作〔データ・ドリブン(駆動)と言う〕する「データ駆動型のプロセッサ」システムである。ここでは、いつでもどこでもアドホック(臨時)に構成できるアドホック・ネットワークと、その可能性を切り拓く新しいタイプのプロセッサに焦点をあてる。

ユビキタス社会を目指して現実化するアドホック・ネットワーク

西川 博昭(筑波大学大学院教授)
石井 啓之(東海大学大学院教授)

≪1≫総務省SCOPEの支援を受けた「アドホック・ネットワークの研究」

写真1 西川 博昭教授(筑波大学大学院教授)
写真1 西川 博昭教授
(筑波大学大学院教授)

“ユビキタス社会”を目指して「アドホック・ネットワーク」という言葉はがよく登場するようになった。すでに802標準の一般的の無線LANには、通常使用されている「インフラストラクチャ・モード」とは別に、小規模ネットワーク向けに「アドホック・モード」という機能がある。これは、無線LANのアクセス・ポイント(基地局)を介さずに、端末(ノード)同士が直接通信を行う機能である。アドホック・ネットワークは、この「アドホック・モード」をさらに多くのノードに拡大して、ネットワークにしたものを想像すると分かりやすい。

アドホック・ネットワークは、ノード(端末)同士が結びついて形成される完全にフラット(対等な)なネットワークである。その特性を生かして、新しい通信環境として活用することができないかという研究が、西川 博昭教授(筑波大学大学院教授)と共同研究者である石井 啓之教授(東海大学大学院教授)の下で進んでいる。

この研究は、総務省による研究委託制度である「戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE ※)」を利用したもので、2006年から始まった。

写真2 石井 啓之教授(東海大学大学院教授)
写真2 石井 啓之教授
(東海大学大学院教授)

テーマは、やや難しいが「アドホックユビキタス通信環境向きデータ駆動ネットワーキングプロセッサの研究開発」で、3年間の研究として提案し、現在2年目である。

 

研究は、西川教授と石井教授のほか、NTT情報流通プラットフォーム研究所も協力している。

研究の内容を簡単に言えば、アドホック・ネットワークを実用化する技術の研究と、アドホック・ネットワークに最適な最新プロセッサの開発ということだ。

このうち、プロセッサの開発を西川教授が担当し、アドホック・ネットワークの利用技術のうち、ネットワーク上の情報やユーザーを発見する技術をNTT情報流通プラットフォーム研究所が、アドホック・ネットワークを使って動画などのコンテンツを高い品質で配信するための技術を石井教授が担当している。今回は、そのうち西川教授と石井教授の担当している部分について報告する。

図1 西川プロセッサとアドホック・ネットワークの研究テーマ
図1 西川プロセッサとアドホック・ネットワークの研究テーマ(クリックで拡大)
DDP:Data-Driven-Processor、データ駆動型プロセッサ

※ 用語

SCOPE:Strategic Information and Communications R&D Promotion Programme、総務省の戦略的情報通信研究開発推進制度。情報通信分野における戦略的な競争的研究資金)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/scope/

≪2≫アドホック・ネットワークとは

まずは、アドホック・ネットワークについて簡単に説明しよう。

アドホック・ネットワークは、ノード(端末)同士が直接やり取りする、ネットワークの中心がない完全にフラットなネットワークである。アドホック・ネットワークは、ユーザーがもつノードの要求に応じてその場その場で臨機応変に構築され、いわば草の根的に拡大していく。また、アドホック・ネットワークは、ノードの出入りが自由であるが、自由な反面、不安定でもある。ノードの電波(基本的には無線LANと同じ周波数帯を使用)の届く範囲内であれば、目的の相手と直接やり取りでき、電波の届く範囲外でも他のノードを中継(マルチホップ)することで、やり取りは可能だ。

インターネットのP2P(ピア・ツー・ピア)は、アドホック・ネットワークに似て、ノード同士が直接やり取りをするが、ネットワークのインフラとして既存のインターネット網をそのまま使っている点が、アドホック・ネットワークとの大きな違いだ。

似た仕組みとして思い浮かべられるのは、前述した無線LANのアドホック・モードだ。通常、無線LANは、ポイント・ツー・マルチポイントで、中心となるアクセス・ポイントを、クライアントとなるノードは必ず通る必要がある(インフラストラクチャ・モード)。これに対して、アドホック・モードは、ノード同士が直接通信することができる。ただし、無線LANのアドホック・モードでは電波の届く範囲内で直接1対1(ポイント・ツー・ポイント)の通信を行う。アドホック・ネットワークは、電波の届かない相手とも途中のノードを経由してマルチホップでつなぐことができる通信である。

図2 無線LANに置ける通信の仕組み
図2 無線LANに置ける通信の仕組み(クリックで拡大)

≪3≫アドホック・ネットワーク状にコンテンツを流す技術「MP2P」

次に「アドホック・ネットワーク上で高品質な情報を配信するための技術」について説明する。

アドホック・ネットワークは、ネットワークを形成するノード自体が出入り自由なため、ネットワークとしてはとても脆弱だ。また、アドホック・ネットワークは、そもそも転送するたびに処理の負荷が発生するため、転送段数に比例して、配信するデータのスループットが落ちてしまう。

こうした不安定なネットワーク上でも、品質を落とさないで動画などのコンテンツを提供ためにはどうすればいいだろうか。

ここで、石井教授は、ネットワーク上の複数のノードから、同じコンテンツをダウンロードし、最後にダウンロードしたものを統合することによって品質を維持する技術「MP2P(マルチ・ポイント・ツー・ポイント)」を開発した。

こうした方法であれば、データを送信しているノードがネットワークから外れたとしても、同じコンテンツを複数のノードからダウンロードしているので、データが失われる可能性は低くなる。既存のパソコンを利用した実験では、2つのノードからダウンロードしたほうが、1つのノードからダウンロードしたよりも、動画の品質が高いという結果が出たという。

「アドホック・ネットワークは、プラットフォームがない。電波を出すというノードの機能を利用してつないで行って、最終的にできたネットワークは、結果として、インターネットを使わずに、P2Pとかオーバーレイの通信方式なども擬似的に実現できるかもしれない。NGNやインターネットみたいなりっぱなことはできないが、取りあえずノード同士でつながり、輪がひろがり、最終的にエンド・ツー・エンドの通信ができる。それがアドホック・ネットワークの可能性なのではないか。いまはまだ、未熟でニッチな技術に過ぎませんが、将来的に、条件が揃えば、ある程度今の通信インフラの下支えになることができるかもしれないと期待しています」(石井教授)

図3 一般的なポイント・ツー・ポイント通信のアドホック・ネットワーク
図3 一般的なポイント・ツー・ポイント通信のアドホック・ネットワーク(クリックで拡大)
図4 提案しているマルチ・ポイント・ツー・ポイント通信のアドホックネットワーク
図4 提案しているマルチ・ポイント・ツー・ポイント(MP2P)通信のアドホックネットワーク(クリックで拡大)

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