[スペシャルインタビュー]

KDDIのNGN/FMBC戦略を聞く(2):モバイルWiMAXで実現するFMC

2008/02/18
(月)
SmartGridニューズレター編集部

≪2≫モバイルWiMAXの具体的なサービス・イメージとは

■移動通信事業者は国際的に第4世代(4G)を目指していますが、一方でモバイルWiMAXが登場し、KDDIでは新会社でサービスを展開しようとしていますね。

安田 モバイルWiMAXはIEEE 802.16で作成された標準仕様をベースにして、WiMAXフォーラムという業界団体で必要な仕様を取り出してシステム・プロファイルを作成し、そうしてできた仕様が最終的にITUで第6番目の陸上無線インタフェースとして認められるというプロセスでした。これは、これまでのITUの標準化のプロセスとは異なるものでしたが、利用者の立場に立って、利用者のニーズを見ながら標準化が進められてきていることは間違いありません。

※ 用語解説
モバイルWiMAX:モバイルWiMAXは、IEEE 802.16標準規格をベースに、WiMAXフォーラムがネットワーク層やアプリケーション層に関する規定などを追加して作成したシステム・プロファイル(システム仕様)。

■KDDIのモバイルWiMAXの位置づけについて説明してください。

安田 有線系(固定通信)のブロードバンドでは、ADSLやCATV、さらにひかりoneに代表される光ファイバ(FTTH)などのアクセス系ネットワークにも力を入れてサービスを展開してきています。一方、無線系のワイヤレス・ブロードバンドについても積極的に取り組んできており、例えばモバイルWiMAXについては、その技術開発を5年前から進め、さらにWiMAXフォーラムにおいてはボード・メンバーの立場から、モバイルWiMAXのプロファイル作りに取り組んできました。(WiMAXとモバイルWiMAXの比較については、表2を参照)


表2 WiMAXの2つの規格(クリックで拡大)

■たしかにKDDIは、2006年に大阪でモバイルWiMAXの実証実験を行うなど先行して取り組んできています。2007年12月21日にはKDDI出資の新会社がモバイルWiMAX用に総務省から2.5GHz帯の全国バンド(30MHz幅)の割り当ても得ていますね。

安田 私がau技術本部長になったのは、約5年前のことです。そのころに、今後、移動通信と固定通信の中間にあるようなワイヤレス・ブロードバンドが必要になると考えて、au技術本部の中にワイヤレス・ブロードバンド開発部という部門を作りました。モバイルWiMAXのことを意識してきたのはそのころからで、WiMAXフォーラムに参加したり、モバイルWiMAXの技術開発や実証実験を行ってきました。

■なぜ、ワイヤレス・ブロードバンドが必要だと考えたのですか。

安田 豊氏(KDDI コア技術統括本部長)
安田 豊氏
(KDDI コア技術統括本部長)

安田 当時は、ワイヤレス(無線)・サービスはモバイルが中心でしたが、固定系からみますとワイヤレスの技術を使ってもっと通信範囲を広げたいと考えていました。また、モバイルからみますと、今のクローズドなケータイとはもう少し違う使い方ができるサービス、例えばワイヤレスで、高速にオープンなインターネットにアクセスできるというような使い方ができると便利であると考えていました。そこで、利用できるエリア(通信範囲:100m程度)が限られてきてしまう無線LANよりもモビリティ(最大時速120kmに対応)が確保されていて、さらに固定通信の延長としても使えるような技術(FWA:Fixed Wireless Access、固定無線アクセス)の応用ということで、ワイヤレス・ブロードバンドに注目し、開発を進めてきました。

また、当社は固定通信と移動通信の両方のサービスを提供しているため、固定通信と移動通信のつなぎができるような技術のひとつとしてモバイルWiMAXに注目したのです。

■モバイルWiMAXでの具体的なサービスのイメージはどういうものでしょうか。

安田 今回、2.5GHz帯の免許をもらった新会社が提供できるようになるモバイルWiMAXは、従来のモバイルとは違った使い方ができると思います。最初はパソコンやPDAなど向けのインターネット接続サービスの提供から始まると考えられます。

モバイルWiMAXの特長は、IEEE802というIP技術との整合性の高い組織で標準化されたこともあり、オープンなインターネットへのアクセスが得意な技術だということです。家やオフィスの中で、パソコンを使って、インターネットでいろいろな検索やサービスを自由に利用していますが、それを無線(ワイヤレス)でできるようになるのです。

どのような端末からでも、世界中のいろいろなデバイスが自由につながる、そういうオープンなプラットフォームを無線で実現するのはとてもチャレンジングなことだと思っています。そのためには、WiMAXの仕様もきちんと決める必要があります。また、端末の相互接続試験などの課題もありますが、目標としては、海外から持ち込まれたデバイスも、技術的には自由につながるようにしたいと思っています(図2)。

もうひとつは、インターネットにオープンにつながるので、オフィス内でパソコンで有線のブロードバンド回線を使う場合と同等のサービスを提供したいと考えています。また、提供料金の設定はユーザーにとって重要な問題ですが、料金体系はできれば定額で提供したい。ケータイの場合は、完全定額制にするとトラフィックが増大し、周波数の有効活用という面で難しくなってしまいますが、ワイヤレス・ブロードバンドであれば、電波の利用効率がよいため、オープンなインターネット・アクセスの接続でも、工夫次第で定額にすることもできるのです。

新会社はこのようなサービスを、2009年には提供できるようになるはずです。なお、先ほど第4世代(4G)であるIMT-Advancedのことをお話しましたが、IEEE802.16では、802.16mという規格の標準化が進められています。この802.16m規格は、IMT-Advancedといわれる4Gを目指す次世代のモバイルWiMAXのベース規格として位置づけられています。


図2 モバイルWiMAXのオープンモデル(安田氏資料より)(クリックで拡大)

>>「第3回:FMBCが描く放送と通信の融合のサービス像 」へつづく

プロフィール

安田 豊(やすだ ゆたか)

現職:KDDI(株) 執行役員 コア技術統括本部長

1975年 3月 京都大学大学院 工学研究科修了(電気系)
1975年 4月 国際電信電話(株)(KDD)入社 研究所 衛星通信研究室勤務
1984年 6月 インマルサット(本部:ロンドン)出向
1990年 7月 KDD本社 事業開発本部 移動通信室長
1994年11月 アステル東京出向(サービス開発部長など)
1998年 4月 KDD 本社 IMT-2000推進室長
2000年10月 KDDI(株)理事    移動体技術本部 モバイルIT部長
2001年 6月  同          技術開発本部   ITS推進部長
2002年 6月  同          au事業企画本部 サービス開発部長
2003年 4月  同  執行役員  au事業本部    au技術本部長
2005年12月  同          技術統轄本部長
2007年 4月  同          コア技術統括本部長

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