世界クリーン水素市場の投資総額が1100億米ドルに
「最終投資決定(FID)を済ませた建設中もしくは稼働中の500以上のプロジェクトに1100億米ドルの投資契約が締結された」—。そんな調査結果を掲載したレポートを、水素社会の構築を目指す国際的なイニシアチブであるHydrogen Council(以下、水素協議会)が発表した。2024年から350億米ドル増加したという。2025年9月9日に発表した。レポートは米McKinsey & Company, Inc.(以下、マッキンゼー)と共同で作成した。
2030年までに需要が最大800万トンに拡大
水素協議会は、2017年1月にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムで発足し、20カ国以上から約140社が参画している。同会がマッキンゼーと作成したレポート「Global Hydrogen Compass」は、世界における水素産業の進捗状況を調査し、まとめたもの。
同レポートによると、2020年以降に世界で発表された水素プロジェクトは1700件を超え、それ以前と比較して約7.5倍に増加した。一方で、過去18カ月で初期段階の再生可能水素ベンチャーを中心に約50件のプロジェクトが中止している。その多くは、スタートアップによるものだった。金利の高止まりや一部地域における政策の実行遅延など、ビジネスを取り巻く構造上の変化が影響を与えている。
供給面では、すでに約定された総供給力は年間600万トンを超え、そのうち100万トンは既に稼働している。事業遅延などのリスクを考慮しても、2030年までには最大で年間900万トンから1400万トンのクリーン水素が供給可能になると予測する。
これに対し、需要面では、年間360万トンの引き受けが確保されている。EU、米国、日本、韓国などの主要市場で政策が明確化したことにより、2030年までに需要は最大で年間800万トンに達する可能性がある。
最も総約定投資額が大きいのは中国で330億米ドル。特に再生可能水素の生産量は世界全体の50%以上を占めている。米国は、230億米ドルで世界2位につけている。世界の低炭素水素生産量での85%を占める。3位の欧州は190億米ドルとなっている。
CEOへのアンケートでは、回答したCEOの74%が「過去2年間の投資意欲は安定もしくは増加している」と回答。また、97%が「水素は排出量削減が困難な分野で重要な脱炭素ソリューションになる」と考えており、83%が「産業界の持続的成長につながる」と予測している。
水素協議会の共同議長で英Linde plcのCEOでもあるサンジーブ・ランバ 氏は、「この業界は過去5年間で大きな進歩を遂げたが、今が極めて重要な局面だ。市場創出を加速し、拘束力のあるオフテイク注1契約の確保を最優先すべきだ」と強調する。
注1:オフテイク契約(Power Purchase Agreement):特定の生産物(この場合は水素)を、将来にわたって定められた価格と数量で購入することを約束する長期契約。生産者側は安定した収益を見込めるため、プロジェクトの資金調達が容易になる。
参考サイト
水素協議会 プレスリリース 2025年9月9日、「2025年、クリーン水素市場では世界全体で500以上のプロジェクトに対して1,100億米ドルの約定投資を達成」