京都大学大学院情報学研究科の原田博司教授の研究グループと東京ガスは2017年3月13日、米国電気電子学会(IEEE)が策定したスマートメーター向け無線通信の仕様に準拠した無線通信技術を世界で初めて開発したと発表した。IEEEがスマートメーターの無線通信に向けて策定したMAC層のプロトコルである「IEEE802.15.4e RIT(Receiver Initiated Transmission)」に準拠した技術を開発し、試作機を使った通信試験に成功した。
図 今回開発した技術を実装した試作の無線通信機器
出所 東京ガス
IEEE802.15.4e RITは、IEEE802.15.4eで規定しているMAC層のプロトコルの1種。データ伝送時に電波を発信する時間を制限するなどの手法で、通信機器の消費電力を下げることを目指している。ガススマートメーターのように、15分に1回検針情報を発信する程度の使い方なら、単3リチウム電池2本で10年ほど動作し続けるという。
今回京都大学と東京ガスが開発した技術は、「F-RIT(Feathery-RIT)」と呼ぶもの。電池駆動で無線通信するセンサーを高い密度で配置しても、長期間に渡って安定して高い頻度で双方向通信を可能にする。電波の干渉に強く、伝送効率も高い。さらに、低消費電力の無線通信機器を低コストで開発できるという。例えば1件の住宅に100個程度の無線通信機器を配置し、それぞれが数分間に1回双方向で通信しても、個々の通信機器はボタン電池1個で2年ほど動き続けるという。ガススマートメーターの通信だけでなく、家電の制御にも応用できる技術だ。
IEEE802.15.4e RITは2012年にIEEEが策定したものだが、システム設計時に理論を解析する手法が存在しなかったため、具体的な通信手順の設計もできていない状態で、もちろん実機の開発に成功した例もなかった。今回はIEEE802.15.4e RITに準拠しながら、通信頻度が高くなっても通信効率の低下を最小限に抑える機能を追加したF-RITを開発した。さらに、RIT、F-RITのそれぞれに、システム設計時に理論を解析する手法を確立した。
また、F-RITの機能を実装した通信機器を試作し、この機器を複数台並べて、それぞれが発する電波が干渉し合う環境で通信実験を実施した。その結果、1つのアクセスポイントに対して最大で16の端末に通信させることに成功したという。
図 試作の無線通信機器を使用した通信実験の様子。1つのアクセスポイントに対して、16の端末が通信できた
出所 東京ガス
東京ガスはこれまで、電話回線を利用してガス設備に保安監視や、遠隔地からの遮断操作、自動検針などのサービスを提供してきた。現在は40万世帯にこのサービスを提供しているという。しかし、携帯電話の普及や光ファイバーを利用したインターネット接続回線などが普及し、すべての世帯で電話回線が利用できるとは言えない状況になっている。また、オートロックのマンションが増え、人手による検針もできない場合が多くなっている。東京ガスはガスメーターの通信機能として、電話回線に頼ることはもはや難しいと考えている。
そこで期待しているのが無線通信技術だ。しかし、ガスのスマートメーターは通信機能の部分に電力を供給することができない。電池で長期間稼働することが絶対条件になる。このような要望に応える低消費電力型の無線通信に向けたMAC層のプロトコルが、IEEE802.15.4e RITだが、先述の通りシステム設計時に理論を解析する方法が存在せず、通信頻度が上がると電波干渉によって伝送効率が低下するという問題があった。
京都大学と東京ガスが今回開発したF-RITは、以上の問題を解決した。無線通信機能を持つガススマートメーター実現に向けた大きな一歩といえる。京都大学と東京ガスは今後、今回開発した技術を活用したサービスを考案、開発し、普及させることを目指すとしている。