≪1≫中華電信(CHT):NGNサービスの開始と本格的なFTTHの展開
〔1〕中華電信のプロフィールと事業内容
台湾最大の通信事業者である中華電信(CHT:Chunghwa Telecom、チョンファ・テレコム、写真1。図1に組織図を示す。日本のNTTのような存在)は、図2および表1示すように固定電話サービス(ユーザー数:約1300万人)、移動(モバイル)電話サービス(約870万)、インターネット・サービス(ISP)などのフルサービスをバランスよく提供。ローカル・サービス(一般電話サービス)については、実に市場の97%のシェアを持っている台湾最大の通信事業者である。中華電信 経営企画部門 涂(ツー)處長(Yuan-Kuang Tu、涂元光氏:Senior Managing Director、写真2)と同ネットワーク部門の徐(シー)副處長(Ching-Chir Shyur:徐清棋氏)は、中華電信の企業プロフィールを紹介しながら、中華電信の今後の戦略を語った。
写真2
涂元光(Yuan-Kuang Tu)氏
(中華電信 経営企画部門 處長)
涂(ツー)處長は、中華電信は現在、光ファイバについては「現在、家庭までではなくFTTN/FTTB(Fiber to the Neighborhood/Building)という状況であるが、2009年から本格的なFTTH(Fiber to the Home)の敷設やサービスを開始し、2011年にはADSLと逆転させる計画である」と語った。FTTHは、当面は100Mbpsで、今後最大1.2Gbps~2.4Gbpsのサービスが提供される。
さらに、涂(ツー)處長は、中華電信(CHT)のNGNロードマップ(図3)を示しながら中華電信のNGN(次世代ネットワーク)とブロードバンドの進展状況を説明した。
中華電信では、ITUにおける標準化のペースに合わせて、3年前の2005年からNGN計画を推進し、まずユーザーに最も近い加入者系交換機を相互接続する中継交換機、すなわちクラス4スイッチ(図3のC4 SW※1)をSIP(セッション開始プロトコル)対応のシステムへ変えるテストを開始し、ついでユーザーの加入者回線と接続する加入者系交換機(図3のC5SW※1)のテストを行ってきており、すでにNGNサービスを提供できるシステム体制ができている。
こうした計画を背景に、2008年12月からSIPを用いたオールIP電話を台湾全土で一斉にNGNサービス(FMCを含む)を開始する。さらに2011年には、図3の上部に示すように、完全にIMS(IP Multimedia Subsisutem※2)によるNGNサービスへの移行を完了させる計画である。
用語解説
※1 クラス4スイッチ(C4 SW)/クラス5スイッチ(C5 SW)
米国のAT&Tによって定義された加入電話に関する交換機(スイッチ)の5階層の構造モデルのうちのクラス4とクラス5のスイッチのこと。クラス5スイッチ(加入者交換機)は、ユーザーに最も近い電話交換機で、加入者回線と接続される。クラス4スイッチ(中継交換機)は、クラス4の下位に位置するクラス5スイッチ同士を相互接続し、他の県などへ中継する交換機(長距離電話通信を実現)。
※2 IMS(IP Multimedia Subsystem)
音声やビデオなどのマルチメディア・アプリケーションを、IP(Internet Protocol)をベースとしたパケット通信ネットワーク上で、柔軟に提供するために、3GPPで標準化された仕組み。
≪2≫中華電信のWiMAX/LTE戦略
〔1〕活発化するLTEへの取り組み
一方、ワイヤレス・ブロードバンド「WiMAX」については、第1ラウンドの周波数オークションが終わり、2.5GHz帯の周波数割り当ては、図4、図5に示すように、中華電信や台湾モバイルなど大手のモバイル事業者を除く6事業者に6つの周波数帯(ライセンス)が割り当てられている。
(注:6つの周波数帯(ライセンス)については、下記のURLに示す当WBB ForumのNRIの村井氏の記事で詳しく解説されているので参照ください。
http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20081104/697
http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20081107/698
現在、台湾だけでなく国際的にモバイル通信事業者は、第3世代の3G(WCDMA)に加えて、3.5G(HSDPA)のサービスを提供し始めているが、さらに3.9GといわれるLTE(Long Term Evolution)に向かっての取り組みが活発化している。
このような背景の中で、中華電信 ネットワーク部門 徐(シー)副處長(Ching-Chir Shyur:徐清棋氏、写真3)は、「中華電信はWiMAXをあきらめていません」と強い口調で語った。
写真3
徐清棋(Ching-Chir Shyur)氏
(中華電信 ネットワーク部門
副處長)
〔2〕中華電信が「WiMAX」をあきらめない理由
たしかに、第1回目のWiMAX周波数オークションでは6つのライセンスが「台北に3事業者、台南に3事業者」に割り当てられたが、中華電信はライセンスを取れなかった。しかし、徐(シー)副處長は、これを「第1期」と見ている。「あきらめない理由」のひとつとして、このような状況下でも、中華電信は、全台湾の7ヵ所でWiMAX(固定WiMAX2ヵ所/モバイルWiMAX5ヵ所)のフィールド試験も行ってきているからだ。
さらに、徐(シー)副處長は、「中華電信がWiMAXをあきらめていない理由」の2つ目として、図4の2625~2660MHzの35MHz幅が空いていることを挙げた。このため、「もしこの周波数帯を南北に分けるのではなく、すなわち『地域割りなく全台湾で使用できる周波数帯』として割り当てられるなら、そのときこそWiMAXのライセンスをとりにいきたい」と、第2期の周波数割り当てに期待を表明した。
もちろん、徐(シー)副處長は、LTEとWiMAXの優劣の比較検討を今後とも続けていきたいと語ったが、台湾の最大手の通信事業者が、もしWiMAX事業に参入することになれば、世界のWiMAXサービスの展開に大きな影響を与えることになろう。
有線によるFTTHと、無線によるLTE/WiMAXを正面にすえた中華電信の次世代ブロードバンド戦略は、M-台湾計画の強力な牽引者であることを強く印象付けた。
≪2≫展示会場に見るWiMAX関連製品
2008ブロードバンド台湾の会場には、FTTH関連製品、LTE計測関連機器、無線LAN(802.11nなど)をはじめ多彩なブロードバンド製品が出展されていたが、ここではWiMAX関連製品を中心にレポートする。
[1]ZyXELブース
電気通信事業者、サービス・プロバイダや企業、個人ユーザー向けのブロードバンド・アクセス・ソリューションを提供する台湾の大手ベンダーであるZyXEL(写真4)は、MSAN(Multi-Service Access Node、マルチ・サービス集約機器)からWiMAX、FTTx、Metro Ethernetまで幅広く展示。WiMAXに関しては基地局からWiMAX CPE(ユーザー宅内装置)、WiMAX USBアダプター、WiMAX Express Cardなど多彩な製品を展示した。写真5は、WiMAX MIMO CPE Outdoor Unit(室外装置:写真左)とWiMAX MIMO CPE Indoor Unit(室内装置:写真右)。写真6は、複数のユーザーに対応するWiMAX MIMO Multiple-user CPE。写真7は、WiMAX MIMO USB Adapter(左)とノートPC用のWiMAX MIMO Express Cardである。
[2]TECOMブース
FTTxやWiMAXなどのブロードバンドの大手ベンダーであるTECOMは、WiMAX関連で充実した出展・デモを行った。
写真8はWiMAX Outdoor Modem(WM5030M-OD)で、すでにWiMAXフォーラムの認証試験「Wave2」に合格した認定機器となっている。写真9は、WiMAX Femto Cell Base Station(WM5060)。写真10はWiMAX Multi-Sector(4U)Base Station(WM5071:左)とWiMAX Multi-Sector(8U)Base Station(WM5070:右)である。
写真8、9、10ともIEEE802.16e-2005に準拠しており、2.5GHz帯/3.5GHz帯に対応、スケーラブルOFDM(SOFDM)を採用しTDD(10MHz幅)方式となっている。
[3]USIブース
USI((Universal Scientific Industrial、写真11)は、ブースの円形テーブルに、写真12のようにパソコンや電話機さらに固定WiMAX(Single MIMO)システムなどを設置し、これらを写真13に示すWiMAX 16e IAD Indoor CPE(IAD:Integrated Access Device Wi-Fi/VoIP機能も統合)に接続し、WiMAX基地局との通信環境を構築。これによって、WiMAX環境における音声/データ通信のデモを行った。USIブースではこの他に、WiMAX 16e USB Adaptor、WiMAX 16e Express Cardなども展示され、WiMAX関連機器の充実したラインナップをアピールした。
[4]JOYMAX Electronicsブース
アンテナの専業メーカーであるJOYMAX Electronics(写真14)は、Wi-FiおよびWiMAX関連の多彩なアンテナなどを出展。例えば、写真15に示すようなWiMAX用のIndoorタイプのいろいろなアンテナなども展示された。写真15の左のパラボラ型はスタンド型のアンテナ(6601シリーズ)、左奥の背の高いグリーンのアンテナ(4020シリーズ)および右側の奥の背の低いグリーンのアンテナ(4010シリーズ)はコーナー型のアンテナ(部屋の隅に設置)、手前右の円形のアンテナはセリング(天井設置型)・アンテナで、いずれも周波数は3.3~3.8GHz対応となっている(オーダーに応じて可変)。
[5]OPEK(AUTOTEK)ブース
WLAN/Wi-FiやWiMAX用アンテナの専業メーカーのOPEK(AUTOTEK)は、WLAN/Wi-Fi/WiMAX向けの多彩なOmni-Directional Antenna(全方向アンテナ)およびDirectional Sector Antenna(セクター・アンテナ)を出展(写真16)。これらは、2.4/3.5/5.8GHzの周波数に対応。また、2.3~6.0 GHzに対応するWLAN/WiMAX用のOmni AntennaやYagi Antenna、角度調整可能リフレクタ付きセクター・アンテナも展示した。
[6]その他WiMAXの認証試験関連製品
展示会期間中は、毎日のようにWi-FiやWIMAX関連製品などの発表が行われた。このように、台湾では、現実にWiMAX関連製品が続々登場してきていることもあり、WiMAXの認証・試験関連製品の発表は注目を集めた。会場では具体的な展示は見当たらなかったが、国際的企業であるBUREAU VERITAS(ビューロー・ベリタス) CONSUMER PRODUCTS SERVICES (H.K.) LTD., TAOYUAN BRANCH(台湾桃園支店)が発表した、WiMAX認証・試験関係サービスに関するプロダクトを表2に紹介する。
≪3≫取材を終えて
台湾における通信産業の国際的なビジネス・チャンスの拡大を目指して、光ファイバ(FTTH)とWiMAXによるブロードバンドにたいする国を挙げての取り組みは、想像以上のスピードと集中力で進展している。今回の「第1回2008ブロードバンド台湾」の取材を通して、いくつかの課題はあるにせよ、台湾が世界のブロードバンドの生産拠点になる日が近いことを実感させた。
今回の「第1回2008ブロードバンド台湾」に限ると、約100社(ブース数:300小間)が出展し、来場者も中国大陸をはじめ世界各国から多数のバイヤーが参加した。TAITRAの展示会場の責任者であるテディ・ション(Teddy Hsiung、熊正誼)氏(写真17右)は、「来年(2009年)は、台北で開催されるWiMAXフォーラム・メンバー大会(2009年10月26日~29日)に合わせて、「第2回ブロードバンド台湾」が開催される予定です。日本のメーカーさんからの出展やバイヤーさんのご来場を心から期待しています」と、日本からの出展・来場に大きな期待をアピールした。
最後になりましたが、今回の取材に当たり、日本でいろいろとお世話になりましたTAITRA(台湾貿易センター)東京事務所のリー・クワァンリ(Lee Kuanli、李 關吏)氏、および現地で中国語と日本語の通訳をしていただいたTAITRAのアリス・テン(Alice Teng、鄧素心)氏(写真17左)に、心から御礼申し上げます。
(終わり)
関連記事
<1>【台湾のブロードバンド事情】壮大なM-台湾計画に基づく国際戦略を聞く(その1)
<2>【台湾のブロードバンド事情】壮大なM-台湾計画に基づく国際戦略を聞く(その2)
<3>【2008ブロードバンド台湾レポート1】台湾政府が推進するWiMAX/FTTHによる新世代ブロードバンド(前編)
<4>【2008ブロードバンド台湾レポート<後編>】「中華電信」のNGNおよびFTTH/LTE/WiMAX戦略(後編)