AB-2514ができた背景:カリフォルニアで何が起こっているのか
〔1〕カリフォルニア州とCO2排出削減
米国のCO2排出量は中国に次ぐ世界第2位注2であり、カリフォルニア州は全米第2位となっている。全米第1位から3位までの州とCO2排出量(2012年)は以下の通り〔単位:100万メトリックトン。メトリックトン:メートル法でのトン(1,000キログラム)のこと〕。
- テキサス州:677Million Metric Tons
- カリフォルニア州:364Million Metric Tons
- フロリダ州:224Million Metric Tons
カリフォルニア州は日本の約1.1倍の面積で、人口3,769万人(全米第1位)、州内総生産額2兆ドル(全米第1位)の経済力をもつ。この州総生産額は世界第9位注3に相当し、ロシアやカナダを上回る経済規模となっている。したがって、米国の一州とはいうものの、気候変動政策は国レベルのインパクトをもっていると言える。
図1 カリフォルニア州のセグメント別CO2排出割合(2012年)
〔出所 米国環境保護庁データ(http://www.epa.gov/statelocalclimate/documents/excel/CO2FFC_2012.xlsx)より筆者作成〕
カリフォルニア州の気候変動政策の出発点は、CO2を2020年までに1990年水準まで削減する州法「AB-32」(Assembly Bill No.32)であり、その目標を達成するために各産業界に削減を求めている。同州のCO2排出の産業別内訳を図1に示す。これによると運輸(56%)が半数を占め、産業(19%)、電力(13%)と続く。一般的に先進国ではCO2の排出量は、運輸・電力・産業がそれぞれ1/3程度を占めるケースが多いが、同州では運輸の割合が非常に大きく、電力の割合が小さいのが特徴的である。
図2 カリフォルニア州の電源別発電量(2012年)
〔出所 米国エネルギー情報局データ(http://www.eia.gov/electricity/data/state/)より筆者作成〕
〔2〕カリフォルニア州の発電量と内訳
同州の発電量(2012年)は200TWh(テラワットアワー)で、北海道電力と関西電力を合わせた規模に相当する。電源別に発電量を見てみると、ガス火力が60%を占め、次に再生可能エネルギー(15%)、大規模水力(13%)、原発(9%)、石炭火力(1%)と続く(図2)。なお、再生可能エネルギーは大規模水力を包含するケースもあるが、後述する再生可能エネルギー導入割当制度(RPS:Renewable Portfolio Standard)では分けて定義しているため、本稿でも同じように扱うことにする。
全米全体では、石炭火力が約40%、ガス火力が20%を占めているため、同州がCO2を多く排出する石炭火力を極力利用しない政策であることが明確である。図1で示した通り、セグメント別CO2排出量において電力が13%と少ないのは、この脱石炭火力が最大の理由である。また、再生可能エネルギー15%、大規模水力13%の計28%は、環境先進地域であるEUが2020年までの達成目標としている34%注4にすでに迫る数値であり、電力部門での環境への取り組みは全米で断トツと言える。ただし、それにより電力部門は難しい問題を抱えている。この点について、次節で説明したい。
〔3〕再生可能エネルギーの導入と電力系統安定化
カリフォルニア州は、2002年に再生可能エネルギー導入割当制度(RPS)注5を導入し、州内の電力小売事業者に対して、一定割合の再生可能エネルギーの調達を義務付けている。電力小売事業者は大きく分けて、私営電力会社と公営電力会社の2つが存在し、地域独占で送配電網を保有している電力会社が電力小売事業する形態をとっている。現在の同州のRPS値(再生可能エネルギーの割合)は2016年末までに25%、2020年末までに33%とし、これは目標(Voluntary)ではなく、義務(Mandatory)となっている(図3参照)。この33%はという数値はハワイ州を除き、全米トップの値である。
図3 州別に見たRPSの導入状況(義務/目標、2012年1月時点)
〔出所 米国エネルギー情報局(http://www.eia.gov/todayinenergy/detail.cfm?id=4850)〕
特筆すべき点は、カリフォルニア州の再生可能エネルギーの定義には前述の通り、大規模水力は含まず注6、33%の達成とは大規模水力を加えた広義の再生可能エネルギーの割合を約50%にすることを意味する。再生可能エネルギーの導入先進国のドイツでさえ、2020年までに35%を目標としており、カリフォルニア州はそれを約15%も上回るアグレッシブな数値を設定している。現時点で、同州の取り組みは順調に進んでおり、下方修正するような動きは出ていない。
しかし、出力変動が大きい再生可能エネルギーの導入は、電力系統や電力バランシング(電力の需給調整)を不安定にする負の部分を生む。そこで、この変動を吸収する方法として注目されるのが電力貯蔵である。
〔4〕電力貯蔵の必要性
大量の再生可能エネルギーを導入すると、電力の需要と供給を一致させること(同時同量)が困難になる。例えば、自然任せで発電する太陽光発電を大量に系統に接続すると電力の需要と供給の一致が難しくなり、それによって電圧や周波数を規定値内に維持できなくなる。カリフォルニア州では、現在は主にガス火力の発電量(供給量)で電力需給を調整しているが、このまま再生可能エネルギーの比率を高めていくと、難しい局面を迎えることが予想される。この問題について、同州の電力系統運用機関(CAISO:California Independent System Operator)が図4の例を用いて紹介している。
図4 再生可能エネルギーの導入と系統電力の曲線(春:アヒル曲線)
〔出所 CAISO データ(http://www.caiso.com/Documents/FlexibleResourcesHelpRenewables_FastFacts.pdf)に筆者加筆〕
図4は、「ある3月の晴れた日」を想定した電力需要曲線であるが、8時から18時の日中は太陽光パネルが発電するため、その分、既存の発電所(系統電力)は出力を抑えた運転をする。系統電力の抑制は太陽光パネルの導入量と正の相関関係をもち、アヒルの背中のような曲線(アヒル曲線)となる。
一方、18時以降は日没のため、太陽光パネルの発電量がゼロとなり、系統電力を急に増やす必要がある。太陽光発電が普及する日中と夜の系統出力の差が広がり、2020年には13GWに達すると予想されている(アヒルの背中から頭の高低差)。この差の広がりは発電側にとって悪いことばかりである。火力発電は出力を下げられる限界値があり、それを超えると、車でいうエンスト状態となり、運転ができなくなる。また、火力発電は日中の稼働率が低下するため、経済的に厳しくなる。発電所を閉鎖しようにも20時頃の電力ピーク(アヒルの頭の高さ)は変わらないため、ピーク用として発電所を維持し続ける必要がある。
そこで、この問題に対して、電力貯蔵システムを用いて、日中の太陽光発電の一部を充電し、夜のピーク時に放電して解決しようとしている。つまり、電力貯蔵システムが普及すれば、ピーク用発電所が不要になり、経済面、環境面ともに改善されるというロジックである。
参考情報として、冬の系統電力の曲線は朝、暖房を利用することから、ピークが2つになるラクダ曲線となる(図5)。
図5 再生可能エネルギーの導入と系統電力の曲線(冬:ラクダ曲線)
〔出所 CAISO データ(http://www.caiso.com/Documents/FlexibleResourcesHelpRenewables_FastFacts.pdf)に筆者加筆〕
▼ 注1
Assembly Bill No.2514 Energy storage systems
▼ 注2
全国地球温暖化防止活動推進センター、http://www.jccca.org/global_warming/knowledge/kno03.html
▼ 注3
在サンフランシスコ日本国総領事館、http://www.sf.us.emb-japan.go.jp/jp/m08_06_01.htm
▼ 注4
最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合は20%と設定しているが、電力に占める割合に換算すると34%となる。
出所:http://www.ecn.nl/docs/library/report/2010/e10069.pdf、http://www.fondazionesvilupposos-tenibile.org/f/MATER-IALE/Renewable_Energy_Projections_Database_EEA.pdf
▼ 注5
http://www.cpuc.ca.gov/PUC/energy/Renewables/overview.htm
▼ 注6
大規模水力(ダム式)の効率改善によって発電された増分はRPS値にカウントされる。