電気を通すポリアセチレンとの出会い― 新型二次電池を求めていた電池業界、新しい負極材料の探索 ―
─リチウムイオン電池を最初に研究開発された動機はなんだったんでしょうか?
吉野:現在のリチウムイオン電池の研究のスタートは、32年前の1981年です。もともと旭化成は材料メーカーですので、新型の二次電池の開発をするという研究テーマではなく、純粋な材料研究としてのポリアセチレンの研究から始まりました。
これは2000年のノーベル化学賞を受賞された白川英樹先生が発見されたものですが、要するに電気を通すプラスチックです。ちょうど1980年頃、この材料が話題になっていました。プラスチックが電気を流すわけですから、非常に特殊な機能をもっているということと、また、太陽電池にもこのポリアセチレンが使われていましたから、場合によっては超伝導になるかもしれないということで、非常に話題になった材料だったのです。
─電池とは関係なかったんですね?
吉野:はい。一方ちょうどその頃、電池業界では、いわゆる新型二次電池が必要だということが言われていたのです。それはビデオカメラやノートPC、携帯電話などのポータルな電子機器の開発と本格的な普及に、充電可能な二次電池の高容量化や小型軽量化が叫ばれていたのです。
当時開発中であったニッケル水素電池や従来のニカド電池、鉛蓄電池などの二次電池では小型軽量化には限界があり、商品化が非常に難航していました。その理由は、新型二次電池に使う負極(マイナス極)の材料に問題があったのです。したがって、新型二次電池を商品化するには、新しい負極材料が出てこないと難しいということだったのです。
─新しく開発された電池はどのような特性をもっているのでしょうか。
吉野:現在、世の中にある電池には大体4種類ぐらいあります。1つは、一次電池か二次電池かということ、つまり、使い捨てか、充電可能なものということになります(表1)。もう1つは、いわゆるイオンを含んだ溶液、これを電解液と言いますが、これが必要なんです。
表1 電池の種類とリチウムイオン二次電池の位置づけ
従来の電池は電解液の溶媒が水で、これがいわゆる乾電池と言われているものです。二次電池としては、鉛電池、あるいはニカド電池などは全部水系の電解液です。
もともと電池の電解液は水を使うのが常識でしたが、水は、1.5V(ボルト)以上の電圧がかかると水素と酸素に電気分解するわけです。そうすると、電池を小型軽量化したいとなったとき、起電力の電圧を上げるというのが必須の条件になるわけです。
そうしないと小型軽量化が実現できないのですが、小型軽量化に水を使うのには限界があります。水でない電解液とは非水系の電解液で、この溶媒はいわゆる有機溶媒(例えばアルコールやガソリンなどのイメージ)なのです。ですから、小型軽量化を実現するために、燃えない水から燃える有機溶媒に切りかえざるを得ませんでした。そのなかで、非水系の電解液を使った一次電池については、小型軽量化での商品化は非常にスムーズに成功しました。
─金属リチウムが一次電池では安全性が安定していて、二次電池になると安定していないというのはどういう意味ですか。
吉野:一次電池の場合は充電しないので、最初金属リチウムを負極に入れます。この場合、ただ使うだけなので、まだ安全性は安定しているのです。これを二次電池に応用しようとすると、充電した際に金属リチウムが何度も何度も再生されるわけです。そうすると、固まりの金属リチウムと充電して出てくる金属リチウムというのは、小さな粒子がブドウみたいな形に寄り集まった形になるため、反応性がさらに大きくなってしまうのです。これが危険なのです。