PG&Eの経営破綻と気候変動
〔1〕気候変動による初の経営破綻企業
米国カリフォルニア州の電気・ガスを扱う大手ユーティリティ企業であるパシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー(Pacific Gas and Electric Company)とその親会社であるPG&Eコーポレーション(PG&E Corporation)は、2019年1月14日、日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条の適用を申請する準備に入ったと発表した。
この発表を受けてウォール・ストリート・ジャーナルは、1月18日付で“PG&E: The First Climate-Change Bankruptcy, Probably Not the Last”注2(PG&E、気候変動によって最初に経営破綻した企業、そして、これは最後ではない)という見出しのオンライン記事を発表した。
同社が正式に連邦破産法11条の適用を申請した1月29日の翌日には、日本経済新
聞注3が「PG&Eは気候変動という予期せぬ出来事の責任を問われており、債務やリスクの推定にはかなりの不確実性が残る」というカリフォルニア州レッドランズ大学のニコラス・レクステン教授のコメントを掲載している。
〔2〕なぜ気候変動(山火事)によって経営破綻したのか
気候変動によって経営破綻に追い込まれたというのは、どういうことだろうか。
カリフォルニア州では、近年、温暖化による乾燥が進んでいたことが原因で、大きな山火事が何度も起きていた。その原因の一部がPG&Eにあると指摘されている。例えば、2017年に起きた山火事のうち11件について、州当局はPG&Eによる送電線周辺の植生管理に問題があったことが原因だと判断している。
報道では、このような件に対応するための賠償金が300億ドル(約3兆2,400億円、1ドル108円換算)を超える可能性が出てきたことが、連邦破産法11条の適用を申請したきっかけだとしている。
〔3〕計画停電:2日間で2,808億円もの経済損失
経営破綻はしたものの、同社はその後もサービス供給を継続しているが、強風や乾燥などで山火事のリスクが高まった際、頻繁に計画停電を行っている。同社のサービス提供地域であるカリフォルニア州は、最先端のIT企業がひしめくシリコンバレーを抱えている。シリコンバレーは計画停電の対象からは外れていることが多いようだが、その他の企業や住民生活に与える影響は大きく、10月に計画停電を経験した地域の経済損失は、2日間だけで26億ドル(約2,808億円)にのぼったと推定されている注4。
このような状況を踏まえ、米国の格付け会社であるムーディーズ・インベスターズ・サービスは「計画停電の頻度が増すと、州や地方の自治体は経営活動の低迷による歳入減を経験するようになる」と指摘し、同州の格付けが下がる可能性があると発表している注5。
表1 SDGsの17の目標とその概要
写真 カリフォルニア州モンテシト周辺の送電線近くで発生した山火事の様子
PG&Eは早くからスマートメーターの設置を行うなど、スマートグリッドに先進的に取り組んでいる企業として知られている。また再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入も積極的に行っていることでも知られている。政治学者のアリエル・コーエン(Ariel Cohen)氏はフォーブスの記事注6において、2017年にPG&Eが再エネに約440億ドル(約4兆7,520億円)を費やしているのに対して、保守費用として15億ドル(約1,620億円)しか費やしていない点を写真付きで指摘している(写真)。
気候変動対策として再エネの導入に積極的だった同社が、気候変動をきっかけとする山火事で経営破綻するという皮肉な出来事が起きてしまった。
▼ 注1
SDGsとは?|JAPAN SDGs Action Platform|外務省参照。
▼ 注2
PG&E: The First Climate-Change Bankruptcy, Probably Not the Last - WSJ
▼ 注3
2019年1月30日付 日本経済新聞朝刊 11面「米加州の電力 破産申請」
▼ 注4
2019年11月21日付 日本経済新聞夕刊 7面「ウォール街ラウンドアップ 計画停電が映す「黄金期」の終焉」
▼ 注5
2019年11月1日付 日本経済新聞朝刊 7面「資本主義論争 山火事で再燃」
▼ 注6
Ariel Cohen、Part I: PG&E Gets Burned For California Wildfires