IEEE 802.15 WGの標準化活動
IEEE 802.15 WG (Working Group)は、IEEE 802委員会(LAN/MAN標準化委員会:LMSC)の下で、WPAN(Wireless Personal Area Network、個人用無線ネットワーク)の標準化を行っているワーキング・グループ(WG)である。
WPANとWLAN(Wireless Local Area Network、無線LAN)との違いは、WLANではアクセス・ポイントを使用する無線通信範囲が半径100m程度のインフラ系システムが主体であるのに対し、WPANは通信半径が約10m以下と狭く、必要に応じてその都度、限定的なネットワークを形成するアドホック型の無線通信システムのことをいう(アドホック型無線通信システム:基地局などを介さず端末間で自立的に直接通信を行うネットワーク・システム)。 WPANの主な標準規格としては、Bluetooth(802.15.1標準)やZigBee(802.15.4標準)などが一般に知られている。
ミリ波帯を使用する802.15 TG3系の標準
IEEE Std 802.15.3は、2003年6月に承認されたWPAN標準規格です。この標準規格は、802.11b規格の無線LANと同様、2.4GHz帯の周波数を使用し、伝送速度は最大55Mbpsとなっている。MAC(Medium Access Control、媒体アクセス制御)レイヤには、802.15.3 MACという独自の規格を採用しているが、この標準はこれまで目立った商用化実績がなく普及していない。
15.3系列では、3.1~10.6GHzのマイクロ波帯を使用する802.15.3a UWB(Ultra Wide Band、超広帯域無線)規格が、USB2.0のワイヤレス化を可能にする480Mbps以上の伝送容量をもち、その標準化により普及が期待されてた。 しかし、15.3aの審議過程で、最終的に絞り込まれた2つの提案方式を一本化できず、IEEE 802.15 WGでの標準採択に必要な出席者の75%以上の得票支持を確保することができない膠着状態が2年以上つづいた末、15.3aタスク・グループは標準化を断念し、2006年1月に解散、消滅した。
15.3cグループ は、ミリ波帯を使用するWPANの標準化を目的に結成された。Millimeter- Wave WPAN (mmW WPAN、ミリ波WPAN)と呼ばれている。 2003年7月にインタレスト・グループ(IG)が結成され、2004年にスタディ・グループ(SG)となり、2005年5月にタスク・グループ(TG)に昇格して正式な標準化作業が開始された。
60GHz帯で伝送速度2Gbps以上を目指す
IEEE802.15.3cの標準化
一般にミリ波は、マイクロ波に比べて直進性が強く、空間伝播損失が大きいという特性をもっている。とくに60GHz帯は、酸素分子の吸収線が存在するため減衰量が一層大きく、空間分割が容易であり、壁の向こう側や少し離れた場所での干渉の影響を軽減でき、同一周波数の再利用が容易になるなど、近距離屋内空間での高速通信に適している。しかし、60GHz帯のとくに屋内における無線伝播特性については計測データが少なく、十分に解明されていなかった。
そこで、現在ミリ波のWPAN標準化に向け方式提案要綱を作成中の15.3c TGでは、発足以来、提案に供される60GHz帯の屋内無線伝播モデルを抽出するため、多数のメンバーが最新データの収集と解析に協力してきた。
それら伝播特性の計測データをもとに、15.3c TGでは、15.3MACをベースにして、ミリ波帯を使用するPHY(Physical Layer、物理層:RF/無線ベース・バンド・モデム部)の規格化を行い、UWBよりもさらに高速な超ギガビットの伝送容量の実現を目指している。 実際に使用する無線周波数帯域は、60GHz帯の無線局免許不要帯を想定しており、この帯域は米国では57~64GHz、日本では59~66GHz(帯域幅は日米とも7GHz)が、既に認可されている。その他の国々、地域もほぼ同様な周波数帯域を割り当てる方向で検討されているようである(図1)。
現在検討作業中の性能要求案によると、指定帯域幅7GHz内で4チャネル多重を可能とし、1チャネルあたりの最高伝送容量2Gbps以上となっている。また、MACについても、15.3c PHY規格の実現に関連し、現行15.3 MAC規格との不整合な部分の必要な見直しも合わせて対応する方向で検討されている。
2005年12月に15.3c提案応募希望者を募った結果、世界から26件の応募希望が寄せられた。 2006年5月現在、15.3c TGの今後のスケジュールは、次の通りである。